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[5/24 19:25] 「ケイ」

徒歩で20分くらいだろう。

俺は七尾診療所へとたどり着いた。

親父には悪いが相変わらず何度みても、小さい診療所だなと思ってしまう。


「親父の奴、無事に逃げてくれているならいいんだけどな…」


向かっている途中に電話を掛けたが、唯と同様でまったく繋がらなかった。

心配したが、俺の親父の事だ。あの傍若無人はそう簡単には死なないはずだ。

音を立てずにゆっくりと足を忍ばせて、俺は診療所へと入っていった。

テロリスト達のせいだろうか…。

電気も壊されていたのか、明かりがついていなかった。

そのため、周りがよく見えない。

俺はウェストポーチからペン型のライトを取り出して、周りを照らしてみた。

一条の細い光が辺りを照らし出す。

俺の予想通り、テロリスト達はここに来たのだろう。診療所内は荒らされており、そこら中に患者のファイル等が散らばっていた。

さらにライトで周りを照らしてみる。

すると診療所内の受付の壁側に血糊がべったりと着いているのを発見して、それを手で触ってみた。


――…まだ新しいな。


もしかしたら、この診療所内に生き残っている誰かがいるのかもしれない。

最悪の場合にも備えて、俺は銃を抜き取って構えながら、廊下を進んでいく。

奥に進むたびに不気味な雰囲気が漂っているように思えた。

俺は周りに集中しながら、音を立てずに慎重に奥の方へと歩いていく。


「くそ…意外に広いな…」


外から見たら小さく見えるのに、実際に中に入ると広く感じてしまう。

暗闇で周りがあまり見えないからだろうか。それとも、爆発寸前までに緊張しているからだろうか。

多分、答えは二つとも正解だ。


――くそ…、せめて電気さえ着けば、行動しやすいんだが…。


だんだんとペンライトの光も弱まっていく。

電池がもうそろそろ切れてしまうのだろう。

そんな事が幾つも重なり、俺は少しずつだが確実に焦ってきていた。


パタンッ!



――…なんだ?


ふいに背後から、ドアが閉まる音が聞こえて振り返ってみる。

見ると、さっきまで開いていた正面玄関のドアが閉まっていた。

正面玄関のドアがいきなり閉まった事に違和感に思い、俺はその方角へと進もうとした。

そして、初めの一歩をした時に足元近くに銃弾が1発、当たった。

それも消音だったので気付くのが遅れてしまった。


「なっ!」


いきなりの事体に俺はびっくりするが、体を動かして近くにあった部屋に飛び込んで身を隠した。


「――くそ…サイレンサーか!」


運が良かったためにさっきは当たらなかったが、この暗闇の中、消音だと相手の位置が読めない。

俺はすぐさま、敵に気付かれぬようにペンライトの明かりを消した。

敵の姿は一瞬だけだが、見えた。

…迷彩の服を着ていたのだ。間違いない、テロリストだ。


――…相手もかなり考えてやがる。


敵の銃がサイレンサー装備だと、俺の方が圧倒的に不利だった。

ましてや、この暗闇の中だ。敵の数も何人か特定できていない以上、迂闊に飛び込むことすら危険行為だ。


――…どうする。


このような死の隣り合わせの状況の中、さっきまでペンライトの明かりが消えてしまいそうなだけで焦っていた俺が、今では気分が酷く落ち着いていた。

どうしてかは、自分でもよく分からない。

相手の足音が微かだが、この部屋に近づいているのが聞こえてくる。

汗ばむ手をギュッと握る。

手は震えていない。…大丈夫だ。


――…来るならこい、テロリスト!


俺は棚の影に身を潜めると、敵が部屋に入りこむのをじっと待った。


ガチャッ!


テロリストがガラスか何かを踏んづけた音が部屋内に聞こえた。

その音が合図となり、俺はテロリストに向けて銃を発砲した。


バン!! バン!!


二度、銃声が部屋内に鳴り響く。


「………」


テロリストは無言で床に倒れこむ。

俺はすぐさま、生死を確認する。


――血が出ていない? …まだ生きているのか。


一瞬、トドメをさしておくべきかどうか迷ったが、こいつには聞きたい事が山ほどあった。

身体を調べてみるとテロリストは防弾服をきていた。

どうりで、腹部に2発当てたはずなのに血が出ていないわけだ。

まぁ、あの至近距離で弾を2発連続で食らったんだ。さすがにもう抵抗はできないだろう。

俺はペンライトを点けて、テロリストが被っていたマスクを剥ぎ取り、顔を確認した。

そして、すぐにテロリストの顔を見て驚いた。


「う…ぅ…」


「…女…?」


マスクを被っていてわからなかったが、明らかに女の顔だった。

それに髪も長い。

しかも、顔つきから見て、俺とそうあまり年が離れていないように感じる。


「っと…危ない」


思わず、その顔に見とれてしまい、少女がテロリストだった事を忘れるところだった。

とりあえず、俺は少女を拘束した。

そして、少女が目を覚ますまで、俺は周りに他にテロリストがいないか、探索を再開した。






それから、20分。

結局、この診療所内にいたテロリストらしき人物はこの少女だけだった。

また、診療所内には生存している市民が他に誰もいなかった。

安心したのは、親父の死体がなかった事だ。


――…親父の奴、一体どこにいるんだ?


それに唯の事も未だに気になる。


「…くそっ」


「ん……」


壁越しにもたれて、気を失っていた少女がようやく意識を取り戻し、俺は話しかける。


「やっと目が覚めたか…」


「ッ!」


少女は自分の状況に素早く気付いたのか、拘束されていた手足を解こうとする。


「無駄だぜ。思いっきり強く結んだんだ。そう簡単には解けねえさ」


「…チッ」


舌打ちをして、少女は俺を睨んだ。

俺はその目を見据えて、少女に質問する。


「キミに聞きたい事がある。まず、キミはテロリストだな?」


「………」


少女は沈黙する。


――…なるほど。


どうやら少女は何も話す気など、まったくないらしい。

やれやれと、俺は首を傾げる。


「あまり、荒っぽい方法は使いたくないんだけどな…」


俺は少女へと銃を向ける。


「教えてくれないか? キミはテロリストなのか?」


銃を向けられたからだろうか、今度は黙って俺の質問に頷いた。


「なら、次に…。キミの名前、年、職業は?」


「……近江未央。年は18歳。職業は……軍人」


「……なるほど」



――…まさかとは思ったが、やはり軍人だったのか。


俺は顔にこそ驚きを見せなかったが、内心では意外に驚いていた。


――…なら、この騒動はニュースでやっていた通り、銃の強盗事件を起こした犯人グループによるテロとなるな。そうすると、テロリスト達は正規の軍人…か。


そんな相手とサバイバルするとなると、不安を感じられずにはいられなくなる。

さすがの俺も、相手が軍人となると正直、脱出できるかさえ怪しくなってくる。


「…どうしてこの市をテロの標的に選んだ?」


「………」


未央はその質問には答えなかった。

いや、答えられなかったという方が正しいのかもしれないと俺は思った。

見た感じ、未央は一卒の兵士だ。

さすがに、そこまでは詳しく知らないのだろう。


「なら質問を変えるよ。何故、キミはテロ行為に参加したんだ?」


「………命令だったから」


「…誰の?」


「……橋本菊葉大佐」


「なっ!」


その名前を聞いて俺はまた驚いた。

橋本菊葉大佐と言えば、大塚市の自衛隊軍基地の司令官だ。

よく、軍事等のニュースでもテレビに映っている。

この県内ではほとんどの人が知っているだろう。


――…だが、何故だ? そんなテレビに出て、大勢に知られている人が何故こんな馬鹿げた行為を…?


俺が思考を巡らしている間に少女は続けて言う。


「……家族が人質にされて…。逆らえなかった。無事に作戦が成功したら、解放してくれるって…。だから…!」


その言葉はさっきまでとは違い、感情が籠もっていた。

しかし…。


「だから、人を殺したのか?」


「……ッ!」


痛いところをつかれたのか、少女は黙り込む。


「とにかく、そっちの状況も大体わかった…」


「……私をどうするの?」


「…どうするって――」


「……もう用済みでしょ? …殺して」


「なっ…!」


未央の口から意外な言葉が出て、俺は動揺する。


「私は作戦を失敗してしまって、なおかつ敵であるあなたにテロ行為の内容を教えてしまった。…私の服には盗聴器が仕込まれていて、今までの会話は全て本部に筒抜けなの…」


「キミ…なら、なんで!」


「言ったでしょ? 失敗をした時点で家族は殺されるって…。既にあなたに銃で撃たれた時にゲームオーバーだったのよ。なら、別に私が知っている事を全て話しても結果はどの道一緒よ」


「………」


いつの間にか、未央の目からは涙が溢れていた。


「さぁ…撃ちなさい。その銃で私を殺して!」


「くッ!」



パチンッ!


俺は無意識の内に未央の頬を引っ叩いていた。


「ぁ……」


「馬鹿な事を言うな…」


怒りがぎしぎしと沸いて来る。

それは自分でも抑え切れない程の怒りだった。


「それで…、自分が死んで殺した者達の罪を償えると思っているのか? ふざけるな!」


「…なら、どうすればいいのよ。もう、私には生きている価値なんて…――」


「殺した人達の分もキミが生きるんだよ! それにまだキミの家族が殺されたって確定している訳じゃないんだ。最後まで諦めるな!」


「……そう…ね」


未央は力無い声で答えた。


――…しまった!


俺もつい感情的になりすぎて、勢いが止まらなくなっていた。

今の俺の言葉で彼女を傷つけてしまったかもしれない。


――…家族が死ぬかもしれない状況で俺はなんて酷い事を言ったんだ…。くそッ! 俺の馬鹿野郎!


罪悪感が心に生まれ、激しく後悔する。


「……ねぇ」


未央から声がかかる。


「何?」


「あなたの名前、教えてもらってないんだけど…聞いていい?」


「あ、…ああ。俺の名前は…“ケイ”。七尾桂だ」


「ッ! ……そう。…良い名前だね」


その“ケイ”という名前を聞いた途端、また未央の表情が暗くなっていくのを俺は気付けずにいた。

 

七尾 桂


[所持品]

・ベレッタPx4 [18発]

・ベレッタPx4 マガジン(2)


[]内は弾数。

()内は所持数。



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