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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
遠距離従者ギルの冒険編
164/210

同じ名前のややこしさを体感するのは、程々にしたいものですわね

なんだか書いている内に、くどくなってしまいました。

もっとさくさく進めたいのに、中々上手くいきません。




 何故か盛大に動揺して、うちの主家と何らかの関わりがあるらしいことを分かり易いくらい露骨に態度で示してくれた、敵。

 未だに何が何だかよくわからない、謎のイーヴァなんとか。

 だけどこの見るからに化け物としか思えないイキモノに、うちのご主人様一家とどんな関係が……?


『貴様、矮小なる人間が。貴様はエルレイクと繋がりがあるというのか!』

「それを問いたいのは俺の方なんすけど……まあ、主従の関係ですね」

『主従! 主従だと!? 矮小なる人間の分際で!』

「連呼してますけど、その『矮小な』って枕詞、絶対必要なんすかね」

『貴様如きがエルレイクの下僕を名乗るなど烏滸がましい!』

「魔女さん、あいつ話が通じないんすけど。あと、烏滸がましいの烏滸ってどんな意味でしたっけ」

「【烏滸がましい】……身の程をわきまえない、差し出がましい、生意気って意味よ。あと馬鹿馬鹿しいとかそんな感じね。どうでも良いことだけど、アンタら温度差凄いわね」

「み……っ身の程知らず、だって!?」


 その言葉は、駄目だ。

 問答無用で突き刺さるから。


 身の程知らず。


 そんなもの、俺自身が1番良くわかっている。


 生まれた時から、若様の将来の腹心として育てられた。

 なんとも光栄なことでしたが、若様は誰が思っていたよりも大きなお方で。

 その器の桁違いぶりは、幼少の頃からキラリ光って発揮された。

 そんな、偉大な方だから。

 あの(・・)若様の側仕えとして……従者として、俺の力量が不相応だってことくらい。

 言われなくたって、もうとうの昔にわかっていた。

 わかって、いたけど。

 身の程を少しでも高めて、少しでも。

 僅かな歩みだろうと、少しだけでも。

 若様の傍に届かせようと、何度も何度も挫折して、何度も何度も周囲に嗤われながら。

 たった1人、俺のことを嗤わなかった若様の為に、今まで走り続けてきたっていうのに。


 変わらず遠いままの、若様の背中を思う。

 あの背を追うことは、俺にとっては既に生きがいも同然で。

 それを無駄で無謀だと、嘲笑われた……ように、俺には聞こえた。


 これ、怒っても良いとこですよね?


 目の前の敵は、友人である『魔女さんの敵』。

だけど今、別の意味でも『敵』だと思う。

俺の、敵だ。


「ギル、ギルー? ちょっと、どうしたのよ! 何だか不穏な気配が……っな、ちょおお!?」


 魔女さんの驚いた声がなんか聞こえたような気がした。

 でも、そんなのどうでも良いや。

 これは若様からいつか一本取る為に、大事に温めてた奥の手だけど。

 目の前の得意になってる野郎を、のさばらせておくのは……俺の感情が、納得できないってことで。


「ギル、アンタねぇ……! いきなり倒木投げつけるとか、危ないでしょう! いまビュビュンって、私のほっぺ掠ってったわよ!?」

「黙ってて下さいよ、魔女さん」

「ギル……? アンタ、さっきから様子がおかしぃ……って、目が据わってる!? その手に握ったソレはなに? 身覚えがある気がするのは、私の頭がおかしくなったのかしら」

「HAHAHA……見覚え? あるんじゃないっすか? 何の変哲もない食事用のナイフ&フォークですから」

「……アンタ、それで何する気なの」


「対若様用の抹殺技を2つ3つぶっ放してから間合いを詰めて、抉ります」


 我ながら妙案、と。

 爽やかな心地が脳内にジワリと浸透していきました。

 だけど何故か、魔女さんはぎょっと目を丸くして。


「あ、あんた、ちょ……っ正気に戻りなさい、無謀過ぎるからー!!」


 叫んだ魔女さんの、手元に握られた杖から。 

 稲妻のような光が迸り、森をカッと明るく強く照らしました。

 それが至近距離で炸裂。

 目が潰れるかと思いましたよ、魔女さん!


 ぶっ放された目潰しの強烈さに、俺は顔面押さえて地面をのたうち回る羽目になりました。

 ちょっとは手加減してほしかったっす。




 色々と、話が脱線した成果。

 なんだかさっきまでの真剣な戦いの続き……って空気じゃなくなってました。

 心なしか、魔女さんの呆れた視線が突き刺さる。

 敵は敵で、犬だったらがるるるるっと唸りそうな敵意むき出しで俺の事を睨んでくるっす。

 そんなに警戒していながら襲い掛かってこないのは、どうやら俺に聞きたいことがある様子。

 よくわかんないんですが、俺に主家のことを語れって言ってきましたよ?

 そして魔女さんは、恐らく消耗した力の回復する時間が欲しいとかそんな理由で、時間稼ぎ目的に様子を見ることにしたようです。

 目くばせで、なるべく話を引き延ばせって指示してきましたしね!


『貴様に問おう……嘘偽りなく、正直に吐け。エルレイクのことを!!』

「なんで俺が得体の知れないキチガイに、忠誠捧げた主家の事喋んないといけないんすかね」

『八つ裂きにして貴様の肉片で大王具足虫のオブジェを作るぞ貴様ぁ……!!』

「そんなことしたら俺から欲しい情報は永遠に手に入れられないでしょーね! いい気味でっす」


 ところで大王具足虫ってなんでしょうか?

 なんだか心惹かれる名前なんですけど、虫なんですかね。

 それとも大王なんすかね。


 どうやら相手の欲しい情報を握っているらしいと、悟るまでもなく明らかで。

 俺が欲しいモノを握っているせいで、迂闊に手を出せなくなった敵さんは歯噛みして悔しがっているようです。闇に全身覆われてるんで、視認した訳じゃありませんけど。

 つまりは見事に、膠着状態。

 この手の異形、人外、化け物の類は、時々見ますけど。

 目の前の『敵』は、その中でも桁外れに『格』が違う。

 戦ってみて、嫌というほど思い知ったばかりです。

 だけどそんな相手が、俺みたいな凡人相手に手を出せずに悔しがる。

 なんというか、新鮮な気持ちですね。

 俺みたいな凡人が、こんな化け物の対応なんて務まる筈もなく。

 本来だったら相手のしようもなく、正気を失って恐怖で狂っていてもおかしくないんですが。

 なんだかんだ、良い意味でも悪い意味でも。

 こういう『非日常』に日頃から慣らしてくれた若様には感謝です。

 お陰で、虚勢に近いモノですが勝機が保てます。

 本当に偉大な方ですよね、若様バンザイ。


「ギル、アンタさり気無く混乱して無い……?」

「いいえ魔女さん、そんなことありませんよ!」

「そう……アンタらの会話聞いてると、なんだか噛み合ってない気がするのよね」


 気付いてないでしょ、と魔女さん。

 え、噛み合ってない?

 そんなまさか!

 『エルレイク』といえば、意味するものは1つ。

 それに対して俺に分不相応というんですから、つまり俺は喧嘩を売られたんですよね?


 ……が、どうやら魔女さんの言葉は的を射ていたらしく。

 俺が心の中で反論するのとほぼ同じタイミングで、敵が声を荒げる。

 その言葉で、俺は奴との食い違いに気付くことが出来ました。


『この小憎らしい魔女めが……! その腹立たしいことこの上ない小僧を、どういった意図で召喚したのか答えてもらおうか。よりにもよって、エルレイクの……我が朋友にして精霊達の主、エルレイクの近しい場所に居るのだなどと嘯くとは!』


 は?

 精霊たちのあるじ?

 その言葉が、俺の中に確固としてある『エルレイク』の印象とは一致しない。

 むしろ、別の存在が咄嗟に連想されたんですが……


 『精霊達の主』。

 その言葉で連想されたのは、あの地下奥深くで鉱石の精霊達に傅かれていた謎人形。

 何がどうなったのか人間の……それも当家のお嬢様そっくりな子供の姿になった、奇怪なブツ。

 …………あれ? そういえばアレも、時々『エルレイク』と呼びかけられていたような。


「魔女さん魔女さん、質問(しっつもっん)でーす」

「何よ、これ以上事態をややこしくしないでよ」

「もしかしてあの得体の知れない敵さんが言ってる『エルレイク』って……『始王祖』様とか呼ばれてたりします?」

「『!!』」


 ……あれ?

 魔女さんも、敵さんも、何ですかその過剰反応。


「ちょ、ギル!? あんた、一体どこでその名前を!」

「どこって……つい先刻まで当人……(にん)? と行動を共にしてたんで、自然と耳に入ったとしか」

「はあぁ!?」

『な……貴様! まさか本気で、エルレイクの側近くにいたとでも!?』

「あ、やっぱ『始王祖』様のことなんすね」


 どうやら先程までのは俺の誤解だったようで。

 侮辱されたと早とちりしましたが、俺が勘違いしても仕方ないですよね?

 だって同じ名前とか、ややこしいにも程がある。

 ……そもそもなんで、あのお人形さんはそんなややこしいお名前だったんでしょうか。

 って、今はもう人形じゃありませんね。

 不思議生物でした。


『貴様……エルレイクの情報を寄越せ!』


 そして敵が形振り構わなくなりました。

 ちょ、そんな簡単に理性放り投げないでくれませんか!?

 

 どうも今までは加減して遊んでいたらしいと。

 それが否応なく突き付けられるような、容赦のない連撃が向かってきます。

 うわ、これ俺のこと挽肉にする勢いだよ。

 そんなことになったら困るので、俺は咄嗟に叫びました。

 だって命が惜しかったので!


「お尋ねの、エルレイクさんでしたら!」


 俺が叫ぶと同時に、僅かの間だけ動きを止めて制止する闇の爪。

 だけど俺の言葉が続かないと見るや、それまで以上の速度を上げて振り下ろされ……かけ。

 これはとにかく何か情報を出さなきゃ、活路はないなと思ったので。

 攻撃が届く紙一重のタイミングで、俺は自分でもなんでこんなことを言っちゃったのかと思い悩む様な事を口走っていた。

 いや、だってほら、焦ってたので。

 人間、焦ると碌なことしませんよね!


「その謎生物なら今、人間のお子様に擬態して、齢8歳の稚気(いたいけ)な幼女の近辺を、半径5mの範囲内で付き纏い行動を繰り返している真っ最中ですよ!!」


 あながち嘘じゃないと自分で思いました。


 そして敵の爪が逡巡と共に引き戻され……

 戸惑いと、苦悩の声が聞こえてきました。


『よ、幼女、だと……!? まさかエルレイク、君は若い子の方が良かったのか…………折角、君のお気に入りだった雌と同じ、『金色』の珍しい人間を捕まえたと思ったのに。せっかくせっかく、喜んでもらえると思って……張り切ってお土産にするつもりだったんだよ!? だけどまさか、成獣より幼生体の方が君好みだなんて。捕獲し直した方が良いかな!?』


 幼生体って、うちのお嬢様や坊ちゃまは海老ですか。

 一瞬、甲殻類の甲羅を背負ってしぎゃーと叫ぶクレイ坊ちゃまのお姿が脳裡に浮かびました。 

 ……あれ、意外と可愛いな。


 金色の人間。

 『エルレイク』へのお土産。

 一体何の事かと思いました。

 思いましたが、どうやら魔女さんには察するものがあったようで。

 彼女の困惑に染まった視線が、チラリと向かった先。


 そこには、なんだかやたらとトゲトゲした異形の甲冑。

 何となく若様が好きそうな、得体の知れない戦士がいました。

 ……正直に言って、いま気付きました。

 魔女さんに引きずり出された時には既に派手な戦闘が繰り広げられていて、そっちに注意が向いてしまったし。

 それに、だ。


 あの異形……形状から仮に、『黒騎士』と呼ぶとして。

 妙だ。

 妙過ぎる。

 だって彼奴、イキモノの気配がしない……?


 まるで死体か何かみたいに。

 本の中に挟み込まれた紙切れのような、薄っぺらい存在感。

 だけどその手に掲げられた黒い槍の穂先……

 そこに磔にされたモノは、どうして今まで気に留めなかったのかと自分を疑う程度には『イキモノの存在感』を放っていた。

 ちゃんと、まだ生きているのだと世界に訴える様に。


 磔にされているのは、若い女のようでした。

 顔にかかった白金の髪。

 濃い蜂蜜みたいな、不思議な色の肌。

 全身を彩る血の色が、何とも凄惨で。

 マジマジと見て、気付いたんですが。


 ……あれ、どっかで見覚えありますね?


 随分と変わり果ててはいましたが。

 それは、エルレイク侯爵領の山中で遭遇した不審者。

 精霊の扮する若様(偽)を相手に、闘志を燃やしていた女。

 何があったのか、ぼろぼろになっちゃって……


 ……って、もしかして此処、エルレイク侯爵領の山中っすか!?






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