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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
北方への出張(強制)編
126/210

どうやら思った以上の爆弾が仕掛けられていたようですの

色々と説明回、王国の起源について。



 ロビン様、曰く。

 始まりはわたくし達の王国が建国されるより遙か遡った時代のこと。

 王国の始まりの民は、ウェズラインの地に根ざすまでの間、漂浪を強いられた者達であったといいます。

 元を辿れば、太古の昔に海へと沈んだ大陸の末裔。

 わたくし達が今を暮らす大陸とは、別の地を起源とする民。

 祖を別とするのだと主張するかのように、わたくし達の祖先は外見的特徴がこの大陸の民とは違ったのだとか。

 

「初耳ですわ……わたくし達の外見は他国の方とさして変わりありませんのに」

「この国が出来てからどんだけ時代が変わったと思うよ? 他の国の人間との混血が進んじまうのは仕方ねぇだろ。その過程で外見も混じってったんだよ」

「ロビン様が仰ること、理解は出来ますけれど……」

「例えば姫やアロイヒの亜麻色の髪もそうだが、髪の毛が黄色っぽい頭の奴って多いだろ。あと、身長が高い奴な」

「確かに我が国の平均身長は他国よりも高めだと窺っております。ロビン様は、身長の高さや髪色の薄さが先祖の名残だと仰いますの?」

「――白金の髪に、金の瞳。蜂蜜の上澄みの如き琥珀の色を写した肌に高い背丈。それらが沈みし大陸の民に共通の特徴。彼の者達はあまりに姿が違う為、この大陸の民から過酷な迫害を受けていた」

「……と、このように『生き証人(エルレイク)』様が仰る訳だが」

「当時を見てきた方のお言葉とあれば、信じる他にありませんわね」


 ですが、白金の髪はともかく金瞳に琥珀の肌?

 あまりにわたくし達とは違う姿だということはわかります。

 眉を顰めずにはいられませんけれど……迫害という言葉にも、納得してしまいました。

 人というものは弱いモノですもの……

 自分とは違うというだけで、集団で個を苛むイキモノですものね。

 人間の弱さは異質なものを前にすると露呈せずにいられないのでしょう。……わたくし達の祖先が、人の弱さからくる迫害の犠牲にされてしまったことは、悲しくてなりませんけれど。


「……迫害と同時に、珍重がられてな」

「ロビン様?」

「見目麗しく若いのを中心に、奴隷狩りされたらしいぜ。胸糞悪ぃ話だ」

「…………」


 一瞬。

 ええ、一瞬ですけれど。

 遥か遠き昔のこと、現代を生きる方々に責任はありませんのよ?

 責任はないとわかっているのですけれど……

 一瞬、滅……いえ、やはりなんでもありません。

 あのような悪しきことを一瞬でも考えてしまうなんて……わたくしもやはりまだまだ幼くありますのね。

 幼さゆえのことですけれど、直接的で悪いことを考えてしまうようでは立派な淑女になれませんわ。

 

「まあ、そんな訳でな?」


 迫害を受け、奴隷として狩られた祖先は、流浪の果てに此処……わたくし達の王国であるウェズラインの地へと辿り着きました。

 他の国々のどこにも属さぬ、人のいない土地。

 ですが人がいないということは、いないだけの理由があったのだそうです。


「狂った精霊……邪精霊がな、いたんだとよ」


 ロビン様も原因まではお知りでないとのこと。

 精霊関係の話となれば、『始王祖』が何か存じていそうなものですけれど……彼のお人形は、黙して語らず。

 ただただ人を憎み、厭い、自分の領域内に侵入すれば(たちま)ちの内に襲いかかってくる、恐ろしい精霊がいたのだそうです。

 人々は彼の精霊を恐れ、誰も領域を侵せずに放置するのみ。

 ですが人々に追いやられ、他に道を見つけることも出来なかったのだと……

 祖先達は長い迫害と流浪の年月に、疲弊しきっていたのです。


「そこで、邪精霊よりずっと強ぇ精霊と縁を結んで守ってもらおう……なんて他力本願な考えに至った訳だ」

「気持は理解できなくもありませんわ……ロビン様のお言葉の、ずっと強い精霊というのが、もしや…………」

「そこにいらっしゃる、『始王祖』様だ」

「まあ……」


 ロビン様が事実と語る、過去のお話。

 当時を見知っている『始王祖』も、特に否定することなく。

 ただありのままにあった出来事として語られるのです。


 全部、わたくしにとっては初耳のことばかりなのですけれど。


「まあ、長い年月が経ってるしな。知らなくっても仕方ねえ」

「ですが……どなたか、記録に取ろうとは致しませんでしたの?」

「…………そりゃ一般の民向けに都合よくした話から、裏話的な史実まで。昔々はあったりもしたぜ?」

「……含みのある言い方をなさいますのね?」

「そりゃな。だってな、この話はな? 今の王家が旧王家を討ち果たした時点で闇に葬られた話なんだから、そりゃ出回ってねーだろ」

「闇に葬られた……ということは、葬り去られるだけの理由があったということですの?」

「お前、話が早いよな……王権神授説、ってわかるか?」

「王権神授説?」


 きりっと表情を凛々しく引き締められて。

 ロビン様は幼子に対するものとは思えないほどに真剣な眼差しでわたくしを見つめられています。

 子供扱いではなく、一個人として。

 わたくしに意見を求めているのだと感じる、強い眼差し。


「家庭教師に薄く聞いたことがある程度、ですけれど……」

「それで良い。ちょっと言ってみろ?」

「ええ。王権神授説、ですわね……確か国王の権威について宗教面から補強し、民の精神的臣従をそれとなく強要する考え方ですわよね。王の王国統治・支配権が神から授けられたものだという考え方を徹底的に擦り込むことで王と神の持つ聖性を融合させ、信仰による崇拝を用いて王の絶対性を高めるという……」

「あー……その辺で良いぞ。っつうかエルレイク侯爵家の家庭教師は8歳児に何を教えてんだ……? 侯爵家の教育方針怖ぇ」

「極めて一般的な知識しか教えていただいていないと思うのですけれど……」

「エルレイク侯爵家の『一般的』な教養がどの程度のレベルなのか聞きたくねぇな。何はともあれ、一応は理解してるみてぇだし言うけどよ。


 旧王家が王国を統治していた時代、信仰の対象は精霊だったんだぜ? 」


 ああ、と。

 ロビン様のお言葉を聞いた瞬間に、納得してしまいました。

 つまりは、そういうことですのね。

 

 精霊の力によって王国という安住の地を得た、先祖たち。

 彼らの精霊への感謝はやがて信仰へと姿を変わっていきます。

 精霊を崇拝するようになった時、最もわかりやすく信仰を寄せる依り代になり得たモノ。

 恐らく、人々の信仰が寄せられた先は当時の王家……旧王家だったのでしょう。

 土地と王国をもたらした当の精霊、『始王祖』の血を直接引いた一族だったのですから。

 だから、ですのね。

 かつての王族が有していた権威の裏付けとなる、建国に関する歴史。

 きっと当時は、闇に葬らねばならない程に、歴史の持つ影響が強かったのでしょう。

 思い至ってしまえば、今の時代に不自然なほど旧王家時代の歴史がさらっとしか伝わっていない理由がわかります。

 詳しい事情も歴史も、全て現王家の祖が葬り去ってしまったのですから。


「……ここまでは、理解致しましたわ」

「ああ」

「ですがこの知識が、わたくしの尋ねた『事情』にどう掠りますの?」


 確かわたくしが問うたのは王国の5方向を守護する精霊と、現地領主の関係性について……だったと思うのですけれど。

 怪訝な顔で見上げると、ロビン様はひょいと肩を竦めてしまわれました。


「ロビン様?」

「王国の5方を守る、守護精霊……な。実はこの精霊、王国を守護するのは副産物。本来の役目は別にあるんだぜ」

「ここにきて新事実ですわね」

「おう。王国領土のある土地にかつて人間を寄せ付けなかった邪精霊が、実はまだ生きて王国にいるって事実だ」

「さらりととんでもないことを……っ?」

「事実だ」

「こ、『始王祖(こちら)』は『始王祖(こちら)』でさらりと肯定を……!」

「あの者……人が邪精霊と呼ぶアレは、休息が必要と判断したのでな。人に煩わされることのなきよう、封印状態で休眠を取らせている」

「ロビン様、『始王祖』様の仰っていること……強要と人は言うのではないかしら」

「事実、強要だろ。なんでもエルレイク様が王国の安寧を約したのと同期間、眠らせ続けることにしてるみてぇだぜ」

「……安寧を約束した期間終了と同時に、保ってきた安寧も御破算にしようとされていません?」

 

 約束満了と同時に、人々に悪感情しか持たない災厄を解き放とうとされていませんか……?

 期間満了はどうやらまだ先のことの様ですけれど……

 これは、本格的に他国への亡命を考えた方がよろしいのかもしれません。


「案じずともよし。休眠と同時に魂の浄化も推し進めているので、目覚めすっきり爽快・気分も晴れやか。人間への恨み辛みどころか記憶までさっぱりと浄化されていることだろう」

「いま、何やらとんでもないことが聞こえたような?」

「エルレイク様、それ人格崩壊じゃ……」

「精霊には『人権』という概念がないのでしょうか」

「世に蔓延って鬱陶しいことこの上ないが、人間の撲滅など土台からして無理な話。であれば無為な恨みなど抱えこんでいる方が不憫というモノ。忘れさせてやる方が慈悲だろう」

「何か良いことのように仰っていますけれど、相手の意思は確認していませんわよね。これ」

『ちなみに我々、守護とされる精霊の本来の役目は邪精霊封印の地より5方に配置し、封印結界を形成すること! 要としてエルレイクお父様が邪精霊をすぐ近くで押さえこんでいるので、万が一にも結界が綻びようと完璧!』

「まあ、何と仰いまして? 木k……グランパリブル様!」

『いま、いまこの子! 木偶の坊って言いかけなかった!?』

「いいから、お教え下さい」

『…………なにを?』

「王国5方向に配置した精霊で、封印の作用を及ぼしておられると仰いましたわね。邪精霊の近くに『始王祖』様がいらっしゃるとも」

『言ったねー』

「……邪精霊、とは…………どちらに封印されているのでしょう」


『え? この王国の中心……王城とかいう建物の地下だけど』


「ご、御先祖さまぁぁあああああああああっ!!」


 なんという危険地帯に!

 なんという危険地帯に……!!


 つい数時間前までわたくし、とても恐ろしい場所にいましたのね……。

 きっとこの事実は王室の方々も御存知ないに違いありません。

 存じていらっしゃれば、きっと王城や王都の場所は移設されていたはずですもの。


 旧王家の使用していた王城の上に建てられたという、現王城。

 どうやらお城の地下にはとんでもない秘密が眠っているようです。


「そう、本当にとんでもねぇよな……あの城に行かなきゃなんねえってなると俺らも冷汗止まらなくなるんだぜ?」

「ロビン様、空笑いで無理をするのはお止めになって? ロビン様のご一族が引籠っていらっしゃるのはもしや……」

「理由の一端がないとは言わん。主な理由はグランパリブル様のお守ってのも間違っちゃいないがな」

『お守ってなんなんだよー……』

「取り合えず、あの城が今も吹っ飛んでねぇのはグランパリブル様を含めた5つの精霊と『始王祖』様のお陰ってわけだ。存在するだけ、『始王祖』様の気配だけで大概の精霊は従順になるらしいからな……現王家が旧王家を倒した時は、『始王祖』様の封じが消えるんじゃねえかって冷や冷やしたって先祖の日記にあったし。そこは誰か事情通が慮ってくれたのか、うちの一族が心配したのが馬鹿らしくなるくらい、王家が交代しても封印の維持は問題なく継続したらしいけどな」

「ちょっとお待ちください?」

「あ? なんだよ」

「……ということは、5つの精霊が害されると………………」



「当然、王国の守護と一緒に邪精霊の封印も吹っ飛ぶな」



 どうやら我が王国は、今にも災厄を解き放たれつつあるようです。

 『始王祖』様のお言葉にあった『魂の浄化』がどの程度の割合、進んでいるのか存じません。

 ですけれど、もしも人間に対する憎悪が残っている状態で解き放たれてしまえば……王国は凄まじい被害に見舞われるのではなくて?

 ああ、どうしてでしょうか。

 何やらお兄様がこの場にいないことが、無性に恐ろしくてなりません。

 あの兄がいれば、どのような問答無用の脅威が襲ってきても恐れるに足りないと、心を強く持つことが出来ますのにね……。





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