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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
貴族社会へ殴りこみ編
61/210

該当者は最大68人に及ぶそうですの

ミレーゼ様、いつのまにかマネージャー化。




 『青いランタン』の稼ぎ頭を貴族社会の女性方にご紹介してから、時は早いもので早々と1ヵ月が経過致しました。

 あのお茶会の後、彼らをメインとした朗読会や演劇鑑賞会などの交流会を週に1回、多い時で2回と開催を試みております。

 そうする内に目をかけた少年少女を自分が主催する会に招きたいと思う貴族が現れ、噂はより多くの方の耳目に触れていくことに。


 身よりも後ろ盾もない子供として食い物にされないよう、わたくしとて無力な子供ではありますが、エルレイクの名を表に出して予防線としております。

 エルレイクの名は一種のブランドであり、そして社会的な信用を集めやすい記号として今でも有用です。

 彼らを庇護し、彼らの代表としてわたくしの名前を使用していただいております。何か招かれた先で不都合や不利益を被りそうになった時、わたくしの名前を出して回避出来るよう、その自然なやり方を『青いランタン』の子供達には周知徹底させました。

 わたくしの名前を使って厄から逃げられるのでしたら、いくらだって使って下さって構いませんもの。

 使えるものは使わなくては。

 手段に躊躇できるほど、わたくしには余裕も余力もありませんもの。


 彼らの存在はわたくしにとって生命線そのもの。

 1人でも被害が出て食い物にされるようになれば、横の繋がりの強い貴族ですもの。彼らの存在は『そうしても良い』ものとして認識され、他にも大きな被害が及ぶことでしょう。 

 そうなってはわたくしとて共倒れは避けられません。

 何より1番痛手となるのは、彼らが安っぽい存在として投げ捨てられること。

 そしてわたくし自身に協力する旨味のない存在とピートに判断され、協力関係を解消されてしまうことです。


 未だ、わたくしの足場は不安定なまま。

 ですが少しでも安定を求め、安全や平穏を手に入れるため。

 いま、ピートに見限られる訳には参りませんもの。

 ピートも義理堅い方ですし、1度や2度の失態で見限るような方ではありませんが…失態の規模を、頻度を、わたくしの予想のままにできる筈がありませんもの。


 ピートは『青いランタン』の立派な頭目です。

 わたくしと仲良くはして下さいますが、まだ少年の身で配下に対する長としての自覚は目を見張るものがあります。

 あの年齢で、そこまでの覚悟と責任があるのかと。

 もしも己の守るべき配下達の安全を図るため、わたくしとの絆が逆に不利益に作用するとなれば、彼はきっと簡単にわたくしのことを切り捨てるでしょう。

 頭目として自覚がある分、彼が最優先するのは『青いランタン』の現在と未来。

 それを前にして、わたくしの優先順位度はそこまで高くない筈です。

 わたくしとて、わたくしの守るべきモノと比べた時、『青いランタン』を優先すると本心からは申せませんもの。

 ピートと、わたくし。

 互いに互いの守るべきものがあり、それを最優先に考える。

 そして協力者や利害関係に比重を重く置こうとも、それで迷いはしない。

 選ぶべきものを選ぶ時に迷わず、1番大事なものが何かをしかと心に刻んでいる…そういう点では、きっとわたくしとピートが最もよく似ているのでしょうね。


 だからこそ、わたくしは自分によくよく言い聞かさねばならないのです。

 『青いランタン』はわたくしに与えられたモノではなく、あくまでも協力者(ピート)から委託されたモノ。

 返す時には無傷で、少しの不都合もない様に。

 彼らの内、1人でも再起不能に陥れば…その時が、縁の切れ目。

 この閉塞感に支配された貴族社会で庇護されるだけの身となり果て、自分が動かすことのできる手段を全て失う。

 そうして、わたくしは大人の思惑に動かされるだけの『人形』と成り果てる。

 そう覚悟を決めて、常々己に言い聞かさねばならないのです。

 実際にそうなりそうになった時、打てるだけの手を打って状況を回避することができる様に。決して、『青いランタン』を失わないように。

 

 『青いランタン』という名は伏せているものの、わたくしミレーゼ・エルレイクが主催する集団として彼らの存在は徐々に認知されつつあります。

 何かしらの余興などで彼らを借り受けたい方がいらした場合は、決して個人で依頼を受注などしないようによく言い含めてあるので、今のところ個人間で密接になり過ぎている方はいないようですが…

 仕事の依頼に関しては承認受諾の全てをわたくしが取り纏めることにした結果、毎日のように沢山のお手紙を受け取ることになりました。

 その手紙も、彼らが動きまわる都度、日に日に量を増していくようです。

 現在では、日に30通近く受け取る日も有るほどですもの。

 中には夜の会…晩餐会や舞踏会への招待状も混じっていて、成年前の子供を夜の会に招くのかと呆れてしまいます。

 …情報収集、人脈確保という点では、昼とは比べ物にならない場所ではありますけれど。ですがそのような場に出しては、子供であるのに夜会にも応じる迂闊さに付け込まれかねません。

 彼らの存在を落とすことなく周知させようと思うと、ままならないことも多く疲労を感じます。

 今はまだ状況を見定めているところなので、ブランシェイド伯爵夫人が監督できる場以外に彼らを出したことはありませんが…

 噂を聞きつけた方や、彼らの存在に魅了された方が「是非、我が家の会でも」と何度も手紙を下さるのです。

 ブランシェイド伯爵夫人の主催する昼の会か、彼女が赴いた先への供としてしか現れない少年達。

 当然ながら、未だ彼らの存在に接することが出来る方は僅かなもの。

 それでも確実に、彼らのシンパは増えています。

 そう、増えているのです………。

 ………彼らの浸透ぶりに、空恐ろしさを感じつつある今日この頃。

 彼らの信奉者(ファン)から届いた貢物で、部屋が1つ埋まりそうです。

 ……………伯爵様にお願いして、もう1室お借りしなくてはならないかしら。



 『青いランタン』への仕事をどう纏め、引き受けるにもどのような基準を設けて選別するか…安売りは以ての外ですが、彼らに関心が集まっている時機を外して興味を失われては元も子もありません。

 どうするべきかと雑事に思い悩む癖が、定着しつつある頃合い。

 ミモザが笑顔で『報告』を持って来たのは、そんな時でした。


「ミレーゼお嬢様、あの『紋章の指輪』のことがわかったよ」


 あっさりと、軽くそう言って。

 伯爵夫人の招かれた園遊会にて己の存在や配下のアピールを目的に動き回っていたはずの少年は、わたくしが最も欲している情報を軽がる手に入れてきたのです。


「それは…アンリが見たという、あの紋章に関して、ですわよね?」

「それ以外に何があるのか、僕には見当もつかないけど?」

「………話して聞かせていただいても、良いかしら?」

「ふふ…そう言うと思ったよ」


 微笑ましいと、目を眇めて。

 わたくしの頭を遠慮のない手つきで、撫でながら。

 ですがミモザは、こう続けました。


「だけどあの『指輪』、ちょっと持ち主の該当者が多過ぎなんだよね」

「……は?」


 いけません。

 …うっかり、間抜けな声を漏らしてしまいました。

 ですが、ですがミモザ…。

 貴方いま、何と言いまして…?


「あの指輪さ、最初はどこかの家紋かと思ったんだよね。いや、それも間違いじゃないんだけどさー…」

「………それで、何人ですの?」

「最大、68人かな」

「どうしてそんなにいらっしゃいますの!?」


 そんなに多くの方が、身につけている…?

 繁栄し、一族の人数が多い…ということでしょうか。

 ですが68人は1つの家族というには多すぎます。

 本家だけでなく分家も入れて…?

 そもそもそんなに繁栄している家であれば、家紋も知れているでしょうに…


「ですがやはり、68人というのは…どうして、そんなにいらっしゃいますの」

「年に2人、増えてく仕様だからかな?」

「増える? 年に2人?? 仕様???」

「もともとはこの指輪、他国から帰化した貴族の家紋だったらしいんだけどさ」

「まあ、見慣れないと思いましたけれど…やはり他国由来の紋章ですのね」

「そう。だけど帰化した折に、当時の国王陛下…先々代の国王陛下に、この国の貴族として新しい紋章を与えられたんだって」

「なるほど。そうすることで我が国に帰属したことをより明確化しようという取組みですわね。由来を捨てるというのは辛いものがありますが、我が国での再出発を象徴して…ということでしょうか」

「そこらへんの難しい意味なんて知らないけどね。なんかそんな経緯で、元々(こっち)の紋章は使わなくなったんだってさ」

「新しい紋章を与えられましたのに、昔の紋章に固執していると捉えられては国王陛下が要らぬ疑念を覚えてしまわれるかもしれませんものね」

「だけど私的に楽しむアクセサリーとしてなら、名残が残っていてもお目溢ししてもらえるだろ…ってことかな」

「ですが、68人………その方は新事業としてアクセサリーのデザイナーでも始められたのかしら?」

「いや、それがさ…」

「??? なんですの?」

「女性の世界じゃなくて、貴族男性の一部の間に普及しているマイナーな紋章だから、貴族のご婦人方から貴族社会に接触した僕らも紋章の出所を探るのに手間取った訳だけど…」

「男性社会の、一部…」


 少し、気まずそうな顔で。

 ミモザは目をそむけながら答えました。


「この紋章…チェス愛好家を集めた紳士倶楽部が主催する、半年に1回のチェス大会。その、優勝者に贈られるものらしいんだよね…」


 帰化する以前、この紋章を使用していた貴族家。

 件の家の当主が主催する、紳士倶楽部。

 つまりは1度ならず当の紳士倶楽部が開催するチェス大会で優勝した何方かが、わたくしの家を陥れたということ、ですが………


「この倶楽部でチェス大会が開かれるようになってから、34年…。指輪の持ち主に該当するのは、最大68人。だけどその詳細を記したリストは………多分、その紳士倶楽部にしかないんじゃないかな」

「なんてこと…」


 紳士倶楽部。


 紳士、倶楽部…。


 つまりは成人済みの、大人の男性貴族にのみ開かれた秘密の集まり………。


 女子供しかいないわたくし達で、一体どう探ればよろしいの…!?



 どうしたものかと、頭を抱え。

 わたくしは『敵』を知ってから最大の壁に相対している気が致しました。





さて、ミレーゼ様が頼るお相手は…!?


 a.エラル様

 b.ブランシェイド伯爵

 c.ピート

 d.アンリ

 e.ろんろん

 f.クレイ

 g.アロイヒ



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