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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
破滅への足音編 ~少年たちの怨敵~
155/210

情報の共有化が互いの結束を強めることでしょう




 とても、ええ、とてもミモザが興奮していましたので。

 落ち着かせるのに少々手間がかかってしまいましたけれど。

 ミモザの働きが上手く運べば、アンリを使って我が家を罠に嵌めた相手の全容をようやく掴むことが出来る……という可能性が芽生えました。

 これだけでも、わたくしとしてはミモザを応援したいところなのですけれど。

 並行して、もう1つ。

 真偽を掴む為、把握しておきたいことがあるのです。

 まずはピート達にご意見を窺う為にも、互いの情報を共有する必要があると思うのです。


「なあ、姫さん……このくっそ生意気そうで頭のネジがおかしな具合になってそーなガキ共はなんだ?」

「まあ、ロビン様。怪訝なお顔ですわね、眉間に皺が寄っておいでですわよ」

「なんか重要な話してそーだってんで口挟まずにいたけどよ? 話は一段落したな? で、疑問なんだが……まず、此処どこだよ。そんでこのガキ共は誰だよ?」

「そっくりそのまま、その言葉は返してやんぜ。ミレーゼ、お前が何処でどんな人間を拾って来ようと、どーせお前のことだから何かしら有用・有能な人間なんだろうし文句はねぇ。けどいきなり俺らに引き合すとか、そんなに信用置ける相手なのかよ?」


 情報の共有を提案しようと思いましたのに。

 わたくしが何かを言うよりも、先に。

 何故かピートを筆頭とした浮浪児童の方々と、ロビン様が睨みあっておいででした。

 ……ルッコラの謎の移動方法によって、いきなり連れ込まれましたものね。

 現状、ロビン様は此処が王宮であることすら御存知ないのかもしれません。

 ロビン様のお家は、領地に可能な限り引籠っておいでの一族ですもの。

 貴族の跡取りに課せられる義務として、王都の学校を卒業してはおいでの様ですけれど……正式に社交界デビューされているようには到底思えません。

 ロビン様、ですのよ?

 彼女がデビュタントの白いドレスを着て、国王陛下に御拝謁……駄目ですわね。全く頭が回転して下さいません。少し、ロビン様のドレス姿を想像してみようと思っただけですのに、わたくしの想像力が限界を訴えて職務放棄をしてしまいました。

 いま現在からしてまるで山賊の様なお姿の、ロビン様。

 彼女も恐らく着飾れば………………あら、おかしいですわね?

 着飾ったロビン様を頑張って想像してみようと致しましたら、何故かドレス姿ではなく紳士の礼装を纏ったお姿しか脳裏に浮かびませんでした。


 さて、何やら空気は一触即発。

 わたくしが両者を紹介するという、仲介役を後回しにしていたせいですけれど。

 あら? この空気はわたくしの責任かしら?

 目の前ではわたくしが制止する前に、逞しく強靭に都会の魔窟を生き抜いた浮浪児童集団vs.野育ち山育ち、森番修行の凄腕狩人という図式が成立しつつあります。

 率直に申し上げて両者が争うこととなりましたら……ロビン様には申し訳ありませんけれど、相手はピートを筆頭にミモザ、フィニア・フィニー、そして何より恐ろしいことにルッコラですのよ?

 ロビン様が敗北して、自尊心をずたずたにされるお姿しか見えません。

 ここは今後の人間関係を円滑に保つ為にも、やはりわたくしが橋渡しとなるべくお互いの理解を深める一助と成らねばなりませんわね。


 さて、まずは軽く牽制のジャブから参りましょう。


「ピート、ご紹介いたしますわ。此方はロビン様……わたくしの阿呆な兄、アロイヒ・エルレイクの学友として短くない学園生活を問題なく乗り切った英雄の御1人に数えられる、珍獣並に目撃証言の少ない伯爵家の御令嬢です」

「おいこら」


 まあ、どうしたことでしょう。

 ロビン様がじっとりとした目でわたくしをご覧になっておいでです。

 意識の矛先が、どうやらわたくしに向いてしまったようですわね。

 ですがわたくしのような幼い8歳児に、よもや手を挙げる……等といったことは、ロビン様もなさらないでしょう。

 ここは気にすることなく、話を先に進めてしまいましょう。

 とにかく、両者の紹介を済ませてしまわなくてはなりません。


「ロビン様、此方の双子のようにそっくりな御2人にご注目下さい。特に、豪華絢爛な衣装を身に纏った方を」

「は? あ、マジそっくり」

「この方が第5王子アルフレッド殿下です」

「ぶふぉあ!?」

「あらあらロビン様、どうなさいましたの? 吹き出してしまわれるなんて……淑女としては咎められて然るべき、ですわよ」

「く、くっそ油断した……! なんだこの地味に攻撃力高いドッキリ!」

「そして他の方々は、浮浪児童が組織した下町少年ギャング団の中でも一大勢力と言える『青いランタン』……団を率いる首魁ピートと、彼の側近ともいえる幹部達です。ピートは第5王子殿下秘蔵の影武者であり、共謀者でもありますのよ」

「おい、姫さん……あんたの交友関係どーなってんだ」

「どうなっている、とは?」

「………………まあ、俺ん家にとっては今の王族の血筋なんて実はそこまで重要じゃねーんだけどな。大事なのはグランパリブル様と、『始王祖』様……あと、その血筋くらいなもんだしな」

「お聞きになりまして? ピート、殿下。ロビン様のお言葉からもお察しいただける通り、彼女は『始王祖』様の関係に連なる御方ですの……精霊の関係者、というとてもレアな人種ですわ」

「おい、言い方ぁ!」


 両者の誤解を解くという意味でも、やはり『紹介』とは大事なプロセスですわね。今回はわたくしが後回しにしたが故に、無益な争いが勃発しかけてしまいました。

 ですが改めてお互いに紹介をしましたところ、どうやら両陣営、矛を収めることにして下さったようです。

 今後は重々気を付けると致しましょう。


「…………失踪してる間、何があったか知らねぇが。こりゃ情報の共有化を密にしといた方が良さそうだな」

「まあ、奇遇ですわね。ピート、わたくしも丁度そう思っていたところですのよ」

「ああ、そーかい……そんじゃ、まずはそっちからな。どうも断片だけでも、お前らの方に気になることが多すぎる。こっちはさっき話した『アロイヒの告発文』が主な動きで、あと大きなナニかっつったら1つしかねぇからな。ややこしい話に入る前に、ミレーゼの方の現状を理解しておきたい」

「わたくしも、先に此方のことを説明させていただけると助かりますわ。ピートの方の案件は……ちらりとルッコラから耳にしてはおりますが、本腰を据えてじっくりとお話させていただきたい事のようですし」

「おう、そんじゃ語ってもらおうか」


 ピートの促しを受け、時にロビン様やアンリの補足を受けながら。

 わたくしはいきなり遠方に飛ばされて、どのような体験をすることとなったか……順序良く、遭遇した出来事の説明を重ねて参りました。

 森で出会った、ロビン様や精霊のこと。

 故郷の城を守っていた、忠厚き使用人達のこと。

 兄の側仕えに足りる人物になろうと、無謀な努力を重ねる剣士のこと。

 山の中で遭遇した珍事6連発のこと。

 (山奥の結界・銀色の謎の生物に関する回想・ティタニスとの遭遇・ティタニスの追手からの逃走劇・兄に酷似した姿で現れた精霊・『贄の民』と呼ばれる民族とウェズライン王国の起源)

 そして事件の裏に、教主国の影がちらついていること。

 加えてエルレイクの地下霊廟に、何があったのか……『始王祖』様の変貌の原因となった、御先祖様の仕掛けのこと。

 ……あら? こうして考えますと、エルレイク侯爵領で起きた問題の数々が大きな割合を占めますわね?

 

 全てを話し終えた時には、ピートと第5王子殿下が両手で頭を抱えておいででした。

 

「お前、この数日で……ちょっと問題詰め込み過ぎじゃね?」

「あはは、かなり濃密な時間を過ごしてきたみたいだね……」

「なんなんだよ、お前ん家。トラップハウスか」

「はは……。枕詞に『ブービー』をつけなきゃだね、ピート」

「何やら濡れ衣を着せられては堪りませんので、申しておきますけれど。わたくしが望んだ訳ではありませんわよ?」


 御2人の目は、何やら虚ろな色を有しておいででした。

 本当に、まるで双子の様にそっくりですこと。

 これで血の繋がりはないというのですから不思議なものです。


「エルレイク侯爵領……わたくしの地元で起きていた諸々を鑑みても、ティタニスという生き証人の存在を考慮しても、アダマンタイト盗掘の裏に教主国がいたことは間違いがない様に思えます」

「完全に状況証拠だけだけどな」

「物証があったら、疑惑に基づいて暗躍し易いんだけどね……」

「殿下、発言が『ピート』ですわよ」

「2人でそれぞれの『役』を回してんだから、発言が似るのも仕方ねぇだろ。一応、立場に応じてスタンスの違いは微妙に出そうってはしてんだけどよ」

「やっぱり、どうしたって思考が似るからね」

「貴方がたも難儀な性分ですわね……。何はともあれ、教主国がわたくしの地元に余計なちょっかいを出して来ていたのは事実。例え証拠があろうとなかろうと、事実なのです」

「……で、このタイミングで『あの要請』が来たってわけか」

「随分ときな臭い話だよねー。ね、ミレーゼ様? 現段階で教主国は仮想敵と断定しちゃって良いんだよね?」

「ええ、断定しても構わないと思いますわよ。フィニア・フィニー」

「だったらー……ね、国内の教主国の派出系機関、潰しちゃおうか☆」

「ふぁっ!?」

「おい、姫さん。このガキ随分と爽やかな笑顔でバリバリ危険思想全開なこと言いだしたぞ。見ろ、お陰でティタニスの野郎が目ぇ白黒させてやがる」


 とても素敵な輝かんばかりの笑顔で、フィニア・フィニーが提案して下さったのは……とても手がかかりそうな、提案で。

 教主国の支配下で奴隷民として生きてきたティタニスにとっては、刺激が強過ぎたようです。

 きっと思いも寄らぬ話だったのでしょう。

 宗教という思想を大きく左右する要素の強いものを国家の根幹とする、教主国。教主国を絶対的なものと骨身に叩きこまれる人生を送って来たに違いありません。

 ですがフィニア・フィニーの言葉は教主国に真っ向から噛みつくようなもの。

 むしろ嬉々として飛びかかろうとするような、舌舐めずりする猫のような雰囲気を身に纏って目を輝かせておいでです。

 ……フィニア・フィニーにどのような背景があるのか、詳しくは存知ませんが。此方もミモザに負けず劣らず中々に業が深そうな気が致します。


「え、ええと……積極的に意見を述べる姿勢は人として素晴らしいモノだとは思いますけれど。今はまだ現状把握に努めるべく、情報の共有化を図っている段階ですので。フィニア・フィニー、貴方の意見は後で改めて窺いますので、具体的なプランがあれば次に意見を述べる時間が来るまでの間に実現性をなるべく高めるべく纏めておいていただけますか?」

「おい、ミレーゼ。目ぇ泳がせながら時間稼ぎっぽく言ってるが、発言内容とんでもねぇことになってんぞ」

「……確かにただ『潰す☆』って言ってるだけじゃ、現実的とは言えないよね。うん、ミモザの手腕を参考にプランを練ってみるよ!」


 ……何やらフィニア・フィニーがやる気を増して奮起してしまったようですけれど。

 ですが考えてみればわたくしには実害がありませんものね?

 もしかしたら本当に素晴らしく建設的な意見へと昇華するかもしれません。

 もしかすると、建設するのは誰かの墓標になるかもしれませんが。

 …………いえ、考え過ぎ……ですわよね?

 ここは敢えて止めず、本題へと参りましょう。


「ところでピート? そろそろ……大事なお話を聞かせていただきたいのですけれど。教主国がわたくしに何やら聞き捨てならない要請を申し入れてきた……と、ルッコラから聞きましてよ?」

「あー……完っ全に地雷だよな。この話」

「ふふ? 国を通して正式に、わたくしの身柄を『聖女候補』等という胡乱な名目で引き取りたい、ということですわよね? 数百年と途絶えていたお題目を持ち出してまで、わたくしを教主国に招こうと考える裏にどのような思惑があるのかは……存知ませんけれど」

「姫さん落ち付け、目が子供の目じゃねーぞ」

「何というか、人生経験10年未満で出せる眼力じゃないよね」


 好き勝手に評する外野にも、今は構っている余裕などありません。

 フィニア・フィニーも口にした通り、教主国は最早わたくしにとって仮想敵も同然。

 敵がわたくしの身柄を求めるのに、どうして心穏やかでいられましょう。


「………………ああ、今ね? 母上……王妃が『ミレーゼはわたくしの養女に致しますのよ!?』って言い張って、要請を突っぱねようと言葉のナイフで使者を縦横無尽に切り刻んでいるんだけど」

「うわー……姫さん、リアル姫さんになんの?」

「なりませんわよ」

「安心しろ、言い張ってんのは王妃だけだ」

「想像してみますと、心の寒くなるような状況ですわね。ですが王妃様のお心遣い、有難いことですわ。有難過ぎて困惑の一途けれど」

「その流れでミレーゼの意思確認しようって流れんなって、過程で替え玉だってバレたがな」

「……………………………………」

「ミレーゼ、彼方を見るな。逃避すんな、事実だから」

「どうして……過去というモノは、変えることが叶わないのでしょうね」

「8歳児の言葉じゃねーな」

「ピート、今更」


 しっと口を噤む様に指示なさっておいでですけど、第5王子殿下も余程のものだと思われますわよ?

 ああ、駄目ですわ。

 余所事に構っている場合ではないでしょうに……

 どうしても思考が滑り、現実逃避してしまいそうになります。


 替え玉が露見した、ということは。

 王宮に留め置くように通達されたにも関わらず、わたくしが王宮にいない……ということで。

 咎められる事態となってしまえば目も当てられません。


「教主国の使者ってのも大分しつっこくてなー……なんだかんだで『ミレーゼ』本人に今後を決めさせるべきだ、検討の余地すら与えてもらえないのは不平等だって話に持ち込んでな?」

「……いま、今後の検討材料の一貫にしてもらう為、という名目で使者が逗留している王都の大聖堂に『ミレーゼ』を引張り込んでね? 『聖女(候補)体験生活』っていうプログラムが展開中……だよ」

「わたくし不在で!? どうなさっていますの? 『犬(?)』を用いた替え玉は露見してしまったのですわよね? ……一言も言葉を発しなくては、露見しても致し方ないことと思いますけれど」

「ああ、それでな? 本人不在なもんは仕方ねぇけど、不在だってバレんのは監督不行き届きを指摘されて余計な面倒が発生しかねねぇからよー…………


  いま、アレンが『ミレーゼ』として大聖堂に滞在中なんだわ  」


「何がどうしてそのような仕儀に相成りましたの!?」


 わたくしの全く知らない、不在の間に、ですけれど。

 何がどうして、このような事態になったというのでしょう。

 わたくし、ミレーゼ・エルレイク(8)

 体も小柄で、年齢よりも幼く見られがちの体型なのですけれど。

 わたくしより2歳も年上の、アレン様(10)が替え玉になるというのは……髪も目も色合いが異なる、体型も全く違う殿方ですのよ?

 如何様な理由が存在してのことかは、定かではありませんが。

 流石に……無理が過ぎるのでは、ありませんか?

 






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