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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
路地裏の小悪魔編
34/210

にゃんにゃんがすき。でもわんわんはもーっとすきー!(byクレイ)

クレイ君…アレはきっと、にゃんにゃんでもわんわんでもないよ……


 今回はルッコラが大活躍(爆)

「わんわ♪ わんわ♪ わんわんのひとーっ」(クレイ)

「それで、ピート…このロビーの仕掛けは落とし穴だけですの?

それだけでは、いつか突破されるのではなくて?」


 先ほど、落とし穴の説明はしていただきましたけれど…

 それ以上の説明が特にありません。

 わたくしはつい不安に駆られ、自らピートに問いかけていました。


「んー? ああ、ロビーね。まぁ、他にもあるけどな」

「まあ、やっぱり落とし穴だけでは心許無いですわよね」

「まー…でも、あそこはあれ以上いじる必要もねーと思うぜ?」

「あら? どうしてかしら?」


「あそこは、ルッコラの担当だからな…妙な小細工抜きに、蹂躙しちまうぞ?」


 その為に広いスペースをそのまま、バリケードも造らずに放置してんだ…と。

 そう語るピートの口調は、どことなしか誇らしげで。

 あのピートが自信をもって任せられる、人材。

 先ほどお会いした(ルッコラ)は、そこまで力強く信頼できるお相手なのですか?


「わんわんのおにーしゃん?」

「ええ、そうですわね………でもアレは、本当に犬なのでしょうか」

「わんわん、わんわーん! わんわんわわーん♪」


 わたくし達の会話する横で、1人遊びに興じていたクレイがくりっと振り返ってきます。その興味の対象は、先程紹介されたルッコラにあるようですが…

 クレイは、動物を好みますから。

 先程ルッコラが連れていた犬(?)を、とても気に入ってしまったようで…。


「……………クレイ、あの犬(仮)がそんなに気に入りましたの?」

「あい!」

「…ピート」

「なんだ?」

「ルッコラは………沢山、犬を連れている。そうでしたわよね?」

「まあ、犬種改良研究の一環とかで、大量に連れてるが…」

「……………………………………………帰りに、1匹いただいて帰りましょうか」

「! ほんと? ほんと、ねえしゃま!」

「え、ええ……………ルッコラが、頷いて下されば」

「!! き、きゃーいっ! ねえしゃま、だいしゅき!」


 わたくしの提案が、余程嬉しかったのでしょう。

 クレイはソファから飛び降りて、ぴょんぴょんと兎のように飛び跳ねています。

 その姿は我が弟ながら大変愛らしいのですが………

 

 ………わたくしは、何か引き返しようのない魔窟の入口に、1歩足を踏み出してしまったような……引き返し方のわからない闇に、迷い込みつつあるような。

 何故でしょうか…そんな、言い様のない不安を漠然と感じておりました。

 一言で表すのでしたら、きっとこうでしょう。


 ………早まってしまい、ました…かしら?



   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



「西側からの侵入者への対応は?」

「セルセルの双子(ふたり)に任せてきた。あっちはお任せするとして、準備はOK?」

「ああ、完了だ」


 正面玄関ロビーの、中二階。

 ロビーを見下ろすそこに待機しているのはルッコラとミモザ。

 出撃準備を整えるルッコラの手伝いをしながら、ミモザが要望を述べる。


「取り敢えず、最低5人は無傷で捕獲したい」

「…つまり、5人以上『暗闇の部屋』に行くよう誘導すれば良い、と」

「そ。それから後は僕とフィーにお任せだ」

「了解。それじゃあそろそろ、馬鹿達も堀越えし始める頃だろうし」

「緑のタイルの位置まで侵入したら、出撃?」

「まあ、その辺が目安だろうね」


 ロビーの床の、装飾タイル。

 色も模様も擦り切れ剥がれてはいるが、それでもまだ地色や痕跡が残っている。

 緑色を綺麗に残したタイルは、ロビー中央やや奥側に入るか否かという位置だ。

 そこまで入ってきたら、後はもう逃がさないとルッコラが目を光らせる。


 1階の方では反則並に幅広い堀(落とし穴)の範囲が明らかになり、何とか落下を免れた襲撃者達が戦慄していた。

 跳び越えろと言わんばかりに奈落を曝す、その範囲。

 悠に3mに届く。

 子供の身体能力で頭上からの落石を防ぎつつ、それを越えろと…


「無理」


 『黒』いバンダナを巻いた少年が、一言で判じた。

 自分1人では何とかなっても、それで敵地から無事に生還できるとは思えない。

 生還確率を思えば、1人で突撃するなど愚の骨頂。

 しかしなまじ自分ならできると思ってしまうせいか、上手く切り抜ける手段が思いつかない。

 どうやって、この人数を通すか…

 ………なんで自分が、そんなことに頭を悩ませないといけない?

 馬鹿らしくなって、少年は5秒で考えを放棄した。


 だけど少年が思考放棄する傍ら、同じ思考を止まることなく巡らせる者もいる。


「誰か、その辺から木の板引っぺがしてこい!」


 跳びこせないのならば、橋を渡せば良い。

 1人が言い出した言葉は、さも全員の思い付きであるかのように受け取られる。

 そうして息せき切って、自分達の身長の2倍はありそうな梯子を何処からか引っぱり出してきた。これなら、あの堀の向こうにも届くだろうと。


「2人、梯子を運ぶ! 他は梯子の回りをガードする! 急げ」


 素晴らしいアイデアの発案者ではなく、『赤』い鉢巻きの少年が叫び、勢いのある言葉に調子のいい奴らが乗って行く。

 頭上から飛んでくる石もそれぞれが持ってきた板や布で振り払い、そうしてやっと梯子は…橋はかかった。


 さあ皆で突撃だ。


 狭い梯子を押し合いへしあい。

 我先にといがみ合いながらも身のこなしの軽い奴から向こう側へ。

 行った先で、誰も気付かなかった。


 入り込むのは、簡単だ。

 石を投げてはきても、それ以上は誰も邪魔しなかった。

 けど。


 渡った先で、唯一の侵入ルートである梯子を外されればどうなるか…

 突撃する最中、それを考えた奴はいなかった。

 袋の鼠、絶対絶命。

 逃走経路はどこにもなし。

 堀に阻まれ、今度は出られない。

 そんな状況に陥るとは、誰も思わなかった訳だ。

 警戒心が強く、ちょっと考える頭のあった、少数派の者達を除いて。


 『赤』のほとんどは、勢い任せに向こう側へ行ってしまった。

 どんな目に遭うのか…少し考えれば、わかっただろうに。


 あの侵入経路は使えないな、と。

 『黒』いバンダナの少年は溜息をついて、別の入口を思案し始めた。

 結局彼は、この局面で誰かに手を貸す真似は一切しなかった。



   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



「そうですわよね、やはり誰でもすぐに思いつきますわね…」


 ピートの部下から襲撃者達が橋を渡して侵入を開始したという報告を聞き、わたくしもレナお姉様も予想通りの行動に頷き合ってピートを窺いました。

 こんな事態は、考えられていたはずです。

 この状況下で、ピートは一体どんな指示を下すのでしょう。


「ま、本当に怖ぇのは橋を渡らなかった奴らだけどな」


 そう、皮肉気味な笑みとともに言い置いて。


「そんじゃ作戦通り、支障はねぇから実行しとけって言っとけ」

「了解」


 わたくしやレナお姉様、外部の者には不親切なやりとりです。

 此方のことを放っておいて、ピートは詳しい説明を下さいません。

 不服を隠そうともしないわたくし達に、ピートはニヤリと茶目っ気を乗せた笑みを浮かべるだけ。


「あそこはルッコラ達に任せる、って言ったろ?」


 悪戯を企む子供の様なお顔。

 確かにピートも子供の筈ですのに…

 そのお顔は、何故か年齢不相応に見えてしまいました。



   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 もう此処からは、入ってこない。

 外に残っている奴等は、警戒してこの入口を使わない。

 状況的にそれを見計らい、入口の傍に潜んでいた者達が動いた。

 やったことは、外の者達が予想したのと同じ行動だ。

 

 即ち、入口にかかる唯一の橋だった梯子。

 それをかっぱらってトンズラした。


 振り返らずに突撃した、お馬鹿さん達は気付かない。

 気付かない間に、梯子強奪班はトンズラを成功させる。

 こそこそ、足音を立てない走り。

 良く見ると足には、足音を立てないように素足の上から青い布が巻かれていた。

 こそこそと突撃した彼らの後方を大きく回り、かつては受付窓口だったカウンターの後ろに隠れる手際は見事。

 物音1つ立てない手際は、どう見ても手慣れていた。


 そして突撃したお馬鹿さん達の先頭が、発色鮮やかな緑色のタイルを越えた。

 そこを越えたら………前言の通り、ルッコラが降臨する。

 がたがたがたがたがががががっ と、凄い音を響かせて。

 中2階に続く、広い階段を凄まじいスピードで駆け下りてくるもの。


「うわぁっ  犬 男 が出たぞーっ!!」



   !!ENCOUNT!!

     いぬおとこ が あらわれた!

     

       ・たたかう

       ・ぼうぎょ

       ・アイテム

     → ・にげる


     パーティ は にげだした!


    ミス!

     ふしぎなちから に はばまれて にげられない!

     いぬおとこ に まわりこまれてしまった!



 子供達のつける渾名は露骨でダイレクト、ど直球。

 『赤い星』や『黒い蝋燭』で『犬男』と呼ばれ畏怖される黒髪の少年は、渾名そのものの見た目をしていた。


 艶やかな黒髪の頭に、何故か子犬を一匹乗せて。

 弓をつがえた、その姿。

 不動のオーラを放ちながらの高速移動。


 ルッコラは子牛の様な大きさの、逞しい犬が引く車に乗っていた。


 筋肉の躍動感。弾ける汗。

 4匹…いや、4頭と呼んでも遜色のなさそうな立派な体躯。

 4匹の犬はそれぞれに綱がつけられており、ルッコラの乗る車…

 ……いや、箱?に繋がっている。

 ただ大きいだけの粗悪でぼろい木箱には、4つの木製車輪が付いていた。

 当然ながら、乗り心地は最悪だ。

 全く衝撃を吸収しない。

 ともすれば、慣れない者なら一発で車酔い必定の犬車。

 だがルッコラは、安定感抜群の岩にでも乗っているかのように微動すらしない。

 酔いなど欠片も見えない静謐な眼差しは、狩人の目だ。

 妙に冷たく静かな目は、襲撃者達を眼差し1つで怯ませる。

 それを当然とばかりに頷きながら…ルッコラは、(おもむろ)に矢を射放った。



   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



「まあ、警告もなしに矢を射るなんて…危険ではありませんの?」

「怪我でもさせたら、犬が興奮して暴走するんじゃない?」

「ああ、安心しろ」


 ひょいと肩を竦め、ピートは何かを棚から持ってこさせました。

 わたくし達に示してみせる、それは…


「や、ですわね」

「うん、矢?」

「矢だな」


 言葉の通り、それは矢でした。

 ただし、(やじり)はどこにも見当たりません。

 代わりに、矢の先端には分厚い布が巻き付けられていますわね。


「刺さりはしない、当たるだけ…」

「そ。その通り、ってな。これはルッコラが今日使ってるのと同じ矢だぜ?」

「それでも当たり所が悪いとかなり痛そうね…矢って凄い勢いで飛ぶって聞くし」

「その当たり所の悪い部分を、ルッコラは狙って射る訳だが」

「狙って当たりますの?」

「ルッコラの弓の腕は確かだぜ?」

「当たりますのね………」

「機動力を優先して犬車、もしくは直接犬に乗って縦横無尽に動き回ってんだろーし。外す時もあるだろーよ。それでも概ね当たるだろうけどな」

「狩りの腕に優れていると、先ほど言っていましたものね…」



   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 

 その頃、ロビーでは阿鼻叫喚の騒動が起きていた。

 当然のように、もうずっとルッコラのターンが続いている。


「にぃげーろぉぉおおおおおっ」

「駄目だ! 逃げ場なんてねぇよっ」

「誰だ!? 梯子持ってったやつ!!」

「出口ねぇぇえええええっ」

「ぎゃぁあぁあああああああっ」

「ひぃっ す、す、すぐ後ろに………ぎゃぁぁあっ」


 もうずっと、ルッコラのターンが続いている。


 そうして彼らはルッコラの狙い通りに逃げ惑い…

 そして、狙い通りの方角へと誘導された。

 自分達も知らない内に、追いたてられて追い込まれる。

 ロビーの外までは、ルッコラは追っていかない。

 ルッコラの担当はロビーだからだ。

 だからロビーの中を逃げ惑っていた少年達は、考える余裕すらない状態でバタバタとロビーから続く廊下を走りぬけて行った。


 後先も、行先も考えずに逃げて行った少年達。

 彼らの進む先にある部屋を、『青いランタン』は『暗闇の間』と呼んでいた。

 そこに追い込まれていった彼らがどうなったのかは…既に知る通りである。







 襲撃者:32人(赤19人/黒13人)

     正面玄関からの襲撃:22人(赤14人/黒8人)

     西側入口からの襲撃:7人(赤5人/黒2人)

     その他からの襲撃 :3人(黒3人)

     内、14人脱落。(正面側『赤』全滅)

     残り、18人(赤5人/黒13人)。


小林は時々、己をひどい鬼畜なんじゃねーかと思う時があります。

…笑いのためなら、キャラに超進化を遂げさせるのも否やはありません。

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