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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
楽しい陰謀編
167/210

類は友を呼ぶと仰いましたのは、どなた?



「――ミレーゼ様、ギルさんから業務報告が来ましたよ」

「業務報告……?」


 わたくしの亡き両親の遺体を捜索させる為、ギルを王都で放流致しました。

 別れてから、まだ1日と経過していないのですけれど。

 当家の使用人は他家に比べて優秀とのことですが、流石に1日足らずで亡骸の追跡を完了させるとは思えません。

 そして当家の使用人が、主家の命を果たさずして戻って来るとは思えないのです。

 少なくとも、何らかの戦果を得ない限りは……数時間で諦めるような腑抜けは、当家には不要です。


 ですが、業務報告。


 逃げ戻ってきた訳ではなく、業務報告。

 つまり、敢えてわざわざ連絡してくるような何か……進展があった、ということなのでしょうか?

 わたくしにギルからの連絡を知らせてきた方……ルッコラは、手元に何やら紙片を握っておいでです。

 丁寧に折り畳まれた、手紙の様に見受けられます。

 業務報告とは、ルッコラの手にある手紙のことでしょうか。

 既に内容に目を通していたのでしょう。

 手紙に記された報せを、ルッコラは端的に口にしました。


「協力者の助けで『贄の民』の女を捕獲した……と。『教主国』と通じていた王国貴族の名前を吐かせたので、これから乗り込んで家探しするそうです」

「何がありましたの、ギル……?」


 彼と別れてから、未だ数時間。

 ええ、ほんの数時間前のことですわ。

 ……たった数時間で、成果が大き過ぎませんこと?

 当家の使用人は、どうやらまこと有能であるようです。


 『贄の民』の、女性。

 わたくしも存じております、あの(・・)彼女のことのようです。

 ……精霊に翻弄され、わたくしの兄に対する見当違いの憎悪を育み始めた……『あの』。

 何とも可哀想な空回り具合でしたけれど、敵地で兄の従者に捕まえられるとは何という星の巡りでしょう。

 わたくしとしては都合がとてもよろしいので、ギルのことを褒めて差し上げたくなるばかりですけれど。

 少なからず関わりがあるのでしょうティタニスは、複雑そうな顔をなさっておいででしたけれど。

 今の今まで、わたくし達の話に若干怯えの滲んだ顔をなさっていて、聞きたくないとばかりに耳を塞いでいらっしゃいましたのに。

 部屋の隅に自主的に退避なさっていたティタニスは、報せを聞いた今では諦念と驚愕の入り混ざったお顔で項垂れていらっしゃいます。

 きっと、あの山で邂逅してより……こうなる運命だったのだ、と。

 己に言い聞かせるような、ティタニスの呟きがわたくしの耳にも届きました。

 何やら心情の整理に手間取っておいでのようですので、今はそっとしておいて差し上げようと思います。


 ギルの報せによれば、彼らの向かった先……エルレイク領の隣に領地を持つ貴族こそが、王国の裏切り者。

 ここ数年の間、王国内で暗躍していた『教主国』の密偵に関して多くの便宜を図り、様々な案件に関わっていた疑いがあるようです。

 特にエルレイク家に対して思うところがあったようで、エルレイク家を対象にした企てにはほぼ全てに関与していたのでは……と。

 つまり、わたくしの両親の亡骸を持ち去ったのが『教主国』なのでしたら……この件にも、裏切り者の関与が予想されます。


 国内で堂々と遺体を持ち去ったのです。

 大きな動きを見せる行為に、裏切り者の……しかも貴族が何かしらの手配をしていなければ、人や物資、道の確保は難しいものでしたはず。

 これに関与していたとなると、真偽を確かめるまでもなくエルレイク家の敵と申せましょう。

 容赦は無用です。

 何かしらの証拠をギルが見つけて下さるとよろしいのですけれど。

 『教主国』とやりとりした手紙の現物等があれば最良です。

 是非とも、『教主国』の行いを罪に問う際に提出する証拠として押さえさせていただきましょう。


「……ですが、いざ訴えるとなると……やはり誰か人を介したものではなく、『教主国』自身の罪を問う証拠を手に入れたいところですわね」

「そんなもん、ほいほい簡単に手に入るわけねーだろ」

「あら、やりよう次第でどうとでもなるのではなくて?」

「ならねーよ!」

「……『わたくし』が、『ミレーゼ・エルレイク』が貴方たち『青いランタン』を従者に混ぜ、直接乗り込んだとしても?」

「え゛っ」

「ちょ、おい……落ち着け、ミレーゼ」

「ピート……かつて、過去の偉人にこう申された方がいらっしゃるそうですわよ。

――虎穴に入らずんば、虎児を得ず。

危ない橋を渡らぬことには、欲した物を手に入れることなど出来ないのです」

「それは危ない橋にしたって渡るに危なっかし過ぎんだろ!?」

「そうだよー! ミレーゼ様の中身はともかく、身体能力は8歳のお嬢様に過ぎないんだから! それで敵地に潜り込むのは無謀過ぎだよ」

「……フィニア・フィニー? 中身はともかく、とは……どのような意味かしら?」

「うふふふふ……とにかく、危険だよ!」


 まあ、フィニア・フィニー?

 どうなされたのかしら……わたくしから目を逸らして、冷汗をかいておいでですわね? わたくしの目を見て、はっきりと仰って下さいませ。


 頑なにわたくしから目を逸らしておいでなのは、フィニア・フィニーだけではありませんでした。

 皆様、わたくしに何か物申したいことがおありでしたら、どうぞ遠慮なさらないで?

 優しく声をかけさせていただいても、返事はありません。

 仕方のないことですわね。

 わたくしは彼らの態度に言及することを止め、そっとしておくことに致しました。


「御安心なさいませ。誰が直接潜り込むなどと申しましたの?」

「えっ?」

「既にアレン様がわたくしの身代わりとして、『教主国』のウェズライン王国における最大拠点ともいえる……王都の教会に入り込んでおられるのでしょう? お世話をする為の追加要員なり何なり、口実を設けてまずは其方に足を運ばせていただこうかしら、と。わたくしは思っている次第なのですけれど」

「……そしてあわよくば、人員に紛れてひっそりこっそり王都の教会家探ししようって?」

「察しがよろしくて結構なことですわね、ピート」


 本当に、ピートは聡い方だと思います。

 本来の身分が王子なのか、孤児なのか……どちらかは、測りかねますが。

 今まで生きてきた環境は、どちらも特殊と申せましょう。

 特殊な生い立ち故に、必要に迫られて聡くなられたのでしょう。

 ……ですが。


「確かに、計画自体は間違っておりませんけれど……目標とする場所が、違いましてよ」

「あ?」

「人員に紛れて、密やかに証拠や他の悪事を探す。このことについて誤りはありません。ですが探す場所は王都の施設ではありませんわ。


  目標として狙うは、『教主国』の中心でしてよ  」


「はあ!? ちょ、おま……何言ってんの!?」

「敵の本拠地を家捜しする、と申しました」

「敵地に堂々!? それもいきなり! おま、堂々過ぎんだろ! しかもその計画、アレン矢面に立たせたまんま影武者させて、『教主国』のど真ん中に投げ込もうっつってねーか!?」

「ふふ、流石の理解力ですわね。ピート」

「理解力ですわねー……じゃねえだろ!」

「ですけれど、安心なさって? 確かに潜り込もうとは思っておりますけれど……何もいきなり決行しようとは思っておりませんのよ。


敵地を探る前に、国内の施設も検めねばなりませんもの。


王都の施設にも、重要な証拠があるかもしれませんでしょう? それが終わってから、『教主国』に仕掛けますわよ」


 にっこりと微笑む、わたくしに。

 ピートが、爽やかな微笑みを返して下さいました。

 あらあら……少しの間で作り笑いが下手になりましたのね、ピート。


「ミレーゼ、よく聞け?」

「どうかなさいまして?」

「王都の教会関連施設は……とっくのとうに、こっそりガサ入れ済みだ」

「今、何と仰いまして?」

「王都の『教主国』関連施設は、とっくの昔に漁りまくった後だっつってんだよ」

「まあ、手回しの速いことですわね!」

「ミモザはともかく、フィニア・フィニーがな……あいつ、教会関係に思うとこがあるヤツだしな。嬉々として汚職やら陰謀やらの証拠探しに動員してたぞ。ルッコラの配下を」

「……ルッコラの、配下を」

「ああ、『犬』を……な」

「『犬(?)』を、ですか……」


 きっと、大きな成果があったことでしょう。

 手段を選ばなければ、危険も多くなりますが収穫も多くなります。

 わたくしとピートがほぼ同時に視線を向ければ、話題の中心人物たるフィニア・フィニーがふんわりと満足そうな笑みを浮かべました。


「隅々まで隙なく隈なく探し回ったよ! 書類も物的証拠も、ダミーと交換して回収済みだから☆ 戦利品の目録あるけど、ミレーゼ様欲しい? 欲しい? 絶対確実に『教主国』の信用やら何やらを追い落として失墜させてくれるんなら、無償で提供するよ♪」


 恐ろしいですわね……。

 これが、フィニア・フィニーの恨みの力なのでしょう。

 『青いランタン』関係者の恨みは買いたくないものですわね。

 フィニア・フィニーはキラキラと輝く笑顔で、最も効果的な攻撃の機会を逃さず活用するおつもりのようです。

 もちつ、もたれつ。

 利用し、利用され。

 わたくし達は盟友ですもの。目的の為に互いに利用し合う程度のことに、否やは御座いません。

 これがきっと『友情』……というものなのでしょう。

 ええ、とても素敵ですわね、『友情』。

 1つの最終目的を同じくし、協力し合う。

 これが助け合い精神というものなのかしら。


「ピート、ミモザ、フィニア・フィニー、ルッコラ……『青いランタン』の皆様、どうかわたくしに力をお貸しくださいませ。貴方がたのご助力を得られれば……わたくしは、国すらも墜とせるような気がするのです」

「それむしろ、俺がお前らに言いてぇんだけど。ミレーゼ(おまえ)にしろアロイヒにしろ……お前ん家、化け物が揃い過ぎじゃね?」

「まあ! 淑女に対して失礼ですわ!」


 寄りにも寄って、わたくしをお兄様と同列に語りますの!?

 この上なく、心外ですわ。

 協力関係にある盟友として、多少のことでしたら大目に見ますけれど……ピート? 貴方とは、話し合いの必要がありますわね。





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