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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
貴族社会へ殴りこみ編
58/210

これ、メイドさんは見た…!とでも言うのかしら(byレナお姉様)

今日はレナお姉様視点で、舞台裏…が。


*時系列は前回の丁度続き、5分後くらいになります。



「アンタ達、出番よー………って、なにやってんの?」


 ミレーゼのGOサインにより、演劇馬鹿どもを呼びに来た私は見た!

 ………控室に与えられた、部屋の中。

 演劇馬鹿どもが部屋一杯に広げた、何かの紙を一心不乱に読んでいる…。

 一体、なによ?


 どうやら部屋に入ってきたあたしにも気付いていないみたい。

 …ノックくらい、するべきだったかしら。

 

 困惑の眼差しを注いでいると、1人気付いてほてほてと寄って来たのは犬おと………ごほんっ ルッコラだった、ルッコラ。


「ああ、レナか」

「ん? アンタはあいつ等のお仲間に入らなくて良いの、ルッコラ」

「どうにも、僕には性に合わないもので」

「あいつ等、何やってんの?」


 問いかけたら、こんな返事がやってきた。


「パターン別行動シミュレート表と、それに分かれた対応表…別名、『台本』の読み合わせだそうだとか」

「………それ、あたしの知ってる台本の定義と結構違う気がするわ」

「奇遇だけど、僕もだ」

「「………」」


 部屋の中の惨状と、目を血走らせる勢いで文字を目で追う男ども。

 ……………異様だわ。

 この原因、把握してそうな責任者はどこよ。


「ルッコラ、ミモザは?」

「それなら、あそこに」


 指さされた先を見ると、一際紙束に埋もれて座り込む奴がいた。

 あの黄色頭…ミモザね、間違いなく。

 でもあそこまで行くのは骨が折れそうだわ…。

 奴を取り囲むように、紙片を読むのに没頭する野郎が十重、二十重…。


「ルッコラ、靴を片方貸して」

「………どうするのかな」

「投げるのよ」


 強くはっきり言ってやったら、別の物を渡された。

 ルッコラがそっと差し出して来たのは、女物のトウシューズ。

 なんでこんな物持ってんの? え? さっきやった劇の小道具?

 野郎の園を舞台にした劇で、なんで女物(ピンク)のトウシューズなんか出てくるのかしら。不可解な感情は呑みこんで、でも確かに投げるには丁度よさそう。


「借りるわ」

「どうぞ、遠慮なく?」


 そしてあたしは思いっきり振りかぶった!

 リボンをひらめかせながら飛んでいった靴は、見事ミモザの黄色頭に命中。

 …コントロールは鈍ってないわね。

 貧民街に住んでいた頃は、よく石を投げて鳥を落としたものだけど…

 意外に体が覚えているものね、と自分でも満足する出来だわ。


 ぽこんっと当たって跳ねたトウシューズをキャッチして、ミモザが振り向いた。


「あれ、もう出番?」


 ………散々待たせた挙句、第一声がそれってどうなのよ。

 いらっときたから、近くに置いてあった文鎮も投げてやったわよ。

 軽々、避けられて余計にいらっとしたけどね。


「出番だけど、この大量の紙束なに? ちょっと誰が片付けるのよ」

「ちゃんと自分達で片付けるって。門外不出のデータなんだから」

「………怪しいものじゃないでしょうね?」

「ほら、今回は貴族のお嬢様や奥様方と関わるじゃん? 今まで相手にしていたお客とは客層が明らかに異なるからさ。その傾向と対策ってヤツ」

「もう1回聞くけど、怪しい物じゃないわよね?」

「ただのデータだよ。元結婚詐欺師の爺さん3人に聞いた話と、色街で現役(・・)本職のお兄さん達に聞いた為になる話や経験談、ウケの良い態度を纏めたものさ。あ、あと友好的な情報の絞り取り方」

「ちょっと十分妖しいじゃない! 色街に売られたあたしが言うことじゃないかもしれないけど!!」

「ただでさえ規制が厳しい御時勢に老域まで生延びた結婚詐欺師って凄くない?」

「ねえアンタ、いかがわしい世界に手を出そうとしてない? ねえ!?」


 なんてこった。

 こいつらは、そういういかがわしい裏ぶれた仕事に手を出さないで生きられるよう、ミレーゼと手を組んだんじゃなかったかしら。

 あたしの気のせい? ねえ?!

 本気で手段を選ばない、洒落にならない演劇馬鹿が自ら足を突っ込もうとしてるんだけど…! 

 ピート…アンタ、こいつらに任せて良かったの? 後悔しない!?


 こいつらを、本当に貴族の奥方たちのところに案内して良いものか…。

 そりゃ、貴族って倒錯的で頽廃的で、危険な火遊び大好きのクズ野郎って印象ばっかだったあたしだけど。

 でもそれって、やっぱよく考えたら貴族のほんの一面に過ぎないのよね。


 特にあたしは貧民街生まれの貧民街育ち。

 ここ暫くは色街の置屋に売られて下働きなんてしてたし。

 …もちろん、将来的に置屋に身を置いて客を取る前提でね。

 そんなあたしだから、貴族のクズしか知らないのは当然なのよね。

 だってあたしのいた場所には、そんな貴族ばっかしか来なかったんだから。


 たまに来るお綺麗でお優しい『お貴族様』は全部偽善者か悪党かクズばっかよ。

 中にはやれ施しだ、慈善活動だっていう阿呆もいたけど。

 それって全部お優しい自分に浸って、あたしたちを見て優越感に浸りたい脳みそお花畑な阿呆ばっかだったし。


 でも貴族の中にもマシな奴もいるって、実際のお貴族の世界ってヤツを覗いたら少し見えて来たのよね。

 まだ、チラ見程度だけど。


 それってやっぱりミレーゼの影響も勿論だけど、ミレーゼを引き取ったこのブランシェイド家が本当に真っ当な貴族だったのが大きいわ。

 ああ、こういう人もいたのねって素直に感心しちゃった。

 あたしの知る『貴族』とは別の生命体だったわ。うん。

 旦那様も奥様も良い人だし。

 エラル坊ちゃんは真面目でアレン坊ちゃんは素直だし。

 ………ミレーゼに影から操られてるけど。

 

 この人達を見ててわかったのよね。

 本当に『あたし達』の生活を良くしようと考えてる人は、わざわざ足を運んでちまちま施しとか、焼け石に水なことは無駄だって知ってる。だから、しない。

 ちゃんとちゃんと考えて、あたし達の為になることはなんだろう、生活を向上させるには社会にどう作用を及ぼしたらいいだろうって考えてる。

 安易な気休めで誤魔化さずに、社会から変えようと頑張ってるのよ。

 もちろんそんなこと簡単にはいかないから、微々たる変化しらもたらせない上に、すっごく時間がかかるみたいだけど。

 でも、頑張ってる人は頑張ってる。

 そしてそれを受け止めて、今の国もそれを応援してる。

 それを知ってさ、あたしの捻くれた考え方は治んないけどさ。

 でもね。

 ちょっと感動しちゃったのよね。

 ああ、あたし達のことを考えていてくれる人もいたんだ…て。

 そういう、偉い人も世界にはいたんだ………って。


 正直、今の国がそこまで考えてるとは思ってなかったけど。

 でもどうやら、そうらしい。

 そういうことを考えてる、暇人も中にはいるらしいわ。

 …まあ、考えて何かやってってしても実際に生活が良くならなかった現実を知る身としては、色々複雑だけど。


 でもそんな人たちだからこそ、実際の底辺にいる『青いランタン』の働きかけ(アプローチ)にもそれと分かっていて考えるところがあるみたい。

 実際に見てみようって、GOサインを出したのは旦那様だもの。

 若い頃から国を良くしようと頑張って、でもちっとも現実が変わらなくて。

 そんな状況に疲れて隠居もそろそろ考えていたらしいわ。

 …まだ、王宮に官職を辞してないらしいけど。

 どのくらいの地位にいる人なのか、知らないけどさ。


 今回は社会の底辺にいる子供が何かしようとしているらしい、生活を変える為に行動を起こそうとしているらしい、そう聞いたから動いた部分もあるみたい。

 勿論それが、不穏な…暴動とかだったら沈静化させる方向で動いたでしょうよ。

 でもミレーゼが良い方向に変えるため、前向きに頑張ってるって説明したから。

 あの爺さん、一瞬、物凄く驚いて嬉しそうな顔したのよね。

 ミレーゼの聡明さはもちろんだけど、『貧民街の子供が前向きに状況を変えようとしている』なんて説明したから。

 だったらどうやろうとしているのか、見てみようって思ったみたい。

 自分達で考えて、自分達で動こうとしている。

 それも、良い方法を考えながら。

 他者からナニかを奪う方法でなく。

 それを見てみたいって、そう思ったんでしょうね。

 様子を見て、出来る限りの援助をって溢してるの立ち聞きしちゃったもの。


 それで貴族のご婦人方の中でも特に影響力が合って、なおかつ善良。

 そして本当に慈悲深く、心を痛めながらも善意の為に動ける女性。

 自分達の交流の中から、そういう人を選んで今日の席を設けてくれたってこと。

 あたし、使用人だからさ。

 準備段階から手伝ってて、他の使用人たちの噂なんかも聞いて。

 ミレーゼ付きとしてメイド長からさりげなく示唆なんてされちゃって。

 それで知っているし、旦那様太っ腹なんて思っちゃうんだけど。


 だから、さ。

 なおさら思うわけよ。


 そんな善意的に受け取って、好意的に応援している爺さんの屋敷で、さ。

 こんな悪徳商法まがいの結婚詐欺師崩れ手法でご婦人方の懐柔に走ろうとしている碌でなしども、放置していて良い訳…!?

 ねえ、ミレーゼ!

 ねえ、ピート!

 本当にこいつら、野放しで良いの!?


 思わず頭を抱えそうになったあたしだけど、でも。

 ………この馬鹿どもの前で、そんなふやけた態度を取る訳にゃいかないわ。

 あたしはより意識して背筋を伸ばし、ミモザに冷たい視線を送ってやった。

 これ以上の馬鹿をやったら、後でシメる。

 それが可能かどうかはさておき、絶対に殺る…!


 これで好意的な旦那様方に愛想を尽かされたら、目も当てられない!

 懐かしくもしょっぱい記憶しかない古巣だけど、さ。

 そこが良くなるきっかけにも、見はなされるきっかけにも成り得るでしょ?

 だからこそ、馬鹿は殺る。


 そんな気迫を込めて睨み上げるあたしに、気まずそうに笑って。

 心なしかミモザの目が泳いだ気がしたわ。



 ………どうしよう。

 すっごく、不安になるじゃないの。





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