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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
路地裏の小悪魔編
31/210

地の利と事前準備で、7割の危険を排除致しましょう

アレン様、ドナドナ~♪


 アレン様はお勉強を嫌いと仰いますが、本来とても聡い方なのでしょう。

 その辺りは、流石はエラル様の弟君。

 わたくしと、ピート達と、それから騎士達。

 それぞれを観察し、「ふむ」と呟いて頷いておられます。

 どうやらそれぞれの微妙な思惑や、計算に気付かれたようですわね。

 本来ならば安全の為に自制を弁えねばならぬ身ではありますが。

 観察した上でお決めになった味方は、わたくしやピートの側だったようです。

 同じ子供同士、気の合う同士ですもの。

 連帯感めいた共感を通して、此方の見方をして下さるようです。


 アレン様は、おもむろにピートに申し出られました。


「何か大変な事態なんだよね? 僕にも手伝えることはあるだろうか」

「お? なんだ、手伝う気か坊ちゃん」

「この僕に、身一つで出来ることならば」

「…上等だ。そんじゃ坊ちゃんには、1つ面白いことをやってもらおうか」

「アレン様!? 君、アレン様に何を…っ!?」

「あ、ティルゼルが復活した…」


 安全な所に避難するという考えを放棄したアレン様の申し出に、葛藤の中で彷徨っていたティルゼル・カープが反応を示しました。

 幼いアレン様の身体に掴みかかりそうな勢いで、不服を訴えるお言葉。

 ですがそれを黙殺して、アレン様はピートと2人で話を進めていきます。

 常にはない強引さに、アレン様の本気が窺えるようです。


「そ、だな…よし、ミモザ!」

「はい、ボス!」

「アレンを『暗闇の間』に連れてったれ。字が読めるからな、大丈夫だろ」

「ああ、彼処かぁ………アレン様、君、暗いとこ平気?」

「大丈夫、得意だ」

「そう、じゃあ……………怪談、へいき?」

「え゛…っ」


 瞬間。

 ぎしっと、アレン様が固まりました。

 

「んなもん、大丈夫だよなアレン。男だし」

「え、えと…ああ、う、うん!」

「ミモザも協力を申し出た『漢』が、怪談がどうのと見くびってんじゃねーよ」

「そっか、悪かったねアレン様! それじゃアレン様と…」

「アレン様! 勝手は困ります。此方にも警護の者として都合が…」

「ああ、それじゃアンタも来なよ」

「………は?」

「いや、だからアレン様を放ってはおけないんだよね?」

「あ、ああ勿論…!」

「それじゃ決まりってことで。アンタにはただただ只管(ひたすら)、狂ったように笑い続けてもらうから。腹筋きつくなるけど、戦闘職なら鍛えてるし大丈夫だよね!」

「はあ!? 笑っ…!?」

「ん? ひたすら啜り泣く役か、要所要所で悲鳴を上げる役の方がいいの?」

「待て、何をさせる気だ…!」

「さ、それじゃ行こうか。大丈夫、泣く役と悲鳴役は僕の配下がやるから!」

「本当に何をさせる気で!?」


 怒涛の勢いの内に、ミモザのペースは完璧なる包囲網を敷いていました。

 有無を言わさず、話を聞かない強引なやり口。

 流石ですわ…騎士を相手に、一歩も引くことなくやり込めてしまいました。

 そのまま彼らの役割は決定してしまったようですわね…。

 ほんの僅か青ざめた顔をしたアレン様と、引き攣った顔のティルゼル・カープ。

 彼らはミモザに案内され、どことも知れぬ闇へと連れて行かれました…。


「ピート?」

「大丈夫だって。危険は絶対にねぇし、危ない場所からは隔離されてっからよ」

「何をさせるおつもりですの…?」

「ほんのちょっと、脅かし役?」

「………朗読と、笑い声と、啜り泣く声。そして悲鳴ですか」

「そ。そんで此処は廃病院…ってな」


 得意げに笑うピートは、少し悪い顔を浮かべていました。

 アレン様…大丈夫ですわよね。

 今回は脅かされる方ではなく、脅かす方ですもの。

 大丈夫、ですわよね…?


「そんじゃお嬢様、俺たちゃ移動だ」

「あら、どちらに?」

「もっと全体像が分かるとこ、な」


 案内された先は、古ぼけたプレートに『院長室』と書かれたお部屋でした。

 他のお部屋よりも造りが頑丈な為か、原型がよく残されています。

 取り残されたソファの埃はよく払われていて、わたくしとクレイ、レナお姉様は勧められるままに腰を下しました。

 院長席と思わしきデスクから移動させた、1人がけの立派な黒い椅子。

 そこを己の席と定め、座るピート。

 その姿は…何だかとても様になっておりました。

 ただし、受ける印象は『悪の親玉』一直線でしたが。


「さて、状況報告!」

「了解、ボス! 敵は32人。『赤』が19人、『黒』が13人だよ。『赤』の方には『筋肉馬鹿』6人を確認」

「ああ? 統率役6人も出してどうすんだよ。相変わらず『赤』意味不明ー。どうせ序列も何もなく、同等の権限持ってんのを6人混ぜるって馬鹿やってんだろ」

「そっすね。また手柄争いでもやったんじゃねーっすか。誰が手柄横取りするのかで揉めて、堪え性ないのが全員出てきた、みたいな」

「うわ、有り得そう…ってか、それしかねぇな。本当に『馬鹿』ばっかりだぜ。ま、その分こっちは楽だけど」

「『黒』の方は統率がどうのと考えてないので、ある意味攪乱が面倒だけど、『赤』はころっと引っ掛かるのが馬鹿だなぁって思う」

「よし、それじゃ『黒』はどんな感じだ。13人、だって? 少数精鋭の『黒』にしちゃ出してきた方か?」

「そうっすね。『黒』の方には『凝り性』『自分1人の世界』『唯我独尊』がそれぞれ2、3人ずつ混ざってる感じっす。特に今回は『凝り性』が多くて4人はいましたっすよ」

「そっちもそっちで出血大サービスじゃねーの」


「あの、ピート?」

「ん? どうしたミレーゼ」

「先程から…その、『筋肉馬鹿』や『凝り性』やら…固有名詞ですの?」

「ん…? ああ、それな。名前覚えんのが面倒なんで、こっちであいつ等の指揮系統やら上下関係やらの階級に渾名つけてんだよ。『赤』の指揮官は『筋肉馬鹿』だ。『黒』の方は能力主義だからな、個人プレーが激しい割に一目置かれるくらいの実力者に、それぞれ協調性のなさをレベル分けして『凝り性』『自分1人の世界』『唯我独尊』とかな」

「それは…相手を馬鹿にしている感が聞いただけで瞭然ですわね」

「『黒』は協調性皆無の奴らを、辛うじて僅かに協調性のある奴らがわざわざ繋いで、何とか連携取ってるようなもんだ。だから、その連絡つなぎ役を買って出てる『凝り性』の奴らを1人1人潰して、それぞれ孤立させたところで個別撃破するか閉じ込めるのに成功したら無力化成功だ」

「それが、『黒い蝋燭』を相手にした時の勝利条件ですのね? 『赤い星』はセオリー通りに指揮官に当たる者を無力化すればよろしいのでしょう。ですが個人主義の集団などという摩訶不思議な組織はどうすればよろしいのか…少々、悩みます」

「能力主義が強い分、敵わないと思ったら下っぱは簡単に撤退するからな。代わりに実力者は自負が強すぎて完全に征さねーと止まんねーんだよ」

「厄介ですわね……引き際を心得すぎた下の者と、自身への強さから引き際を考えない上の者。突撃兵としては面白いかもしれませんが、指揮系統がないとなると組織的な統率力は皆無…?」

「それがそうでもねぇところが、あいつ等の訳わからんところだ。完全に孤立しているように見えて、なんでか時々偶に妙な連携と計算力を発揮しやがる」

「完全にないのか、それともあるのか…どっちですの」

「個人主義、能力主義って言ったろ。『黒い蝋燭』内部で認められる知恵者が参戦する時は、職人並に己を自負してる奴ら以外は頭いい奴に行動を委ねんだよ。その潔さ、別で発揮しろってーの」

「それを分析出来るほど、ピートも『黒』の方々とぶつかり合ってきたということですわよね………ピート、苦労してきたのではなくて?」

「その欝憤、全部ぶつかった時…丁度今だな。こう言う時にぶつけるから別に?」


 言うほど簡単ではないと思うのですけれど…

 わたくしの小さな胸に、僅か不安が宿ります。

 彼ら『青いランタン』を信頼してはいますが…襲撃など、初めてのことです。

 早々遭遇するはずのないことですが、皆は慣れているのでしょうか。

 動じる様子も見せず、部屋の中央の(テーブル)にルッコラが地図を広げていきます。

 黄ばんだ布に描かれているのは、手描きの地図らしき物。

 此処、わたくし達のいる廃病院の見取り図のようです。

 流石にねぐらの1つだけはあり、十分に把握しているのでしょう。

 見取り図は所見のわたくしから見ても、不足のない物です。


「取り敢えずこういうこともあろうかと、襲撃に備えて迎え撃つ用意は常にやってるからな。此処にも罠と仕掛けが多数配置済みだ」

「まあ、頼もしい。………ですが、わたくし達に危険はありませんの…?」

廃病院(ここ)の手前でニリネを迎えに用意しといたろ。ちゃんと来客用のルートは通してある。そこを通る分にゃ危険はねーよ」

「ではその経路を、襲撃者の方々が見つければ…?」

「お前らを収容した時点で、既に封じてある。通りたくても通れねーだろうよ」

「ピート、貴方…頼もしいですわね」

「見返りが約束されてんなら、うちの配下共は十全に働くからな」

「ところで、わたくし達が帰る時はどう致しますの?」

「…ちゃんと別経路を用意してるぜ☆」

「今、一気に頼りにしていいものか不安になりましたわ…!」

「大丈夫、任せとけって。とっておきの抜け穴があるからよ」

「本当に信じてよろしいのかしら…」


 ピートの指し示す見取り図に、抜け道の記述が見つけられないのですが…

 本当はどうなのかと、残念ながらわたくしが悩む時間もありませんでした。


「ピート! あいつら、バリケード突破した…!」


 そう言って、小柄な女の子が室内に飛び込んできたからです。

 確か、ピートはニリネと呼んでいましたわね。

 数日前、わたくしの元にピートからの使いとして現れた女の子でもあります。

 彼女はピートの傍に駆け寄り、見取り図の中を指で指示していきます。

 その場所を突破されたと、そう言うことでしょうか。


「正面玄関前と、それを陽動に西側…な。ちっ それじゃ奴ら、もう中に入ってくる頃合いか?」

「2階、3階の窓から第1、第3班が投石してる。だからもう少しかかる。

あと班長達が火炎瓶投げて良いかって」

「火炎瓶ぅ? いつの間にそんな物騒な物用意してんだ」

「許可、どうする」

「火事にする気か阿呆って伝えとけ」

「残念。折角作ったのに」

「って、お前が作ったのかよ。…ったく」

「投石は続ける?」

「そうだな、そっちは続行させとけ。1班は…スリングショットの名手がいたな」

「名手考案の投石機がいい塩梅」

「道具の改良までやったのかよ。けど、いつまでも防ぎきれるもんでもねーだろ」

「窓から確認してきました。ピートさん、奴ら板を盾代わりに突撃してきますよ」

「『赤』も知恵づいたもんだなぁ…いや、『黒』がやりだしたのか? どっちでもいいか。正面扉と西側、なら………罠を起動させろ。1番から8番まで、全部な」

「おお、ピートさん本気ですね…」

「おう。7割、だ」

「7割?」

「7割………最低でも、22人は1階で潰すぞ」

「了解。各所に伝える」


 目まぐるしくも、忙しなく。

 『青いランタン』の防衛戦が始まろうとしていました。

 ですが、何故でしょう?

 まだ始まったばかりですというのに…

 良い知れぬほどの、確信で以て。

 

 襲撃者達の身に、災難がふりかかる予感がいたしました。






次回から、秘密基地攻防戦みたいな感じを目指しています。

とりあえず次回ではアレン様が連れて行かれた先で何をやっていたのかを。

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