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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
路地裏の小悪魔編
25/210

呼び方は、個人の自由だと思いますけれど

残念なことに小林、未だ風邪っぴきでございます…

ようやっと声は出てくるようになってきましたが、本調子までまだかかりそうな感じです。

今日はひとまず投稿しますが、明日はどうなるだろう…


ブランシェイド伯爵が出るといいましたが、次回に回します。

今回はお子様同士の作戦タイムです。

 わたくしと弟の身柄を保護して下さった、ブランシェイド伯爵家。

 その御当主たる老夫妻の御子は、全て男子。

 そして孫に当たる方も、全て男児だと窺っております。


 故に彼の御夫妻が、孫娘という存在に夢を抱いているということも。


 老境に差し掛かった貴族の集まりでは、子・孫自慢が定番だと窺っております。

 そんな最中、ブランシェイド伯爵の好敵手に当たる某伯爵様はご自慢の孫娘エカテリーナちゃん(4)のご自慢が素晴らしいそうです。

 それこそ目の中に入れても……入れたまま、高笑いでもしそうな勢いだとか。

 一方、優秀さは折り紙つきといえども、絵に描いたような男系一族、男女比の偏り著しいブランシェイド伯爵家。

 孫娘の愛らしさ素晴らしさをご自慢なさる某伯爵様をお相手に、男孫しかお持ちでないブランシェイド伯爵はいつも悔しい思いをなさっておいでとか。


 つまり、ブランシェイド伯爵にとって得られぬ女児は羨望の塊。

 なまじ男孫達が優れているだけに、より一層女児への憧れが募るのでしょう。

 これで女の子さえいれば、我が家は完璧なのに…と。


 それを証明するかのような逸話も、耳に致しました。


「まあ、アレン様…それは本当ですの?」

「ああ、うん。ちょっと僕としては残念だけど…」


 歯切れ悪く、複雑そうなお顔で苦笑をお浮かべになるアレン様。

 確かに、その表情はとても残念そうです。


「僕が生まれた時、みんな女の子の名前ばっかり用意していて…

誰も、男の子の名前は用意してなかったらしいんだ……」


 それは生まれてきた子供として、何ともがっかりしてしまいますわね…

 結局生まれてきたのは男の子(アレンさま)

 男名を用意していなかったブランシェイド家の方々は、大慌てでアレン様の御名を考えられたそうです。


「結局、急で良い名が浮かばないから4代前の御先祖様の名前をもらったって」

「それは…とても切ないですわね……」

「まあ、この名前も嫌いじゃないから良いけどね」


 そう言って、からっとご家族の残念さを笑って流せるアレン様は、10歳という年齢から考えると、もしかしたらとても器の大きい方なのかもしれません。


 そのような経緯もあり、一時的に身柄を預かるだけとはいえブランシェイド伯爵夫妻にとって念願ともいえる同居が許された女児…

 つまり、わたくしですわね。

 そんなわたくしを相手には、伯爵も伯爵夫人も少々甘く接して下さいがちです。

 ですが。

 それでもやはり、相手は良識ある大人。

 それでも許容範囲の幅は変容することなく、許可できないことは「駄目」だとはっきり言われてしまうことでしょう。

 無用な我儘を言う趣味はありませんので、今のところ常識の範囲内に十分治まる「お願い」しかしたことはありませんけれど。

 


 さて、本題です。


 今回、わたくしがどうしても叶えたいお願いは、一つ。

 それは『青いランタン』と接触を取ること。


 それはつまり、わたくし自身が貧民街に赴かねばなりません。

 用心深い彼らは使いを使わすことはありますれど、『青いランタン』の中心をなす人物や、重要な要素をねぐらの外に出すことはありません。

 ないと、本人達から聞いております。

 加えて口封じの恐れがあって匿っている者がいるとなれば…

 やはり彼らが拠点から出てくることはないでしょう。

 不安要素を抱えているとなれば尚更です。

 用心深い彼らは懸念材料となりうる事態を徹底的に嫌います。

 代理人等も絶対に認めないことでしょう。

 そんなものを用意したところで、わたくしの代理だと証明する何を持っていたとしても、彼らは代理人等認めはしないと思われます。

 …わたくし自身、代理人を用意できる立場ではありませんけれど。


 やはり、ここはわたくし自身が赴かねばなりません。

 例えばそれが、無謀と呼ばれる行為であっても。

 何よりも、我がエルレイク家の家名に関わることであるならば。


 ……そこで最大の障害となってくるものが何か、皆様お分かりですわよね?

 わたくしが『青いランタン』と接触を取るため、貧民街に行くこと。

 それを阻む最大の障害は、わたくしを保護し身柄を預かる家…

 ………このブランシェイド家です。

 わたくしを保護するという名目がある以上、彼らは治安が王都で最も悪いとされる貧民街への外出など許して下さらないでしょう。

 …1度自由な立場を経験してしまうと、少々煩わしく感じてしまいますわね。

 ですがこれも、貴族の子女として仕方の無きこと…


 ………などと言って、諦める気は毛頭ないのですが。


 ええ、わたくしの最も知りたい何かに繋がる一助。

 重要な情報が得られそうな時に、どうして黙って見逃すなど出来ましょう。

 愚行と言われようとも、こればかりは譲れませぬ。


「そういう訳ですので」

「うん、絶対にお祖父様が許してくれる筈がないと思う」

「まあ…相談に乗って下さっているのに、相手の気力を削ぐような発言はあまりよろしくありませんよ」

「いやいや、ミレーゼ? 大概無茶言ってるってわかってるよね?」

「アレン様のいけず…」

「いけずって……どこでそんな言葉覚えて来たのさ?」

「置屋『しろがね屋』さんですわ。もう既に検挙されて、この地上から消滅してしまいましたが…」

「本当にどこで覚えてきたのさ!?」


 …そういえば、わたくしがエラル様に保護されるに至った経緯を、アレン様にはお話ししていなかったような…

 ………あまり心臓に優しいお話でもありませんし、黙っておきましょう。


「………物凄く計り知れないよ、この子(ミレーゼ)…」


 アレン様の中で、わたくしに対する疑念が育っていそうでしたが…

 あまり重要なことでもありませんし、今はなかったことにしておきましょう。

 わたくしは誤魔化しを含めてにっこりと微笑み、アレン様の手を取りました。


「アレン様、ブランシェイド伯爵様に要望を通す良い方法は何だと思われます?」

「そんなものを知ってたら、僕が真っ先に試してるけど。言っておくけど、うちのお祖父様ってかなり厳しいよ」

「まあ、男子ばかりが連なればそうなりますわね……そんなアレン様に、わたくしがブランシェイド伯爵に対する必勝法を見せて差し上げますわ」

「勝ってどうする気?」

「うふふ…比喩ですわよ。正確に言うのであれば、お願いを通す方法…ですわね」


 そう言って微笑めば、アレン様は何やら怪訝そうなお顔で。

 ですが引き込まれるようにして、わたくしの言葉に耳を傾けて下さったのです。


「ずばり、方法は簡潔明瞭。伯爵様にチェスで負けることですわ」


 チェスの弱い、伯爵様。

 女の子の欲しい、伯爵様。

 これらの情報を兼ね合わせると、この答え以外は導きようがありません。

 そんなわたくしの必勝法に、アレン様は怪訝そうな顔を深められて…


「負ける? 勝つんじゃなくて?」

「御尤もな疑問ですわね。ですが敗北が常となってしまっている伯爵様には、こちらの敗北こそが正気を狙う糸口です」

「わざと負けるってことかな…そんなわざと負けて、怪しまれるんじゃないの」

「そこはやはり腕次第ですわね。ですが効果的なのは確かです。何よりわたくしはこのお屋敷では新参者。未だ伯爵様とチェスの腕を競ったことはありません」

「そこがミレーゼの言う、勝機…?

そっか、まだミレーゼの腕を誰も知らないからこそ……」

「察しがよろしいのですね、アレン様。そうですわ。わたくしが弱くても誰も疑問に思わない、今だからこそ効果はより強く表れるのです。誰がどう見ても決定的な差をつけて、大敗。そうしてこう言うのです」


 ――『 えぇぇんっ 負けちゃったよぅ…

   おじいちゃま強いんだもんっ 全然勝てないよぉ…! 』


「………」

「………」

「…ご感想をどうぞ」


 わたくしの促しを経て、表情を凍らせていたアレン様は深呼吸後に仰いました。


「――誰だそれっ!!」

「わたくしですが」

「ミレーゼの個性(キャラ)と全然違うじゃないか!」

「人間、円滑にことを進める為には時として演技も必要ですわよ?」

「本人の人格とかけ離れすぎてたら嘘臭いだけだと思う! 見るからに怪しいじゃないか…!」

「あらあら…」


 確かに、アレン様の仰いますことにも一理あります。

 本来のわたくしとは、確かにかけ離れていますもの。

 それでも、今回はこれで正しいのです。


「アレン様、伯爵様がわたくしのことを何と呼んでいるのか…御存知ですか?」

「え…?」


 その問いは、きっとアレン様には唐突に聞こえたことでしょう。

 ですが素直なアレン様は、わたくしの問いを無視はなさいませんでした。


「………そういえば、聞いたことないかもしれない。当主として仕事や社交があるお祖父様と子供の僕は、あまり生活時間帯が合わないし」

「そうですか………では、これを伝えてよいものか」

「なんだか物凄く意味深なんだけど…」

 

 怖気づいたように、少し身を引くアレン様。

 そんなアレン様に追撃をかけたのは、今まで傍観していたレナお姉様でした。


「若君」

「え、なに…っ」

「ここの御大は…アンタのおじいちゃんはね……ミレーゼのことを


    『ミレーゼちゃま』


           ………って呼んでんのよ」

「!!?」

「そんで自分のことは『おじいちゃま』って呼んでほしいって言ってたわね。

それもかなり最初の段階で」

「初めてお会いした時は、『ミレーゼ様』と呼んで下さっていたのですが…

2度、3度とお会いする頃には、わたくしのことを孫娘のように錯覚なされるようになっていらして…」

「し、知りたくなかった…!!」


 がっくりと膝を突く、アレン様。

 わたくしも内心では、少々居心地の悪い思いをしておりました。




次回、ミレーゼ様と伯爵の対決(ボードゲーム)です!

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