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没落メルトダウン  作者: 小林晴幸
北方への出張(強制)編
125/210

考えてみましたが、わたくしが遠慮する必要は皆無ですわよね?


 ロビン様とグランパリブル様のやりとりで、少々時間を取らされてはしまいましたものの。

 グランパリブル様はすぐに何事もなかったかのように持ち直し、先程までの取り乱しようを改めた様子で『始王祖』に『提案』を上げて参りました。


『特定のナニかに存在が尽きるまで、という条件が気になったんだけど……それは此方であらかじめ『寿命の尽きる時期を把握できているモノ』を対象に選ぶことで規制解除の時期を制御できないかな』

「そういうこと考え付くんなら、さっさと言えよ。だから木偶の坊なんだよ、てめぇこの木偶が」

『うちの森番、本当に精霊への敬いってものがない!!』


 もう無理かと思った矢先に改善案を提示された為でしょうか。

 わたくしから見てもロビン様の振る舞いは理不尽だと思いましたけれど、騒ぎながらも何故かグランパリブル様に嫌がっているような素振りはみえません。 

 むしろ喜んですらいらっしゃるような……?

 御2人のやりとりは気安い、馴染んだもののように見えます。

 見ただけで察しましたわ。

 ああ、これが彼らの『日常』ですのね……と。


 グランパリブル様のご提案に、穴はあるのかもしれませんけれど。

 ですが他にこれといって思いつくものもなく。

 グランパリブル様のお命を狙う何者か……つまりは元凶といえる何方かを押さえないことには、状況も好転しないだろうということです。

 ですので、グランパリブル様は決断されました。


『我らが長、エルレイク様……』


 改まった口調で、かしこまった態度で。

 精霊を名乗る光の物体が『始王祖』様の前に跪きました。


『どうか、一時の安息を我が身に賜りたく……この森に何人も、人間は立ち入れぬように【制約】をいただくこと可能でありましょうや』

「できぬことは言っていない」

『はは……では、我が森を人間から閉ざしていただきたい』

「グランパリブル様……本当によろしいの? わたくしにはよくわかりませんが、期間中はロビン様やジョン様ともお会いできませんのよ?」

『もう決めました。それにその間……ロビン達には、やってもらいたいことがあるんです』

「は? 俺らにやってもらいたいこと? 森番に森離れて何やれっつう気だ、てめぇ」

『森番の仕事は森を守ること……そう言ったのは君だよ、ロビン』

「あ?」

『ドスの利いた声で凄まないでよ! だ、だからさっ? エルレイク様のお力を借りてこっちは自衛に専念するよ! 専念するから……その間に、ロビン、君達にお願いしたいんだ。この森に不審な影を差し向ける何者か……敵に、一矢報いることを』

「……一矢報いるとか、なーに生温いこと言ってんだ」

『え?』

「やるなら、完膚なきまで徹底的に。反抗の意思も砕け散るまで」

『え、え……え?』

「仕方ねぇな、グランパリブル様。頼まれてやるよ。森を守るのは森番の仕事だから、な……。その森に手ぇ出しやがったんだ。


――きっちり、制裁加えて 殲 滅 して来てやんよ 」


『うちの森番、超物騒……!!』

「馬鹿なこと仕出かしやがった阿呆にゃそんくらいで丁度良いってもんだ!」

『女の子なのにどうしてそんな風に育っちゃったの!?』

「お前が頼りねぇからじゃねーの!? っつうかうちの女が強いのは昔っからだろ。婆ちゃんを見ろ、婆ちゃんを!」


 とても賑やかに、じゃれあうのは構わないのですけれど。

 わたくしは何やら不毛な言い合いに興じる精霊と森番を見ていて、眼差しが生ぬるくなってしまうのを感じておりました。

 ――報復するのは結構ですけれど、どうやって、ですの?

 見通しはどの程度立っていらっしゃるのか。

 そもそも、『殲滅』すべきお相手のことをどの程度把握していらっしゃるのか。

 不明瞭な点に、わたくしは首を傾げてしまいます。


 尋ねるとロビン様は、事もなげに仰いました。


「そもそもの話、この森に精霊の宿る大樹があることからして機密なんだよ。知ってる奴は早々いねぇはずだし、情報は統制されていたはずだ」

「では、『大樹』の存在を知っている方から辿る、と?」

「……それなんだが、な」


 何やら歯切れの悪いご様子の、ロビン様。

 気まずそうなお顔は、わたくしに情報を開示すべきか逡巡しておられるようです。

 ですが、わたくしに情報を提示するべきと判断する、何かがあったのでしょう。

 意を決されたお顔で、ロビン様はわたくしに告げました。


「不審者共の足取りを辿るに……どうも、黒幕は他国にいるっぽい」


 状況のどうしようもなさが、悪化致しました。

 自国の中でも情報を集めるにままなりませんのに……他国だなどと。

 まさに、どうにもなりませんわ……!


「けど、な……」

「ロビン様?」

「秘匿されていた精霊の木を、都合よく狙うってのが何か怪しいんだよ」

「何か、気にかかることがおありですのね」

「まあな。何しろグランパリブル様は国家守護の精霊ってヤツだ。分不相応なことにな」

『ナニか今、余計なひと言がーっ!!』

「うるせぇ」


 グランパリブル様をぐいぐいと押しやりながら、ですがロビン様は杜撰な扱いとは裏腹に真摯な目をされておりました。

 ひた、と真剣な目で『始王祖』をご覧になっているのです。


「この国を守るよう、『エルレイク』様が遣わした精霊は5ひk……5体。それぞれが情報は規制され、極秘の存在として極僅かの限られた家が守り続けてきた。その一角が、だ」

「あの、今……精霊のことを匹単位で数え…………」

「しっ アンリ、今は流しておきなさい」

「……その一角が、急に何の前触れもなく、突然襲撃されると思うか? どう考えても不自然だろ。むしろ俺らのとこ単体じゃなく、『全体』で異常がないか確認すべきだと俺は思う」

「ロビン様、スルースキル高っ」

「何事もなかったかのように言い切る精神力もまた、貴族には求められるものですわ」

「しれっと堂々言い切りますね、ミレーゼ様……」

「ええと、ロビン様? つまりロビン様の見解としては、グランパリブル様のみが襲われていると見るのは不自然……ということでよろしいのかしら」

「ああ、だろ? だから俺はまず、森の外で異常を調べるんなら……他の守護精霊んとこも様子を見てみる必要があんじゃねえかと思う訳だが」

「……あの、ロビン様? わたくしの顔をじっと見て……どうされましたの?」

「なあ、ミレーゼ姫。正直に答えてくれ」

「はい……?」


「――エルレイク領(おまえんとこ)は、なんも異常なかったか」


 むしろ以上あり過ぎですわよ、と。

 咄嗟に脳裏に浮かんだ言葉をわたくしは思わず胸中で噛み殺しました。

 例えそれが、事実であろうとも。

 時に家の体面と矜持を保つため、隠匿せねばならない事情もあるモノなのです。

 ロビン様に何を伝え、何を尋ねるのか。

 どの情報を秘匿し、どういった物事を聞きだすべきか。

 未だわたくしの胸中は定まらない情報と疑問で満ち溢れているのですもの。

 何を開示すべきか、隠すべきか。

 何を話して良いのか、わたくし個人の判断では定めきれないモノがございます。

 わたくし自身、混乱を招くような混沌とした、精神の安寧を疑うような情報や異常の数々に悩まされているのですもの。

 情報を整理する時間をいただけはしないものでしょうか……?


「あの、ロビン様……? お言葉の意味がよくよく掴み切れていないのですけれど。どのような意図を持ってのお言葉でしょうか」

「あ? ……あー……まだ8歳だっけな。その年齢じゃ家からちゃんと情報を伝え聞いてるかも怪しいか。知らねぇのか?」

「いえ、ですから何を……? 主語を仰って下さいませ、主語を」

「んじゃ、率直に聞くがな?


  お前んとこ、アダマンタイトの精霊が住む鉱脈、あったろ 」


 ロビン様……。

 とても鋭いお言葉ですわ。

 ええ、ええ……アダマンタイトこのことはわたくしも存じております。

 そして。


「……アダマンタイトの関係事項でしたら、今まさに大事の真っ最中ですわ」


 既に国として秘密裏に捜査が敷かれている、今。

 アダマンタイトの盗掘・密売自体は隠しようがないものがあります。

 また、手詰まりという程ではないものの、アダマンタイトに関する調査に手を貸していただけると、正直を申しまして助かります。少しばかりの計算から、わたくしは素直に情報を提示致しました。

 アダマンタイトに関することがエルレイク家そのものの情報とは少しばかり逸れることと、わたくしの中では優先順位が然程高くなかったことも理由の1つです。

 ……これが他に難事を抱えていない状況でしたら、また事情も変わるのですけれど。

 我が家の存亡や、わたくしの身柄を狙う謎の人物等々、他に優先すべき問題が多すぎました。

 わたくしの幼く小さな手では抱えきれるものにも限度がありますもの。

 アダマンタイトという金属の重要性や、アダマンタイトに宿る精霊の役割、王家からの信頼を加味すると……本来はアダマンタイト関連の問題も投げ槍には扱えないものですのにね。

 我が家が既に風前の灯火も同然の状態である今だからこそ後回しに出来ますが、本来であればアダマンタイトの貴重性を思うと……これはこれでお家断絶を言い渡されても不思議ではない程の難事なのですけれど。


 エルレイク家に責任能力のない子供と、取り扱いの難しい放浪竜殺ししか残っていませんもの。

 むしろお兄様が失踪中の現在、エルレイク家の人間は8歳のわたくしと3歳のクレイしかおりませんわ。

 とてもとても……責任を追及出来たものではありませんわよね?

 どちらかと言えば保護対象であり、同情されるべき立場でこんな時は良かったのかもしれません。

 首の皮一枚の延命ではありますけれど。

 もしも両親が健在の内にアダマンタイトの盗掘・密売問題が持ち上がっていれば……この不祥事に、わたくしの両親は責任を求められて酷い状況に陥っていたかも知れません。

 何が幸いするk……いえ、そもそも当家の治める地にて希少金属の盗掘・密売などという重罪を犯す愚か者に全ての責任がありますわよね?

 管理責任を問われると反論はできませんが、そもそもは当家の土地で罪を犯した愚か者にこそ悪の責任があるはずです。

 確たる証拠はないにしても、状況証拠的に当家を潰しにかかっている者との関連も疑われますし……。


 もしも、『諸悪の根源』というものがあるのでしたら。


 わたくし、良い子でいられますかしら……?

 

 


「ロビン様、わたくしの脳内会議が無事に終了致しましたわ」

「お、おう……? なんか難しい顔して考えこんでやがんなとは思ったが……何か結論でも出たのか」

「はい、わたくし……決めましたの」

「な、なにをだ?」


「わたくしの家を蝕む害悪は、何人たりとも許しませんわ」


「待て、一体何を考えてどんな結論を出した!」

「ロビン様、先程の仰り様から思っていたのですけれど……わたくしが幼さ故にアダマンタイトの情報を家から伝え聞いていなかったかのような物言いでしたわよね?」

「流すな! 頼むから、そこは流すなよ!」

「いいえ、どうぞ先にこちらの疑問にお答えになって? 我が家の領地がアダマンタイトの鉱脈を抱えること……そして文脈から見るにアダマンタイトが国家守護の精霊の一角を司っていること。これらの事情をさも当家が把握していて当然のように仰いますのね」

「え? いや、知っていて当然だろ?」

「……何故ですの?」

「………………姫、エルレイク家はアダマンタイトの鉱脈守……アダマンタイトの精霊の番人を任されていたんじゃないのか?」

「そんな事実はございません」

「あっさり否認!?」

「むしろお兄様が領地内の山から鉱脈を発見した際、父も王家の方も大層な驚きようでしたけれど。兄に褒賞が下ったくらいですもの」

「な、なんだって……!?」

「……どうやらロビン様の知る『事情』と、我が家の『状況』、両者の間には何やら祖語があるようですわね」


 長い年月を領地であるフォルンアスクの森で引き籠ってお過ごしになった、森番の一族。

 言い換えてみれば、長の年月を他者の流言飛語に紛らわされることなく、お家独自の情報を保持し、伝えてきたということではないでしょうか。

 ロビン様が抱えておられる情報……古くからの伝承には、何やらわたくしの存知ない事情が諸々隠されていそうな気が致します。


「ロビン様……?」

「待て、なんでそこで微笑む。なんでそんな目で俺を見るんだ……!?」

「ふふ……わたくしの知っていることは、幾らでも教えて差し上げますわ」

「え……それは、ありがとう…………?」


「その代り」

「!?」


「……ロビン様が御存知のことも、全て供出していただきますけれど。構いませんわよね……?」


 友好的な立場を示す為、わたくしは充分に淑女らしさを内包する笑みでロビン様に微笑みかけました。

 ですが、何故ですの……?

 ロビン様が硬直されてしまわれたように思えるのですけれど……どうしてなのか、理由がわたくしにはとんと理解できませんでした。

 ええ、さっぱりですのよ?


 

 



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