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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
蛇足という名の番外編
203/210

子連れ奇公子珍道中 ~黄金大陸3~



「朕の名はウェズ・ラ・イール・ソルス・アトラ、この大陸を統べる王だ」


 わたくし達にジュースを振る舞い、持成してくださった方。

 防護すーつ? とやらの頭部を外してお顔を見せて下さった方は……

 ……何やらとても、特殊な名乗りを挙げられました。

 告げられた肩書の重さに、頭が理解を拒否しようとするのですけれど。


 ………………王?


「国王陛下ぁー! 果実の蜜漬けご用意いたしました! どうぞ英雄殿達とご賞味ください!」

「これは旨そうだ。有り難くいただこう」

「わあ、美味しそうだね。僕も遠慮なく食べさせてもらうね」


 ……平然と、国王を名乗る方が手にしたお皿から、果物の欠片を摘まみ取る、兄。

 お兄様……何をなさっていますの!

 わたくしは、一瞬、気が遠くなるかと思いましたわ……!


「お兄様! 国王様に接待をさせるなど、何を考えていらっしゃいますの!?」

「ああ、気にするでないよ。英雄殿がいなければ瓦礫の撤去作業に従事していただろう。王とはいえど、今は人手が足りないからなぁ。何しろ想定以上の年数を眠ることになってしまった為に、冷凍睡眠装置の不具合で眠りについた国民の六割が目覚められなくなってしまった。立っている者は王でも使わねばならないのだよ。何よりも早く、大陸と人民の回復に務めねばならない時だしな」

「何やら今、さらりと悲惨な状況を主張された気が……」


 あまりにも簡単に告げられた内容は、全ては理解し難かったのですが、何やら重い内容だということは察せられました。

 国王が肉体労働に従事するという時点で非常時であることは明白ですが、『目覚めなくなった』『大陸と人民の回復に務めなければならない』といった言葉に深刻さが窺えます。

 ですのに、彼らにも余裕などないでしょうに。

 何故か持成されている兄と、わたくし達。

 誰もハッキリとは言葉になさらないでしょうが、明らかに 邪 魔 ですわね。

 お兄様ー! わたくし達、厄介者と成り果てておりますわよー!?


 防護すーつなるモノで体の機能を維持しなければならない。

 そう仰った国王陛下のお見せ下さった顔。

 容姿の特徴を単純な言葉にして表現すれば『金の髪、金の瞳、蜂蜜の肌』といったところでしょう。

 どこぞの悲惨な歴史を持つ民族と、身体的特徴が合致致します。

 今までの国王様のお言葉と、彼の民族の辿った経緯から察するに――

 わたくしの勝手な推測ではありますが、脳内でパズルのピースが1枚の絵を描きあげました。

 推測は正しいのか否か、判断するには問いかけるしかありませんわね。

 問いかけるのは構わないのですけれど……『贄の民』の辿った歴史を思えば、安易に問うことに若干の躊躇いを覚えなくもありません。慎重に言葉を選ぶべきか、今までの旅で目にしてきた兄の率直すぎる素直さによって確立されたコミュニケーション能力が可能とする話の高速具合を見習って直球で尋ねてみるべきか。

 わたくしは5秒程の思案の末、ひとまず反応を窺ってみることに致しました。

 まずは推測の正否を確かめるところから、ですわ。

 そっと、鎌をかけるくらいの気持ちで適当な単語を舌に乗せます。 

 意味深な声音を心掛けなくてはなりませんわね。


「贄の、民……」

「うん? にえ?」

「いえ、あなた方はもしや……栄えの民、ではありませんの?」

「おや。その呼び名は今の世界にも伝わっていたのか。我等が滅んでから、何千年経ったとも知れないのに」


 鎌をかける云々以前に、肯定されてしまいました。

 身体的特徴、言葉への反応、そして民族的背景……現在に至る、事情。

 諸々を含めて考えても、これは確実と言えましょう。

 

 これは……贄の民の住民問題を一挙に解決する好機ですわ!


 『教主国』を完膚なきまでに追い詰める為、彼らの非人道的な悪事を暴くことで『教主国』の正当性を貶める為に……貶めた末に、わたくし達こそが正義だと主張する為に。

 わたくし達は『贄の民』と呼ばれて迫害されていた方々……金色の異民族がわたくし達と同じ起源を持つ同民族であることを証明し、諸外国にも否定しようのない証拠を掲げて公式に認めていただくという大事を果たすことに成功いたしました。

 由来を同じくする同族として認めたのですから、当然ながら彼ら『贄の民』はわたくし達の祖国……ウェズライン王国に帰属することとなります。『教主国』に任せる筈等、到底ありませんものね?

 こうすることで『贄の民』の人権も回復することとなったのですが……

 わたくし達の祖国、ウェズライン王国の国王様は頭を抱えてしまわれたそうです。


 国王様にしてみれば、何の前触れもなく急遽降って湧いた人権問題。


 何よりも国王陛下の頭を痛めたのは……受け皿の無い状態で、いきなり三桁、四桁の国民を当然の義務として受け入れねばならなくなったのです。

 難しい背景を持ち、諸外国の注目が集まる特殊な民族を。

 他の難民や移民でもいい加減な対応はできませんが、より一層配慮を必要とする『贄の民』を迎え入れるには、あまりにも色々と足りてはいませんでした。

 単純に数えても、受け入れるべき土地、雇用、戸籍……わたくしの幼く視野の狭い頭脳では思いつかないような問題が、他にも数多く存在するに違いありません。ウェズライン王国民と『贄の民』では祖を同じくすると申しましても、外見的特徴が既に乖離し過ぎている為、移民予定の候補地でも土着の民との間で軋轢が生じ、一触即発の事態に陥りかけた……等という報告も耳にしたことがございますし。元は同じ民でもかけ離れてしまった姿と、分かたれてからの歴史がわだかまりとなって民族融和の妨げとなってしまっているようです。

 あまりに大人数の民を、1つの場所に全員住まわせることにも少々無理が生じているそうですし。

 迫害されてきた歴史故に結束が強く、他民族を基本的に信用していない彼らを、複数の領土でバラバラに分散配置するなど以ての外です。


 国王様が頭を痛めるのも当然ですわね。 

 ですが。

 もしも……もしも、ですわよ?

 問題を抱えて人手と土地の整備に不足があるという、この大陸で……明らかに民族的特徴の一致する『贄の民』の方々を受け入れてもらえるとすれば…………あら? 問題が綺麗に解決してしまいませんこと?

 少々の差異は問題にならないくらい、ウェズライン王国民と比べればこの地の方々は『贄の民』とほぼ同民族といって差し支えない程度に似ておりますし。彼らであれば、『贄の民』も気を張ったり警戒したりせずに、ウェズライン王国に比べれば容易に溶け込むことが出来るのではないでしょうか。

 受け入れてもらうにしても諸問題は発生することでしょうし、わたくしのような小娘の一存に決定権などありませんけれど……土地はあっても人手の足りないこちらの方々と、人数はいるのに帰る場所が定まらない『贄の民』の組み合わせには、何か希望のようなものを感じずにいられませんでした。

 わたくしが決めることではありませんけれど。


 せめて、確認作業くらいはお手伝いしても構いませんわよね。

 そう、この大陸の方々が『贄の民』を受け入れられるかどうか、下地の有無程度は確認しても良いですわよね。

 ……わたくしの掴み取った勝利の皺寄せで、国家の上層部の方々を苦しめていることに思う所があるから……等という訳ではありませんわよ? ええ、決して、いきなり大きな問題を放り込んだことで恨まれている可能性があるかもしれないので……早めに禍根を潰しておこう、と、そう考えた訳ではありませんわ。

 ええ、これは純粋に、純然たる善意です。

 苦しみ、辛い目に遭ってきた同胞……『贄の民』の方々を安寧に、自分の帰属する場所として安らげる故郷に導いて差し上げたいという幼い罪悪k……同情心のなせる業です。

 決して、決して……民族問題など扱いが難し過ぎて面倒なので、彼らがウェズラインの民と同族だと証明してしまった責任を追及されて身柄を全面的に押し付けられる前に、他に押し付けるに適任な場所を整えてお任せしてしまおうなどという、無責任かついい加減な、まるでお兄様のような逃避活動ではありませんから……ね?




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