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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
遠距離従者ギルの冒険編
160/210

ギルの旅はまだ始まったばかり、とのことです

今回から少し、ギルの方に焦点を当てます。

ミレーゼ様のご両親捜索隊(隊員1人)、出動!

場面がコロコロ変わるので、誰の視点か混乱注意!


そして、

思わせぶりなキャラは、忘れた頃にやってくる。




 ルッコラという少年からぺいっと。

 謎の空間から吐き出され?……気付いたら、俺は王都の王宮前にいました。

 幸いにして見知った場所だったから、まだ良いものの……。

 これが見知らぬ場所だったら、盛大に困っていたと思う。

 どことも知れない場所からいきなり降って湧いたみたいな俺に、王宮の門番達がぎょっとしていたけど。

 些細なことを気にしていたら、生きていけない。

 アンタ達も、早くそう悟るべきじゃないかな?

 王都なんて方々から様々な人が集まるんだし、沢山の人の『常識』や『異常現象』が複雑に絡み合って頻繁に発生していそうなものだ。

 彼らは平和な田舎から出てきたばかり、とかなのか?

 早く固定概念を捨て去り、今後の仕事に専念できるように祈っておこう。


 遠い世界のどこかで。

 なんだか「お前の事情と同じに考えるな」という声が聞こえた気がした。

 なんだろう、空耳か……?

 首を捻りつつも、気にしていても仕方がないので動き出そう。


 唖然とした門番達に追及される前に。

 俺は誰何(すいか)を待たず歩きだした。

 足の向く先は、もう決まっている。

 エルレイク侯爵家の王都屋敷への道は、目を瞑っていても難なく辿れる。

 お嬢様からの要請だ。

 そもそもお家に仕える身としても当然の使命。

 お館様と奥様のご遺体を、お探しせねば……。

 まだ何の手がかりも、この手にはない。

 だけどここで探し当てることが出来ずして、あの不可能を可能にする(アロイヒ)様の側付きを名乗るなんて恥ずかしくて無理だ。

 目の前に立ちはだかる高い障壁を乗り越える為、努力するのは嫌いじゃないし、辛くもない。

 ソレはある種、俺の存在理由にも通じる気がする。

 与えられた使命以前に、お館様達には大きな恩がある。

 少しでも早く探し出し、本来あるべき場所へお連れしなくては。

 まずは葬送行列の足取りを追おう。



   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 その頃、とある山中にて。

 道無き木々の間を駆け抜けていく少女がいた。

 常人とは思えぬ速度で駆けているというのに、その足取りは飛んでいるかのように軽やかで……いや、実際に飛んでいるのだ。

 下草に遮られ、傍目にはわかり難いだろう。

 少女の足は駆けているようでいて、地についてはいなかった。

 前方。

 己の行く手を指し示すように掲げられた手。

 白くたおやかな手を避ける様に、事象が歪められていく。

 目に見える風景がねじ曲がる様を見る者がいれば、どのような反応を見せたことだろう。

 少女の手が近づく端から、木々が、棘の茂みが、行く手を阻む土塊や岩の塊が。

 みるみる、遠ざかるように少女の身体を避けていく。

 そして少女の背が見えなくなった頃、ようやく本来のあるべき姿に戻るのだ。 

 曲がりくねり、歪んだ木々の幹がまっすぐと戻っていくのだ。

 世の理に干渉する女、異端の存在。

 人は、それを魔女と呼んだ。


 少女は、魔女は。

 人の可能域を越えた速度で山中を飛び行きながら、ブツブツと何事かを呟いていた。

 元より気にすべき人目はない。

 だが対面どうこう以前に不審にしか見えない行動だ。

 自覚していたら己を恥じるだろう。

 恥じるような姿を物言わぬ草木、獣に曝しながら、少女は無意識に己の思考を垂れ流して呟き続けていた。


「――やば、い、やばいやばいやばいやばいやばい……!!! このままだとサージェスが復活する! 復活して私を殺しに来るー!」


 少女の、魔女の。

 漏れ聞こえる呟きは、処刑を待つ罪人の如く切羽詰っていた。


 

   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 足取りを掴むべく、エルレイク侯爵家の王都屋敷を調べる。

 本来の主を失い、使用人すら消えた屋敷は、未だ綺麗なままなのにまるで廃墟の様に悄然とした寂れた空気を漂わせている。

 これがかつての、あのお屋敷と同じ場所だなんて信じられないくらいだ。

 俺の拠点はご領地のお城の方だから、王都屋敷には若様のお伴で訪れたことが何度かあるくらいだけど。

 俺が知っていた以前のお屋敷は、笑い声と叫び声と怒声の絶えない……とても賑やか(穏当な表現)な場所だったのに。

 騒がしいけれど、同時にとても温かみのある場所だったのに。



   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 その時。

 王宮の奥深くで紅茶のカップを傾けていたミレーゼ様は、どことも知れない何所かから、謎の思念を受信した気がした。

 ミレーゼ様ご自身に自覚はない。

 だが、思わず言わずにはいられなかった。


「いつも騒々しい場所だった訳ではありませんわよ!? お兄様がいらっしゃる時だけですわ!」

「ねえしゃま? どーしちゃの?」

「は……っわたくしは今、何を?」

「お、おいミレーゼ? いきなりどうした」

「ねぇしゃま、ねえしゃま? ぐあぃ、わりゅいの?」

「……いえ、何でもありませんわ。心配させて御免なさいね、クレイ。お姉様は大丈夫ですわよ」

「ほんと? ほんとーに、ねえしゃまだいりょーぶ?」

「ええ! ほら、いつもの姉様でしょう? お姉様はクレイに嘘など申しませんわ」

「あい、ねえしゃま! ねえしゃま、いーこりゃもんね!」

「あら……わたくしよりも、心配してくれるクレイこそ良い子でしてよ」

「ぼきゅ、いーこ?」

「ええ、良い子ですわ」

「きゃぁい! ねぇしゃまといっしょー!」

「あらあら、ふふふふふ……」


 エルレイク家の長女と次男は、今日も仲良しだった。



   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 書斎や執務室、金の動きに関連するありとあらゆる書類を漁り、葬列の手配に関する契約書を探す。

 葬送行列は基本的にエルレイク家の家臣らによって行われたことになっているが、遺体の管理には専門知識をある程度必要とする。

 無造作に打ち捨てられても構わない死者ではない。

 綺麗に生前の姿を保ち、丁重に運ばれるべき亡骸だ。

 王都とエルレイク領の間には距離もあるし、難所もある。

 恙無く遺体を領地へ送り届けるべく、特別な知識と技術を有した外部の専門職を雇い入れていた筈だ。

 お嬢様の話では、使用人にエルレイク家を陥れようと働きかける工作員が混じっていたことに間違いはないという。

 どの程度の人数が混ざっていたのか、誰が間者だったのか、特定は出来ていないというが……このタイミングで葬送行列が姿を消した。

 ただの事故という可能性もありはする。

 だけど今は、幾らでも関与を疑って不足はない。

 疑って、疑って、疑って真偽を確かめ、保障を得てから安堵する。

 そのくらいの慎重さを持つくらいで丁度だ。

 今回も葬列一行に工作員が混じっていて、その関与によって旦那様方は行方不明になられた可能性を念頭に置いている。

 事実がどうであるのか確かめる為にも、手がかりがないか探る意味でも。

 外部からの業者を調べる価値はある。

 やがて見つけた情報を元に、王都にある業者の自宅を訪ねたけれど……


 領地へと向かうエルレイク侯爵夫妻の葬送行列に随行したという業者は、行方不明になっていた。


 業者の自宅にいたのは、働き盛りの息子が失踪して途方に暮れる老夫婦と、父の帰りを無邪気に信じる5歳の孫だけ。

 了承を得て行方不明になった息子の仕事関連の書類を見せてもらったが……確かにエルレイク家から仕事を依頼し、契約を交わした筈だというのに。

 エルレイク家との関わりを示す痕跡は、何1つとして残っていない。

 消息を絶った時期を調べてみれば、それはエルレイク家の葬送行列と日程が重なった。

 息子はただ「大口の依頼だ」と言うのみで、何故か依頼主の情報を両親にすら一切漏らそうとしなかったらしいが……

 今にしてみれば様子がおかしく、顔も青褪めていた気がすると、老母の証言が得られた。

 十中八九、何かしらの脅しを受けて口止めされていたのだろう。

 

「息子さんの消息を掴めるか、保障はありませんが……行方を追います。僅かでも良いので手がかりはないですか? 行路の予定表とか、特別に準備した道具とか。何かそう言うのがあれば教えてください」



   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 森の中、悲痛に鳴き叫ぶ声が木霊する。

 大気の精霊が狂乱する声。

 ただの人には聞こえぬ、声なき声だ。

 だが彼らの狂気は、圧倒的な支配力を持つ何者かの干渉を受けてのモノ。

 目標は、もう近い。

 自分にアレが調伏出来るだろうか?

 ……出来ないだろう。

 それがわかっていてもなお、少女は……魔女は、せめて最善を尽くす為に挑まなくてはならないのだ。

 己よりも圧倒的な『力』を持つ、漆黒の邪悪を相手に。


「――イーヴァル・ヴィンダールスク! 何をしているの、棲み処に戻りなさい!」


 怯え恐れる心が、声にも伝わったか。

 魔女の声は、微かに震えていた。

 狂った喜悦に浸っていたソレは、魔女の怯惰を敏感に感じ取る。

 生物の抱く深い恐れや怯えは、ソレにとって何よりも馴染み深いものだった。


 今も、そう。


 ソレの足下には、恐怖に染まり、絶望に支配された玩具(ニンゲン)が転がっていた。

 蹂躙の跡も濃厚に、全身を血の色に染め上げて。

 脇に控えて佇むのは、闇夜に滲みそうな程に黒く暗い『闇騎士(ニンギョウ)』。

 高く掲げられた黒槍の先には、黄金の女が無造作に吊下げられている。

 まるで、磔にされた亡者のように。


 魔女が辿り着いた、森の奥。

 そこに広がっているのは……何とも異常で、凄惨な景色だった。






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