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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
遠距離従者ギルの冒険編
166/210

世の中、不思議とは殊更多くありふれているものですのね



 確かに首を飛ばした筈だった。

 なのに世の中には、俺の知らない不思議が幾つあるんだか。


 ぞる。

 ぞるぞるぞるぞるぞる。


 引きずり、這い回る肉の音。

 飛ばした筈の首は、見る間に繋がり、元に戻る。


「うわ、気持ち悪っ」

「……そんな反応で済むなんて。ギル、アンタって大物ね」

「いやだって、あれ気持ち悪いっすよね!」


 大概の生き物は首を落としたら死ぬ筈なんすけど。

 それで死なないって、あの黒いの反則じゃないっすか?


『――ふん? 思ったより損傷が大きいな』


 黒いのをけしかけた、『敵』が意外そうな声を上げる。

 損傷が大きいとは言っても、それで再起不能とは思ってもいなさそうな声。

 これは、本格的に俺の手には負えないかも。


 だけど。


『……ここで手間取り、破壊されてもつまらないな。仕方がない』

「え?」

『この場はこちらが引いてやるとしよう。大いに感謝し、生き長らえた幸運に踊り狂って喜びの舞を捧げるが良い!』

「えっ?」


 何故、そんな展開になったのか。

 本当に、なんでか全然わかんないんですけど。


 あの謎めいた『敵』は、自ら引いた。

 得体の知れない黒いのと、それから何故か地面に倒れていた……腕を失って大量失血中の、マッチョのオッサンを回収して。

 魔女さんが「待てー!」と血相を変えて追いすがってたんですが。

 『敵』の人外御一行様は、急にどこへともなく。

 霧の様に、空気に溶け込み掻き消えた。


 後に茫然とする俺と、魔女さんと。

 そしてさっきまで磔にされていた、謎のお姉さんを残して。

 ……この(ひと)、お嬢様の敵っぽいんすけど。

 残して行かれて、俺にどうしろと……。


 お嬢様に指示を仰ぎたい気がしましたが、まだ任務は全然達成出来ていません。

 まさかすごすごと戻る訳にもいかず、どうしたものかと途方に暮れました。

 ……エルレイク家の方の性質を鑑みると、一応生かして連行した方が喜んでもらえる気がします。

 なので、ちょっと不安は残るんですが。


「魔女さん、頼みます!」

「……仕方ないわねぇ」


 長く生きているせいか、医療の術にも長けている魔女さん。

 彼女にお願いして、この金ぴかのお姉さんを介抱することにしました。

 磔にされてはいても、誰かに……というかあの『謎人形』に献上するつもりだったという言葉を違えることもなく。

 少しの怪我はしていても、致命傷になりそうなものはなかった。

 この様子なら、すぐに動ける様になりそうです。

 気絶してるんですが、目を覚ましたら早速動き回ることも出来るんじゃないっすかね。

 ……そのまま逃げられても困るんで、気絶している女性を相手に酷かもしれませんが。


 とりあえず容赦なく縛っておくことにしました。


 それに行方知れずのお館様達についても、何か情報を知ってるかもしれませんし。

 エルレイク家に敵対する者なら、手加減の必要もない気がします。


「――ああぁ……結局、アイツ逃がしちゃったわ。これじゃサージェスが復活した時、何されるか……こわっ」

「魔女さん、何かされるかもしれないって……」

「アイツの見張り番。ずっと昔に頼まれて、今まで何とか上手くやってたって言うのに……いや、でも。『始王祖』が復活したって言うんなら、そこで張ってればアイツもきっと……?」

「魔女さん、魔女さーん」

「……ギル」

「何ですか」

「アンタ、『始王祖』の場所知ってるのよね?」

「知ってますけど」

「どこ!? 『始王祖』はどこにいるのよ! 観念して大人しく白状するのよ!」

「え、ええぇ……あの不気味人形だったら、お嬢様の傍を離れられないらしいんで…………今頃は王城っす!」

「!!?」


 あ、魔女さんが頭抱えました。


「………………王都滅亡の危機かもしれないわ」

「そんな大げさな……」

「全然大げさでもなんでもないのよ!」

「んっと、でもあの変な奴ら、お土産獲りに行くって言ってましたよね。このお姉さんの一族の、幼女を襲う的なことを……」

「……」

「……」

「この女、叩き起こしましょう。そして一族の場所を吐かせるのよ!」

「その前に俺の要件もどうにかしてほしいっす。こっちも急ぎたい事情があるんで」

「そういえば、ギル。アンタ、何の用件で私を召喚しようとしたの」

「実は……」

 

 かくかくしかじか。

 簡単に、事情を説明するくらいの時間はあります。

 エルレイク家の、亡くなった御夫妻の亡骸が行方不明だということ。 

 その捜索を、俺が命じられたこと。

 そしてエルレイク家にここ最近で害成す存在として浮上したのが、この金色の女や女の背後にいるであろう……『教主国』だってこと。


 だからひとまず、この女に御夫妻の亡骸について知っていることはないか吐かせたいんすけど。


 それらの説明を終えて魔女さんの顔を見てみると。


「……………………っ」


 魔女さんは、顔面蒼白でした。


「殺される……サージェスに、絶対に殺される! アイツが死んでる間に、末裔にそんなことがあったなんて知れたら……!」

「なんか当然のように、エルレイク家の初代様が復活する前提っぽいけど……知られる前に丸く収めてなかったことにすれば良いんじゃないですか? という訳で、手伝って下さい」

「そ、そうよね! アイツの知覚能力の精度を思えば、知られずにいられるとは思えないけど……でも事態の収拾に努力したかどうかは、充分に加点対象よね!? 殺されない為に、少しでも点を稼がなきゃっ」

「魔女さんにとっての、初代様って一体……」

「…………知らない方が、世の中素敵に生きられるわよ」


 こうして、なんか良くわからない騒動の果てに。

 俺は頼もしい協力者を得ることに成功しました。

 長く生きて知識や技術が豊富で、魔法にも長けた魔女さん。

 そして捕虜に、『贄の民』と言いましたか……金ぴかのお姉さんがいます。

 今後の行動指針は……取敢えず、尋問してから決めれば良いかな。


「な、なに? 一体なんなのよ! バグボルトっ? バグボルトはどこ! アンタ達、どこにやったの!?」

「へいへい嬢ちゃん、大人しくなさい! アンタに聞きたいことがあるんだから」

「……何を聞くつもり? あなた達は、誰。私は何も喋らないわよ」

「それは困りましたっすねー。実はお姉さんのお連れさんらしきマッチョのオッサンなんですが、大変なことになってますよ」

「っバグボルト!? え、彼がどうしたの!」

「お姉さん、気絶する前のこと覚えてます? 貴方がたを散々に痛めつけた黒っぽいの、とか……」

「ひっ……」

「あ、覚えてますね。覚えてるんなら、結構です。実はお姉さんのお連れさん、そいつらに攫われちゃったんすよー」

「っ!!?」

「なんか、アンタ達の一族の郷に行きたいらしいわよ。『贄の民』の、幼女が欲しいんですって」

「はあ!?」

「そのバグボルトとやら、生きてるんなら今頃拷問でも受けてるんじゃない? 郷の場所を聞き出す為にね。まあ、死んでいてもアイツらなら……死体から、血から、情報を引きずり出すことも出来るでしょうけど。あら? あらあら大変ね、お連れさん、命の保証は出来そうもないわ」

「……で、お姉さんは今現在、俺らの捕虜で。御自分の立場、わかります? 理解できてます? OK?」

「な、な、なぁ……っ」


 言葉もない様子の、お姉さん。

 まずは名前から聞き出してみましょうかね。

 軽い情報から気を緩めて、徐々に大きい情報を引きずり出す。

 そんな手法を、エルレイク家の使用人教育で学んだことがあります。

 今まで活用したことはないから、自信ありませんけど……今こそ『エルレイク式尋問法』を役立てる時、ですよね?

 出来れば手荒な真似はしたくないんで、潔く喋ってもらえれば助かります。



 ちなみに尋問は、最終的に魔女さんが自白剤を調合して穏便に済ませることが出来ました。

 後遺症はないそうっすよ、良かったですね!

 尋問術だけで聞き出す事の出来なかった自分の未熟さは恥ずかしい限りですが、何とか手荒な手段に訴えずに済んでほっとしました。

 ですがまだまだ解放する訳には行かないので。

 これから暫く、同道よろしくです。タリッサさん!


 そして、俺達は。

 タリッサさんから得た情報により、先ずはエルレイク侯爵領のお隣にある、とある男爵領に足を向けることとなりました。

 そこの領主である男が、ウェズライン王国内での協力者だという話なので。

 つまりは『教主国』に密通した裏切り者とも言います。

 そういえばお隣の領主さんは、前々からエルレイク侯爵領の豊かさに、物欲しそうな視線を隠さない男だった気がします。うちのご主人一族と比べてはいけないんでしょうが、浅慮というか欲深というか……己の身の程をわきまえない類の小者、という印象だったんですが。

 他国と通じて悪事を働くなんて、意外と大物だったんですね。

 タリッサさんの話によると、なんかエルレイク侯爵領への並々ならぬ執着があるらしく。

 エルレイク侯爵家に対する謀略には大体コイツの仲介が絡んでるらしいんで、『教主国』の悪事に関する証拠が残されている可能性大、だとか。

 ……それが理由で近々消される予定だったそうですけど。お屋敷ごと。

 証拠諸共消される前に、エルレイク侯爵夫妻について情報がないか暴きに乗り込まないと、ですよね。

 『教主国』の密偵の手配に関わっているんなら、ご遺体の行方に関して絶対に何か知ってる筈です。

 まあ、ご夫妻の行方知れずに『教主国』が関わっているなら、ですけど。

 どの道、エルレイク侯爵家の敵には違いありません。

 敵とわかれば此処は家臣として、相応の態度で接しようと思います。


「――あ、そうだ」

「ギル、どうしたの?」

「いえ。乗り込む前に業務報告しておかないと」

「……業務報告?」


 怪訝そうな魔女さんと、どうにでもなれと棄てばちになっているタリッサさん。

 2人に、ちょっと待ってもらって。

 俺はお嬢様達と別れる際、託された『連絡手段』を取り出します。


 それは、ふっさりと柔らかな。

 どう見ても『狐の尻尾』にしか見えないブツです。

 魔女さんの顔が、露骨に疑いの眼差しを注いできます。

 いやでも、これが『連絡手段』だって渡されたのは確かなんで。

 使い方は良く分かりませんが、これが『連絡手段』だって言われたんですよ!


 渡された際に受けたレクチャーに従って。

 俺は、『狐の尻尾』を放り投げました。


 ――ぽぽんっ


 軽く、何かが弾ける音がして。

 3人揃って目を向けた、そこには。


「にゃーん」

 

 ………………なぞのせいぶつがいました。

 見た目『狐』なんすけど、狐ってこんな鳴き声でしたっけ。

 それで、あーっと、なんですかね。

 えっと、これ、『連絡手段』なんすよね?


 なんだか自信がなくなりますが。

 俺は指示された通り、『狐』に事の仔細を記した手紙を預けてみることにしました。


「えっと……よろしくお願いします?」

「にゃー」

「……って食った!? 手紙食われた!」

「にゃー」

「良いのかな、これで……」



 俺が知ってることなんて、そんなに多くはありませんが。

 それでもやっぱり思います。

 世の中、不思議なことは割とその辺に溢れてるものなんですね?





使役犬『ファックスハウンド』

 ルッコラの品種改良により爆誕した犬(?)種。

 体長50~70センチ。

 黄味がかったオレンジ色の体毛が特徴的。

 軽量なものに限られるが、物資の体内転送機能付き。

 

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