物は試しの二本目 そのいち
スッキリと目が覚めた。
起きた時間はいつもの休日よりだいぶ早かったのに、ゆっくり休めた気がする。
起きてキッチンでミネラルウォーターを飲む。体の中に沁み渡る感覚。
ペットボトルを持ったままリビングに行くと、テーブルには発泡酒の缶が2本。
持ち上げると、一方にはまだ中身が残っていた。
昨日の夜のまま。
「…夢、だよねぇ」
呟きに返事は帰ってこない。
当たり前だけど。
とりあえずテーブルを片付けて、ベランダで回る洗濯機を眺めつつ朝食代わりに昨日買ったスイーツを食べる。
コレおいしい。また買おう。
そのあとはいつもの土曜日の過ごし方を頭に思い描く。
クリーニングにスーツを出して、ネイルサロンに行って、ついでに買い物もして、時間があったらDVDでも借りて、あ、払込の用紙があったっけ。
ちらりと時計を見れば、まだ8時半。
時間はたっぷりある。
「ランチもしてこようっと」
行きたいお店があったのだ。
素晴らしい名案に鼻歌でも歌いそうな気分になりながら、クローゼットのドアを開ける。
買ったばかりワンピースに目が留まるけれど、やめておく。一目惚れして買ったけれど、フレアのスカートが可愛らしくて、着る勇気がイマイチ出ない。
今日は深いグリーンのオフタートルニットに、スキニージーンズにしよう。
いつもより華やかなメイクをして、髪も仕事のときのまとめ髪じゃなくハーフアップにして、足元はいつもよりヒールの高いパンプス。
忘れ物はないわよね?
いつものように、出かける前に玄関で荷物を確認する。
スマフォに、お財布に、定期に、化粧ポーチに、鍵に…そうだ、シガレットのポーチ!
昨日家に帰ってから吸ってないから、まだ通勤バッグの中だった。
部屋に戻って、リビングに放置していたバッグからポーチを出す。いつもならもう確実に1本は吸っているのに、今日は吸いたいとは思わなかった。
他に忘れ物はないかと見回したリビングで、床にぽつんと落ちているものがあった。きっと、バッグの蔭にあったんだろう。
一本だけ減ったイージー・ラバー。
一瞬悩んで、まぁ持ってくかとバッグに入れる。
期待してるわけじゃない。
ただ、そこにあったからよ。
10/26投稿してすぐに改稿しました。