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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
楽しい陰謀編
170/210

権威ある式典の場に、わたくしの乱入をお知らせ致します【事前告知】




 わたくしにとって有利に事を運び、『教主国』への信頼を相応の位置にまで貶めるにも、趨勢を決するには他の国々からの援護が必要です。

 逆に申しますと、より多くの国々から一言「是」とわたくしの証言に対する正当性を認める証言をいただければ、都合よく話を進めることが出来ます。

 人の心情が束ねられて形成される『情勢』というものは、操ろうにも誰か1人の証言が人の心を打つだけでいとも簡単に暴走し、手に負えなくなってしまうもの。

 世の流れを操作することは容易ではありません。

 ですが、予め人の心情が流れ込みやすいよう、道を付けて差し上げれば……

 『道』を整備する為に、我が家の名を受けて方々へ密かに文を届けていただいた方々にはじっくりたっぷり、各国の重鎮の皆様と『お話し』してきていただきました。

 彼らに費やさせた時間と労力と精神力――そして少々の犠牲――の上に成立まで何とか事を運んだのです。

 こうして準備が万事整いましたのも、わたくしの手足となって働いて下さった彼ら……『青いランタン』と、『黒歌衆』の善意溢れる有志のお陰ですわ。

 彼らの努力を無に帰させない為にも、そして各国から得ることのできた貴重な御理解と誠実さに富んだ『協力を約する念書(血判付き)』を無駄にはしない為にも。

 わたくしは、わたくしに出せる最大の効果を狙って後は走るのみ。

 ……いえ、走るなど、淑女として恥ずかしいことですわね。

 訂正致しましょう。

 わたくしは小走りに、容赦なく、彼らの罪を責め立てる……と。

 『教主国』をどこまで追い詰めることが出来るのか、わたくしの……いいえ、わたくし()の腕の見せ所ですわ。


 わたくし単独では、とてもこのような難事に当たることは不可能でした。

 支え、協力して下さった多くの方々にこの上ない感謝を申し上げたく思います。

 ……ただし、全てが円滑に、わたくしの望む通りの結果を得られれば、ですけれど。

 全てが終わった後、彼らに無事に謝意を述べることが出来るよう、天の両親に祈りを捧げて。


 整った『用意』を携え、準備の最終段階へと移ります。


「――それが、身代わり(ぼく)と入れ替わること?」

「ええ、そうですわ。アレン様。今まで1ヶ月にも及ぶ身代わり生活……本当に有難うございます」

「うん、もっと早くに迎えに来てくれても良かったんだよ?」

「まあ……うふふ、アレン様ったら」

「え。なにこの僕がおかしいこと言った、みたいな空気」

「ようやく準備を終えましたので、アレン様と入れ替わりに参りましたのよ? これより早くなど……わたくしにやるべきことが山積していた以上、無理ですわ」

「ミレーゼ……君は、今まで僕を放置して何をやってたの? 僕に身代わりを任せた方が都合良かったから、というのはわかったけど。迎えに来たってことは、やるつもりの事に目処がついたってことだよね?」


 アレン様の予想は、当たっています。

 わたくしが今回、アレン様を回収しに来たということ。

 つまりはアレン様にわたくしの代役をお願いせずに済む場面へと状況が動いたということです。

 わたくしが何をするつもりか、アレン様はお尋ねになりましたわね?


「アレン様、3週間後……『教主国』の聖都(首都)で大きな祭典が催されることは御存知ですわね?」

「え? あ、ああ。『教主国』でも伝統のある、国際的にも有名なお祭りだよね。『教主国』の前身を作った『教祖』の没命日だったっけ」

「地上に残される信徒の方々の為に今も天上で祈りを捧げている……という事になっている『教祖』の肉体からの解放を尊ぶとか。祈りの対象を異とするわたくし達には今一つ理解し難い祭典ですわ」


 ですが、仮にも『教祖』にまつわる最も大きな祭典の1つ。

 つまりは大きな祭典である分……衆目の関心が集まり、大陸中の耳目を引き寄せる日、という見方が出来ます。

 わたくしにとって、最も好都合な日の1つと申してもよろしいでしょう。


「王位継承に『教主国』の認可を必要、という形式で成り立っている列国からも大々的に使者が来たり、ともすると国王自身が祝典に駆け付ける為にやって来たり……っだっけ。確か、一応はうちの国からも使者を出すんだよね。他国との協調も兼ねて」

「まあ。わたくしが思うよりも詳しく御存知の様ですわね」

「うん、ほら、この季節の観光の目玉……って聞くし。あの国の宗教を信じてる人達には巡礼の良い機会なんだよね? 3番目の兄さんが1度行ってみたいって言ってたことあったから」

「3番目のお兄様? お会いしたことはありませんけれど、好奇心が旺盛な方ですのね」

「うん。落ち着きがないっても言うけどね」

「まあ、うふふ……当家の兄に比べれば、きっとマシですわよ。けれど、アレン様。3番目のお兄様には今年は観光を見送るよう、お勧めになった方がよろしいかもしれませんわね?」

「え?」

「でないと……『現場』に居合わせでもなさったら、きっと混乱に巻き込まれてしまわれますもの」

「………………」

「………………」

「……ミレーゼ、そう言えば僕、君が本格的に『教主国』のことを『敵認定』したって聞いたことがあるような気がするよ」

「まあ、アレン様ったら。気のせいではありませんわよ?」

「…………………………兄さんには未来永劫『教主国』には足を踏み入れないように忠告するよ。少なくとも、その国名で国家が存続している内は」

「賢明な御判断ですわ。下手すれば国交が断絶してもおかしくありませんし、わたくしの気持ちとしては苛烈に攻撃させていただきたいくらいですもの」

「アグレッシブなミレーゼ、か…………大陸の地理、覚え直さないと駄目かな……」

「あの、アレン様? わたくし、何も彼の国を地上から抹消するまでのつもりはありませんわよ?」

「誰もそこまでは言ってないよね!? 僕はただ、国境線が変動するかと思ったくらいだったんだけど…………そっか、いざとなったらミレーゼはあの国を消滅させちゃうんだね」

「アレン様はわたくしのことを危険人物扱いなさっておられません? 心外ですわ。やるのはわたくしではありませんわよ!」

「誰にやらせる気!?」


 まるでわたくしのことを信じておられませんわね。

 今にも発狂しそうな危険人物を見るような目で、アレン様は胡乱な眼差しをわたくしに注いでいらっしゃいます。

 ですが、本当に心外です。

 わたくしのような幼い小娘に、国家消滅などと……個人の願望は抜きにして、そのような大きな事を起こせる筈がないではありませんか。

 出来るか出来ないかで申し上げますと、確実に出来ません。

 わたくしに、国の根幹を揺るがすほどの大きな力はありません。

 だからこそ、此度の件でも手を貸して下さるより多くの方を集めねばなりませんでしたのに。

 沢山の方々の協力を得て、初めて成し遂げられますのよ?

 『教主国』の告発という、大事を。


 ですからわたくしは。

 アレン様の思い違いを正す為に、はっきりと明言させていただきました。

 一体何方が、国家の消滅などという個人の領分を越える大事を……人間離れした難事を成し遂げられるのかを。

 きっと、わたくしは穏やかな微笑を浮かべていた筈です。

 わたくし自身が穏やかな心持で、アレン様に申し上げました。

 難事を成し遂げる、超人の名を。


「 アロイヒお兄様です 」

 

 とても簡潔にして、的確な答えだったと自負致します。

 わたくしの答えを耳にして、アレン様は何やら生気の抜け落ちた目でわたくしを見返していらっしゃいましたが……

 竜をも殺す剣士の力、前にご覧になってみたいと仰っていましたわよね?

 

 大陸を宗教という形で精神面から主導する『教主国』。

 わたくしの怨敵ですが、大国であることに違いはありません。

 大陸でも取り扱いに気を遣わねばならない、大国に……まさか『竜殺貴公子(おにいさま)』を誘き寄せる。

 ただそれだけの為に告発等という大それた事に踏み込もうとは。

 アレン様はまさか予想もしていなかったと言わんばかりの顔色で、無言のままにふるふると首を力なく左右に振っておいででした。

 アレン様? 今の反応は……どのような意味ですの?


「王家に連なる方との縁故を通して、既に王家及び国家上層部には許可を取り付けております。代償も高くつきましたが……」

「代償!? ミレーゼが……え? 何払ったの?」


 アレン様はわたくしには安易に払える代償がないことを御存知です。

 だからこそ、怪訝に思われたのでしょう。

 純粋に疑問だと、問いをいただいてしまいました。

 ですが……叶うことであれば、あまり追及してほしくありませんでしたわ。


「……極楽ty…………第4王子セドリック様と会話の通じない狐狩りを8時間ほど。わたくしだけでなく、第5王子殿下もご一緒でしたわ」

「え……きつね?」

「王家の管理する森に生息している、ただの、一般的な、普通の狐ですわよ」

「あ、なんだ。そうなんだ……」

 

 何を連想されましたの、アレン様。


 王家に話を通すとなった時、公的な権力を持たない『第5王子』では取り次ぎをお願いするにも、残念なことに役不足と申し上げるよりありませんでした。

 ですが、王妃様に直接お話しを通す訳には参りません。

 ……あの方に安易に頼みごとを持って行ったが最後、王家との養子縁組を強要される気が致しましたので。

 わたくしが直接面識を持っている王族の方は、そう多くはありません。

 上記の2名が無理となれば……残された選択肢は、1つだけでした。


 もう2度と、私的にはお会いしたくありませんでしたわ。

 第4王子セドリック殿下……。

 

 ですが背に腹は代えられません。

 仕方なしに話を持ちかけた際、代償として提示された要求が……第5王子殿下をお誘いした上での、狐狩り。

 ……末王子、つまりはセドリック殿下にとって唯一の弟君に当たる、第5王子殿下。

 たった1人の弟殿下が気になられるのか、引籠った部屋から引きずり出そうと躍起になっていらっしゃいましたものね。

 引籠りと目されている当の第5王子殿下は、宮廷人の知らない間に密かに貧民街と頻繁に行き来をされておいでですけれど。セドリック殿下がお思いになられるより、大分活発的な方だと思いますけれど。

 

 『第5王子』殿下はセドリック殿下とご一緒されたくないらしく……とても抵抗された上、最後には『第5王子』と『ピート』の間で押し付け合いが発生しておりましたが。

 ここは情けをかけるべき場面ではなさそうでしたので、問答無用で引っ張り出させていただきました。

 これもわたくしの大志を果たす為、謹んで犠牲になっていただきます。

 ……あまりにも抵抗が激しいので、逃亡を防ぐ意味でも『青いランタン』の幹部の方々には密かに勢子に紛れて同道していただきました。

 …………ルッコラの『犬(?)』を見て、森の狐達が怯えて震えている光景が目に焼き付いているのですが、何故でしょうか。


「……それで王家の方々が、ミレーゼの行動に許可を出したの?」

「わたくしが思う以上に、セドリック殿下も実務面では有能な方だったようで……弟君との『ふれあい体験』という御褒美の為に、張り切って下さいました」

「なんでだろう、ミレーゼの声音にお葬式で聞くお悔やみに通じるものを感じるのは」

「ですが『第5王子殿下』という尊い犠牲の上に、わたくしの要求は叶いましたのよ」

「尊い犠牲言っちゃった!? そこまでして、何をする気!?」


 わたくしが王家に承認していただきたかった、最重要項目。

 これを外しては、切り札を切るタイミングから何から、全てを調整し直さねばなりません。

 最高のタイミングで最高の結果を得る為、どうしても外せないことでしたの。


「――此度の『教主国』の祭典に、我が国から派遣される大使……その副使として、わたくしも同行させていただけることになりましたの」


 正式な使者となれば、扱いは国賓待遇。

 公的な立場を持たない8歳児には破格……いえ、非常識な扱いです。

 ですがここでわたくしの立場がモノを言うのです。

 わたくしは内々に『聖女』に是非、とお誘いを受けている身。

 お話を受けるか否かの判断材料として、『教主国』最大の祭典をこの目で見て貴国への理解を深める為に参加する。

 ええ、立派に言い訳が立ちますわよね。


 実際には、大衆の注目を受ける祭典の場で糾弾するつもりなのですけど。


 きっと祭典は滅茶苦茶になりますわね。

 ですが、わたくしが乱入出来るのも半ば『教主国』のお陰というのも、皮肉が利いていてよろしいのではないかしら。

 己の行いは、いずれ己に返る。

 エルレイク家は覚悟もなく手を出して良い家ではありませんのよ。

 ――『自業自得』という言葉、身に染みてご理解していただきますわ。

 




 彼らの始まりを告げた男が命の()を燃やし尽くした日に……何かが起きる!(エルレイク家御令嬢乱入のお知らせ)


 関係各所の何も知らない下っ端役人さん達は泣いていい。



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