表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
路地裏の小悪魔編
41/210

このようなこと、本当は心苦しいのですよ?

ミレーゼ様(8)が、かなり真っ黒な手段に訴えます。


「えーと? 報告の義務あんの、俺だけじゃなくっててぃるるんもなんだけど」

「当然ですわね。それがいかがなさいまして?」

「んじゃ、てぃるるんはどうすんの」

「あの方にはあの方で、上には絶対に報告したくない失態がそろそろ1つか2つは発生している頃合いだと思いますわよ?」

「え、てぃるるん何させられてんの? でも失態がどうので、てぃるるんが納得するとは思えないって」

「それは、失態(・・)の種類次第だと思いますけれど?」

「わーお…この嬢ちゃん、容赦ねえ……」


 あらあら…ロンバトル・サディア?

 顔が引き攣っていますわよ?





 意外にのらりくらりと粘られてしまい、わたくしとロンバトル・サディアの交渉は難航しておりました。

 そも、この騎士に今回の騒動を上に報告しないという選択肢はないようで。

 思ったよりも真面目だったことに感心してしまいますが、それはそれ。

 わたくしとてここで引き下がる訳には参りません。

 何より、わたくしの肩には『青いランタン』の趨勢がかかっているのですもの。

 騎士ロンバトル・サディア、わたくしにも譲れないモノがありますのよ?

 貴方の職分を理解していない訳ではありませんが…

 ここは、何を押しても貴方に使命を曲げていただきます。


「わたくしとて、騎士の責務を理解はしております。…この一連の騒動は、大目に見る等と捨て置けない、大事だと」

「理解してんなら納得しよーな、お嬢ちゃん」

「報告の必要もなくなるくらい、綺麗に自分1人で解決できるなどと驕るつもりは毛頭ありませんが…それでも、ここはわたくしと『青いランタン』の皆に任せて胸の内に収めていただけないかしら」

「えー…駄目だって(笑)」

「貴方が立派な騎士であったと、報告しても構いませんわよ?」

「いやいや、そこで俺が立派とか話盛ったら逆に怪しいって。おかしいって」


 わたくしの言葉に、呆れたように騎士はぱたぱたと手を振って…

 ………己が到底立派とは言えない騎士だと、心得てはいますのね。

 よい報告が逆に嘘臭いと思われるような部類の殿方であろうと、そこは報告の仕方次第だと思うのですが…


「――貴方に付随する数ある人物評に、『女子供、特に女児には意外に優しい』という一文が書き加えられるだけのことですわよ?」

「その一文は逆に俺のこと追い詰めてないっかなぁー!?」

「どう致します? 『女児には殊のほか優しい殿方』という風聞(レッテル)を得てみます?」

「それ、もらったが最後中々捨てられない類の装備(ノロイ)じゃねえ!?」

「まあ、人聞きの悪い…『女児には人が違ったように親しげに優しく振舞う殿方(下心あり)』という人物評のどこが呪いだと仰いますの?」

「確実に悪意が込もっとる……間違いようもなく悪評じゃん、それ」

「どんなに爽やかな殿方でも………婚期は遠ざかるかもしれませんわね」

「他人事のよーに言ってるが、嬢ちゃんがやろうとしてるんだかんな…?」

「……まあ、三十代半ばの殿方の婚期がどれほど遠退こうと、今更ですわよね?」

「無邪気な顔して何つうことを…俺にさぁ、婚約者とかいたらどうしてくれんの」

「婚約者か、恋人がいらっしゃいますの?」

「………いねーけど。いねーけど、ね!?」

「では、問題ありませんわね!」

「大ありですからー!!」


 清々しく笑顔で言い切ってみましたれば、ロンバトル・サディアからとうとう形振り構わない抗議を受け取ってしまいました。

 ………ふふ。交渉事は、冷静さを保てなくなればお終いですわよ?


 我ながら、今この一瞬。

 我が目がぎらりと輝いた気が致しました。


「実は、もう既に証拠の捏造も終わっているのですが…」

「は? なんの?」

「ええ、ですから…ロンバトル・サディア、貴方に関する良き報告(・・・・)の」

「堂々さらりと何やってんの!?」

「何事も、証言する際には裏付けとなる資料が必要ですものね?」

「いや、待て。………いつ、そんな物を用意する暇が?」

「まあ。わたくし自身が用意した……とは申しておりませんわよね?」


 証拠作りには、『青いランタン』を構成する浮浪児童の方々から人材をお借りいたしました。中々に優秀な方々が多くいらっしゃるようで、わたくしが要求したレベルの物も、見事に短時間で用意して下さいました。

 …『青いランタン』は、人材派遣のお仕事でも活躍出来るのではないかしら?


「いかが致します? ロンバトル・サディア。わたくしはどちらでも構わないのですけれど…全ては、貴方次第ですのよ…?」

「き、気付いたら立場が反転している…だと?」


 気付かぬ内に、脅迫する側g…

 ……いえ、お願いする立場の方が、お願いされる立場に。

 これも社会に出ると、きっとよくある光景ですわよね。


 にこりと微笑むわたくしに、ロンバトル・サディアの引き攣り笑いが微笑み返して下さいます。

 ふふ…いかがなさいます?




「い、いや…やっぱここはお仕事ってヤツで、」

「――あら? こんなところにどなたか(・・・・)の個人的な借入の借用書が!」

「!!?」

「利子の利率の欄、こっそり書き変えてしまうのも面白いかもしれませんわね。クレイ? お姉様に好きな数字を教えて?」

「すーじぃ? んーと……じゅーう!」

「うふふ……10、ですわね。では10日で1割、と………」

「お子様たち何やらかそうとしてんのっ!?」

「此方の借用書、借受人の欄に『エングラハム・サディア』とありますが……

ロンバトル・サディア、貴方のお父様と同じお名前ですわね!」

「お、おやじぃぃいいいっ!」


 借用書と銘打たれた紙は、『青いランタン』の子が子供に優しい金貸しの方のお宅から無断拝借してきた紙切れなのですが…この紙切れ1枚で、ロンバトル・サディアの顔が驚くほどの白さに!

 用が済めば、この紙も元の場所に戻す予定なのですが…

 わたくしは万が一にも奪われないようにガード体勢を整えます。

 クレイのお絵描きセットに忍ばせていたペン片手に、紙を盾と取りました。

 絶対に奪われてはならない、この紙は実はただの写しです。

 流石に本物は、金貸しの方のお宅から持ち出すのは危険過ぎますもの。

 偽造品ではありますが、本物を透かして書き写したもの。

 ですので、文字の筆跡はオリジナルに良く似ています。

 細部までしっかりと見なければ、余程親しい方でも誤魔化せるとピートが太鼓判を押して下さった逸品ですわ。


「見覚えのある文字だと思えばやっぱかー!? っつうか親父は何やってんだ!」

「お父様を責めてはなりません。この紙は、何でも愛人の方の出産費用を奥方に内密に用立てる為、仕方なしにお金を借りられた証明のあかしだとか…」

「マジで何やってんだクソ親父!!」


 ロンバトル・サディアが何か意味のわからない修飾語を用いていらっしゃいますが……聞いたことのない言葉ですわね?

 文脈的に悪口雑言の類だとは思いますが、どんな意味なのでしょう。


 『青いランタン』の方々は本当に、とても優秀で…

 サディア家御当主の借金の事実も、そのお金の使い道も、全て彼らが調べ上げて下さったことです。更には愛人の方の在所や、生まれた御子の現在の状況まで事細かに教えて下さいました。

 その全てを、ロンバトル・サディアに伝える必要はないでしょう。

 何より、重要な情報は小出しにしなくては効果も薄れてしまいますもの。

 事実、わたくしの持ち出した情報に興味がおありなのでしょう。

 ロンバトル・サディアは先程までの飄々とした昼行燈ぶりをかなぐり捨て、苦悩の眼差しをわたくしに注いでいます。


 首を傾げるわたくし。

 そんなわたくしの目の前で。

 ロンバトル・サディアは床に屈みこみ、頭を抱えていらっしゃいました。


 まるで、わたくしに(こうべ)を垂れるようなお姿で。




   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



「な、ピート! 隣の部屋が何か騒がしいっつか…あの仕事しねー騎士が入ってから出てこねぇんだけど!?」


 仲間の1人が、いつの間にか持ち場を勝手に離れた…いや、まあ奴は俺達の指揮系統にゃ入ってねーけどよ。

 それでも一言の断りもなしにさっさと場所を移した、いけすかねぇ騎士様って奴が消えた後、自発的に代わって守り始めた仲間が、困惑顔で報告を上げてくる。

 確かに、それは気になる。

 気にはなるが…正直、な?


「今それどころじゃねえっ!」


 見て、わかんねーのか!?

 こっちの手、全然空いてねぇってのに!


 ミレーゼ達が場所を移し、騎士が消えた『院長室』。

 そこは今、改めて襲撃を受けていた。


 相手は『黒』い布をトレードマークに身につけた、5人。

 …残人数に関する報告と、数が合わねぇ。

 あと3人、どこに消えた…っ!


 相手が来ることは、とっくに分かり切っていた。

 そりゃ、壁の外からショートカットしてくるとは思ってなかったけどな。

 それでも、最終目的地は俺かミレーゼのどっちか。

 となると、それなりの防備は最低限必要だった。

 下の階にいる仲間達が、何とかするとは思っていたんだけどな。

 実際にどうにもできなかったのは、仕方ねぇ。

 この付近にいた仲間、掻き集めるだけ掻き集めても、『黒』5人を完璧に取り押さえるのにどれだけ時間がいることか……

 舌打ちを溢しながら、俺は傘を振り上げた。

 扉を蹴破り、突入してきた先頭の奴に、まず一発をお見舞いしてやるために。

 

 もう、どうなろうと頭を巡らせる時間は終わった。

 今これからは、暴力の時間。

 そんで、暴力に対する手段を持たない奴を守る時間でもある。


 具体的に言うんなら机の下に隠れた、メイドのお仕着せの女の子……とかな。

 ちびの1人を抱きしめて。

 怯えて縮こまる、その姿。

 それでも虚勢は、消し去ることなく。

 顔を青褪めさせ、手を震わせながらも。

 強がりを言う口は、決して休めることがない。


「ちょ……っと! こっちに石が飛んで来たわよ!?」

「飛んで来たんなら、避けるか叩き落とすか跳ね返すかしとけ。それで万事OKだ」

「アンタらと違って、あたしにそんなこと出来ないわよ! 馬鹿にしてんの!?」


 ……うん。相変わらず、こいつ活きがいいや。







 襲撃者:32人(赤19人/黒13人)

     正面玄関からの襲撃:22人(赤14人/黒8人)

     西側入口からの襲撃:7人(赤5人/黒2人)

     その他からの襲撃 :3人(黒3人)

     内、27人脱落。

     残り、5人(黒5人)。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ