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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
漂浪編
6/210

兄が残念なおしらせ

あ、あれ…ブックマーク登録、1000件突破?

かつてない登録数とアクセス数に動揺しているのですが……


コメディーと銘打っておきながらの、主人公の詰みっぷり。

どうも方々にご心配おかけしているようで申し訳ありません。

詐欺じゃありませんから、これからコメディーになる(予定)ですから!

 神妙な、改まった口調でエラル様が仰いました。

 頭痛を堪えるような顔で、真っ直ぐにわたくしを見てのお言葉です。


「残念なお知らせが有る。それを伝えなくちゃならない」

「残念、ですか…?」


 まあ…

 両親を亡くし、屋敷を失い、財産がなくなり。

 ついでに兄に見捨てられた、わたくしとクレイ。

 この上で何か、より残念なことがあるというのでしょうか。

 最早夢も希望も潰えたといっても、誰も笑わないような状況です。

 わたくしにとって執着するのは、もう弟のことだけ。

 その状況で残念と言われてしまいますと……


「ねえしゃまぁ?」

「ああ、クレイ…」


 わたくしは、不安を感じたのでしょう。

 どうしようもなく、何かを腕の中いっぱいに感じたくなってしまって。

 エラル様の膝に乗り上げていた弟を強引に引き寄せ、ぎゅっと抱きしめます。


「あ、…済まない。不安にさせたか」

「エラル様、どうかはっきり仰って…何があると」

「あー…君達に直接どうこう、ということじゃないんだが……」

「まあ、驚かせないでくださいませ」

「立ち直り早いなっ?」

「わたくしと、クレイの身に降りかかることでなければ恐るるに足りませぬ。

それで、残念なこととは何ですの?」

「あ、ああ…先程、家屋敷に財産、領土の全てをアロイヒが手放したと言ったね」

「ええ、相違ありませんわ」

「そうか………」


 そう言って、言い難そうなお顔をなさるエラル様。

 微妙というのでしょうか、この表情。

 首を傾げるわたくしと、クレイを驚かさないようにという気遣いでしょう。

 エラル様は、慎重なほどにゆっくりと語りました。


「貴族の所領というものは、正確には『個人の土地』ではなくて、ね?」

「はい」

「あい!」

「その、国王陛下より国家の領地を『預けられ、管理している』という扱いで…」

「……………」

「あい!」


 ああ、どうしましょう。

 話の先が見えてしまいました。

 ええ、ええ、言い辛く思われるのも仕方ありませぬ。

 口篭るのも不可抗力でしょう。

 これは、拝聴する姿勢を整えてしっかりと聞かねばなりませぬ。

 わたくしは元気にお返事を繰り返す弟の口を手で塞ぎ、話の先を待ちました。


「許可なき領地の転売は………国王陛下に対する、重罪となる」

「まあ…っ」


 思わず、わたくしは両手で口を覆ってしまいました。

 ああ、なんということ。

 我がエルレイク家からこんな恥を出してしまうなんて…!


 そう、エラル様の、このお言葉。

 それは……



 阿呆だ、阿呆だと見下げ果てていた兄の、罪人宣言でありました。


 ……いつか、何かやらかすとは思って覚悟いましたが。

 それでも、実兄が咎人とは中々受け入れ難い事実です。


 あら、でも待って下さい?


 普通なら、ここはショックを受けるべきところなのでしょうが…

 そう、心に深い傷を受けるべきところですわよね?

 わかっています。

 わかって、いますが………


「でも、わたくし達、見捨てられましたし」

「あう! しゅーちゃ!」

「実質縁切り成立状態ですし、思っていたほどのダメージはないような…?」


 何といいましょうか。

 今更。

 まさにそういうべき、そんな言葉が胸をよぎってゆきました。

 自分でも驚くほど、心理的な打撃が少ないのですけれど?

 本当に、吃驚(びっくり)するくらい平気なのですが。


 考えるまでもなく、罪人の身内というのは瑕といっていい状況です。

 わたくし達も、兄が罪人となっては影響を及ばされずにいられないでしょう。

 それこそ虐げられ、差別されても仕方のない事態。


 ですが、わたくし自身でも驚くほどに。

 頭には、「いつか何かやらかすと思った…」という感慨しか湧かないのですが。

 そうして受ける影響も、不利な事態も。

 本当に、今更としかいいようがありませんでした。


「あ、あれ…? ミレーゼちゃん?」

「わたくしの兄は、阿呆ですもの……いつか、こんな日が来ると思っていました」

「あの阿呆は、実妹にも既に見放されているのか………」

「ええ、残念ながら。わたくしと致しましては、お父様達が生きている内にわたくしと同じ境地に至って下さらなかったことが…あの阿呆兄を見放して廃嫡して下さらなかったことが、残念でなりませぬ」

「侯爵閣下ご夫妻は、善良な方だったから…アロイヒも、今まで辛うじて問題は起こしていなかった………いなかったよな? いなかった、として。いきなり理由もなく長男を廃嫡は出来ないだろう」

「ですが、もっと早くわたくしかクレイを跡継ぎに指名してくださっていれば、少なくとも没落は免れましたわ。指名さえしていただけていれば、親戚の何方かが後見に立ってくださったはずですもの。………その結果、家を乗っ取られでもしたら意味がありませぬが」

「ミレーゼちゃんもクレイ君も、まだ幼いからなぁ…」


 そうですわよね。

 わかっています。

 わかっていますわ…

 私達のような幼い者を前面に押し出しても、食い物にされるだけ。

 ですが幼くない兄が食い物にされた(推定)場合、どうしたものでしょう。


「まあとにかく、爵位に付随する国家領地を無断で転売したアロイヒと、買い取った者両名に咎が及ぶ…という訳で、追求の為に捕縛命令が下ると思う」

「まあ、それでは兄は指名手配犯として追われるわけですわね」

「ああ、追われる訳なんだ」

「それは、何といいましょうか………」


 ああ、これは確かに残念なお知らせです。

 わたくし達にとって残念なお知らせ、ではなく。

 兄()残念なお知らせでしたのね。


「とりあえず、わたくしの方は問題ありませんわ。むしろ遠慮や容赦は無用です。

――何が何でも構いませんので、とっとと捕獲していただいてよろしいですか?」


 兄が追われること。

 兄が罪人として捕まること。

 肉親として、恥ではあります。

 でもそれ以上の感情が、綺麗さっぱりありません!

 薄情だと何だといわれようと、構いませんわ!


 わたくしはむしろ、清々しい気持ちでお願いいたしました。


「とっととあの阿呆兄を捕まえてくださいませ!

あの阿呆、全て持って逃げてしまいましたの!」

「ああ、任せてくれ。今夜中にでも早急に、本当に迅速に手配するから!」


 兄という阿呆に、振り回された同士。

 わたくしとエラル様は、互いにがしっと強い力を込めて握手を交わすのでした。




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