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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
伯爵家居候編
19/210

真夜中探検隊…巻き込まれるのも、致し方ないのでしょうか

 アレン様の目的はわかりました。

 深夜徘徊…真夜中の探検、ですか。

 男の子はそういうものが好きなのかもしれません。

 夜の中、闇にまぎれて徘徊…不審人物ですわね。

 アレン様の思想矯正係として、わたくしはどう致しましょうか。


  1.説得して止めさせる

  2.密告して止めさせる

  3.脅迫して止めさせる

  4.買収して止めさせる


 ………こうして考えてみますと、止めさせる一択ですわね。

 思考を整理したことで、わたくしのとるべき道が見えて参りました。

 わたくしはにっこりとアレン様に笑いかけます。


「アレン様」

「ん、な、なに…?」

「しっかりよく睡眠を取りませんと、身長が伸びませんよ」

「…え!?」


 びくっと肩を震わせ、目を見開いてわたくしを見るアレン様。

 まだ成長期前のお年頃ですもの。

 それに兄弟間で差があると、気になると申しますし。

 兄上様達に比べ低い身長を、内心では気にされているのかもしれません。

 わたくしを見る目には、怯えが見えました。

 身長がずっと低いままかもしれないという、怯えが。


「そ、それ本当…?」

「少なくとも、わたくしの家庭教師はそう申していましたわ。よく眠り、よく食べ、よく遊んで体を動かさなければ体は育たないものだ、と」

「それは…ええと、アロイヒ様はどうだったんだ?」

「兄ですか?」


 ここで兄を気になさるなんて。

 気にするということは、まだ兄への憧れが砕き足りないということでしょうか…

 今後一層より励むことを内心で決意しながら、それでも質問には答えましょう。

 わたくしは兄の生活習慣を思い出そうとしましたが…

 思い出すまでもなく、それは規則正しく一定に保たれたものでした。

 お陰で、直ぐに思い出せます。


「お兄様は、毎日屋敷にいる限りは夜9時に就寝し、朝4時に起床していましたが」

「え!?」


 先程よりも、驚きに満ちたアレン様のお顔。

 そうでしょう、そうですわよね。

 兄は素直な方なので、幼少期の習慣が抜けていないのかもしれませんが…

 

「夜の10時にもなると、眠くて仕方がないと寝室以外の場所でも転寝していると。メイドが申していました」

「………アロイヒ様…」


 アレン様のお顔に、まざまざと書かれておりました。

 どこのお子様か、それか朝の異様に早い老人なのか、と。

 実際、子供かご年配の方のような習慣ですわよね。

 ですが今は、その子供のような生活習慣を利用させていただきましょう。


「竜殺しの武勇を讃えられる兄でさえ、そういう生活を送っていますのよ?」

「それはやっぱり体が資本ということなのかな。肉体の頑健さを保つに、必要と」

「そうですね。健康健全な肉体は、やはり充分な睡眠と食事が作るのでしょう」


 実際は、ただ子供の頃の習慣が抜けていないだけでしょうが。

 それでも非常時には、真夜中丑三つ時でも平然としているそうです。

 必要があれば意識を保ち、平素と変わらぬ動きが出来るとのこと。

 そのあたりは、やはりわたくしの兄なのかもしれません。

 わたくしも、必要な時はこうして起きていられるのですから。


「ちなみに、アロイヒ様の身長は?」

「178cmですが」

「え!? 身長低っ?」


 …あ。

 問われた言葉に、思わず素直に答えた瞬間、ハッとしてしまいました。

 見れば、アレン様の目が丸くなっています。

 咄嗟に、何も考えずに返答していました。

 ですが、身長なんて見た目でわかるものは他の者に聞けばわかってしまいます。

 兄を理由にアレン様を寝かしつけようと思っていましたのに。

 ………失敗してしまいました。


「育ってないじゃないか…充分に、育ってないじゃないか!」

「兄は特異な例です。何故か育ちませんでしたのよね…」

「アロイヒ様の成長期って…」

「もう23歳ですのよ? 男性は20代でも伸びると申しますが…」


 絶望的じゃないかと、わたくしは思います。

 伸びたとしても、劇的な変化はないでしょう。


 わたくし達の国の平均身長は、他国に比べると若干高めだそうです。

 男性は190cmくらいが平均で、それより高い方も多くいます。

 女性は170cmくらいでしょうか。

 多いという訳ではありませんが、兄より高身長の女性も一定数は確実にいます。

 周辺諸国も合わせての平均と考えると、決して低い方ではないのですが…

 我が国に限っていえば、小男に入るかどうかぎりぎりのところでしょう。

 人によっては、アレン様のように低いと断言する身長です。


 ただ我が家の場合は、遺伝的なものだと思われます。

 わたくしのお父様も、身長が低い方でしたので…。

 お父様の身長は、お兄様より更に低い172cm。お母様と殆ど同じ身長でした。

 恐らく、外国からお嫁に来たお祖母様の血が強く作用したのでしょう。

 ……それを思うと、わたくしや弟の将来にも、希望が持てませんわね。


「………アレン様、身長の低い女性ってどう思われます?」

「なに、いきなり…その、僕もよくわからない。だけど小さくても大きくても、女性は尊重しないといけない相手に変わりないんじゃないかな。個人的には、女性に関わらず小さいものは可愛らしいし、守ってやりたいとか思うけど」


 小柄な女性に対しても、同じように思うんじゃないかな…と。

 アレン様は首を傾げながらも、わたくしの唐突な質問に答えて下さいます。

 そういえばアレン様は、子猫を猟犬から庇って窮地に陥るような方でしたわね…

 アレン様の考え方が一般的なものであり、他の男性にも通用するもので祈ります。そう、低身長で生きていかねばならない、わたくしの将来(みらい)の為に。


「それでええと…今の質問の意図は?」

「いえ…考えをめぐらせてみますと、遺伝的にわたくしの身長も伸びそうにありませんので」

「……………」

「クレイも絶望的ですわね…」

「ぼく、なにかだめー? だめなの?」

「いいえ、そんなことはありませんわよ、クレイ。

ただ高身長の国だと、わたくし達は生き難いですわね、というお話なのです」

「な、なんというかコメントしづらい…」


 女性のわたくしは、身長が低くてもまだやりようがあります。

 見栄えが悪いといわれることはないでしょう。

 ですが()の子のクレイは………強く生きてほしいものです。

 有る意味では、兄が身長など関係ないと強い生き様を見せておりますが。

 あの兄の背中は、決しては追ってはならない類です。

 クレイはクレイなりの道を模索するよう、強く育てなくては…


「結局、身長と睡眠時間は関係ないってことだよね?」

「…!」


 ……考えに没頭して、うっかりアレン様に論破の隙を与えてしまいましたわ!

 どうしましょう……いえ、まだ巻き返す余地はあるはず。


「いえ、兄の身長は遺伝的なもので、父と比べると幾分高く成長していますわ」

「身長に遺伝がモノをいうんなら、それこそ睡眠関係ないんじゃない?」

「………」


 駄目ですわね、どうしましょう。

 身長の話が睡眠を必要とする論拠として通用しなくなってしまいました。

 そもそもこうしてお話をしている間にも、睡眠時間は削れてしまいます。

 仕方がありませんわね。

 ここは1度妥協をみせて、後は明日に仕切り直しと致しましょう。


「アレン様、わたくし、アレン様の深夜徘徊には反対ですのよ?」

「深夜徘徊って…真夜中の探検だってば」

「同じことでしょうに」

「言い方で印象が変わるんだから、呼び方の区別は必要だよ」


 そのまま夜の探検がどれほど心躍るか、楽しいか。

 その見所や、冒険心を擽る好きな点を熱弁するアレン様ですが。

 わたくしはその言葉の1つ1つに苦笑しながら、内心で困っておりました。

 ですが今夜のところは仕方がありません。

 わたくしは、説得に失敗したのですもの。

 誰かに密告するなりして、止めてもらうこともできましょうが…

 まだわたくしとアレン様は、出会ったばかり。

 ここで信頼を損ねるような行動を取っては、後に差し障ります。

 今後の信頼関係を考えて、今は引き下がりましょう。


 わたくしは今夜は譲歩を見せて、早々に寝るよう忠告をするだけ……で…

 そろそろ、アレン様を解放、しようと思った…の、です、が……


 わたくしは、見てはならないものを見てしまいました。


 ………男の子って、探検とか好きですわよね。


 わたくしが、見てしまったもの。

 それは、熱弁を振るって夜の冒険の楽しさを語る、アレン様…ではなく。

 その膝の上で………アレン様を見上げて、目をきらきらと輝かせる。

 わたくしの、(クレイ)


「よりゅのぼーけぇ? たのしーの? どきどき、わくわくー? きゃあ!」

「ん、クレイも興味あるの?」

「あい!」


 満面の笑顔で、こっくりと頷くクレイ………

 く、クレイ…


 なんということでしょう…

 アレン様が、あまりにも楽しそうになさっていたから、でしょうか。

 その語る内容が、クレイの男の子心を擽ったのでしょうか。

 クレイが、夜の探検に興味関心を示してしまったのです…。

 わたくしは、どうしたら…




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