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イージー・ラバー  作者: いちる
シガレット
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状況把握の一本目 そのいち

お読み頂けると幸いです。

コメント、評価頂けたら光栄です!


よろしくお願いします。


「夏目、これやるよ」


ぽんとデスクに置かれたのは、やたらファンシーなタバコのボックスぐらいの箱。

置いたのは同僚の高橋。先月までの私の想い人だったオトコだ。


「なによコレ?」


「旅行土産だよ。一昨日帰ってきたんだ」


「あぁ、バリ島だっけ? ありがと」


箱を手に取って表と裏を見る。アルファベットの羅列の連続に、私は解読するのをすぐに放棄した。

めんどくさい。よくあるチョコレートとかでしょ? 新婚旅行のお土産って言ったらさ。


とはいえ笑って受け取る。社会人として笑顔は円滑なコミュニケーション手段の初歩だもの。例え内心まったく嬉しくなくてもね。

何が嬉しくないって、失恋したのもモチロンだけど、同僚としても私が思うより高橋と距離があったことを思い知らされたからだ。

大事な報告すらされない程度の───結婚式にも呼ばれなかったどころか、一月前に職場の社報内の結婚報告記事で知るまで結婚についてまったく知らなかった程度の同僚だと思われてたってワケよ。

私は結構深い付き合いだと思っていたのに。

あーもうチクショウ!


「多分あっちのタバコだと思う。お前好きだろ?」


「今吸ってるのはタバコじゃなくてハーブシガレットなんだけどね」


おいおい、もう30過ぎの独身女が洋モク好きとか、あんまり大声で言わないで頂きたい。本数は元からそんなヘビーじゃないし、ニコチンフリーのに変えたんだから。

ま、その分日本のより高いし、売ってるとこもなかなかないんだけど。


「変わらんだろ、お前が吸ってるエロいやつも」


「エクスタシーね。ただの銘柄よ」


ポーチの中の白い箱を思い出しながら答える。吸わない人にとってはそうだろうとは思うけど、ニコチンが入ってない時点で厳密にはタバコではないし、実際味も違うし、別にエロくもない。


「そうそれ。俺、初めて聞いたとき麻薬か変な薬かと思った」


そう言って笑う高橋のえくぼに、この期に及んでときめく。ガタイはいいクセに笑顔が子供っぽくてカワイイとか、反則でしょうよ。


「フツーのですから」


少し笑いながら答える。心の中は顔になんて出さない。これでも10年以上営業職やってるんだから。出来ているとは思うけど、手の中の箱を意味もなく振ってみる。


「なんだよ、お前のために似たようなの探したんだからな?」


スネたような口調で高橋がこっちを見る。

だからそういうこと言うなってば。既婚者は対象外だっつーの。惑わされるな、私っ。


「じゃ、ありがたく貰っとくわ。用事あるから、お先にー」


カタカタ鳴る箱を通勤バッグに入れると、私は席を立った。高橋が来た時点で終業時間は過ぎていたんだ。旅行の思い出も惚気も聞きたくないから、とっとと帰ってしまいたい。


「おう、お疲れー」


幸い高橋はあっさりと私を解放してくれた。まだ仕事があるのか? いや、ヤツは新婚なんだった。そりゃ早く帰りたいに決まってる。


なんだかちょっとヤケっぱちな気分になったので、今夜は酒盛りしようと決めながら社内エレベーターのボタンを押す。

居酒屋にでも行くかな。あぁ、でもそれなら誰か誘いたい。

急な呼び出しに答えてくれて、会社と関係がなくて、思いっきり愚痴れて、もしも万が一不覚にも泣きそうになっても大丈夫で、出来たら一晩中付き合ってくれるような人つかまらないかなぁ。

脳内で複数の友人を思い浮かべるけれど条件に当てはまりそうな選択肢(じんぶつ)はいなかった。

そりゃそうだ。ただでさえ連休前(きんようのよる)なんだから。

けれども花金に居酒屋で独り酒する気合は今の私には残ってなかった。



これでお酒が入って、イチャイチャするカップル見たら絡むと思う。確実に。

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