競作 『夢喰いババァ』
競作第二弾!! 今回のテーマは『ツイッター』ジャンルは『ホラー』です! 楽しんで頂ければ幸いです!
今日から私は社会人一年生。早速、東京に上京し、それなりに家賃の安い四畳半を見つけて、社会へ旅経つ準備を着々と進めていた。
すると、このアパートの大家さんが私の部屋を訊ねた。「大丈夫かい? なにか手伝おうか?」初老で、少々皺が目立つおばさんだった。私がここに来た時、いい笑顔を見せ、快く私を迎えてくれた。とてもいい人だ。
「あ、お構いなく。私なら大丈夫です!」
「そう、じゃあ明日頑張っておいでよ」そう言うと、大家さんはゆっくりと戸を閉めた。
私は早速、両親からの最初の仕送りで買った背広に袖を通し、軽く頷く。「うん、ぴったり」これから長く着る、私専用の背広……大切にしなきゃ。
まだ、この部屋には布団と枕くらいしかなく、家具は初任給で色々買い足すつもりだ。そうしたら、この広く感じる四畳半も、狭くなるだろう。狭くしなければ! そして、もっと広く、綺麗なアパート、否マンションを買わなくては!!
明日からの仕事が楽しみで、いてもたってもいられなかった私は、ここ数年愛用しているパソコンを引っ張り出し、起動させた。そして、お気に入り登録してあるツイッターへと飛ぶ。そこは、四畳半よりも遥かに広大な私の世界があった。
フォロー、フォロワー共に千人以上、その中でも仲の良い人が百人。そう、例えパソコン越しでも友達百人いるのだ。早速、彼らに向けてメッセージを飛ばす。
〔明日から初会社の初勤務~ 初社会へ行って参ります( `―´)ノ〕
すると、数秒立たないうちに私の友人たちが返信してくる。〔応援! エール! うぉう!! \(゜ロ\)(/ロ゜)/〕〔やっと来たか、我がレベルに(*´ω`*)〕〔初仕事報告も忘れんようにね~〕応援ツイートが私の心に沁み、少し涙が出る。
「頑張らなくちゃ!!」ひとりガッツポーズを取り、気合を入れる。
すると、少し空いた窓から冷たい風がヒュルリと入り込み、私の鼻下をくすぐった。豪快なくしゃみを飛ばし、背筋を震わす。「寒いな、暖房も欲しいな~」と、窓を閉め、ツイッターに〔へっくしょい! 誰だ? ワイの噂をしたのは!〕と、書き込む。
すると、表示された私の呟きが変化していた。
〔あぁ……不安だなぁ、独りぼっちだよ……〕
こんな呟きは書き込んだつもりはなかった。驚いた私は、この呟きを消そうと試みる。だが、削除を選んでもこの言葉は消えなかった。「あれ? おかしいな……?」
この呟きに対して、励ましの返信が数件くる。これらにも私は感動したが、このネガティブな呟きをしたつもりはない。
気を取り直して私は〔なぁんちゃって( *´艸`)そんな弱音を吐くほど可愛いくないぜ!〕と、打ち込み送信した。すると……。
〔嫌だ……きっと会社で虐められたり、シカトされたりするんだ……〕
「え?! こ、こんなこと思ってもないよ!!!」また削除しようと試みたが、この呟きは消える事はなかった。
〔どうしたの? (´・ω・) やっぱ不安だよね〕〔君らしくないぞ! しっかり!!〕〔そんなドラマみたいな事、滅多におきないよ~〕
皆の励ましに応えようと、タイプする。〔大丈夫、私はそんなに弱くないです!!〕
〔……うまくいく自信がない。あんな職場すぐに辞めてやる〕
「まってよ!! そんな事……思って……」さっきから勝手に変換される私の呟きがだんだん不気味になる。まるで私の意識していない心の内を代弁しているかのような……「そ、そんなことあるはずがない!!」私はパソコンの電源を切り、明日に備えて布団に潜りこんだ。「そうだよ! 起こるはずがない……」
次の日、初出勤を終えた私は初飲み会に誘われ、この四畳半に帰ってくるのは夜中の二時頃になってしまった。いい先輩方や上司がおり、私は安心した。
昨日の事など忘れ、早速ツイッターにこの事を報告した。〔いえ~い、初飲み会いってきたぜぃ(=゜ω゜)ノ ほろ酔い気分~ いや、いい人ばっかで安心安心〕
〔みんな私を睨んでた……うまくいくはずがない……不安だ〕
「ま、まただ……どうなってんの?」削除を試すが、消える様子が無い。不気味だ。私のパソコンは、何かのウイルスにでも感染したのだろうか?
〔昨日から変だね(´・ω・)〕〔どうしたんだ?〕〔珍しく鬱った?〕
「そんな! いい人たちばかりだったよ! 安心したんだから!!」タイプする。
〔もう明日辞めよう。あんな所で働ける筈がない。上手くいく自信が無い。東京なんか来るんじゃなかった……〕
「違う! 違う!」キーボードを殴る様に打ち、送信する。
〔死にたい……親もこんなお荷物な私に嫌気がさしているに違いない……〕
「そんな馬鹿な!! 違う!!!!」私は画面を睨み付け、乱暴にタイプした。
〔もうこんな社会やだ……死のう。きっと皆もそう思ってるはずだ〕
「いや、そんな!! 違う! 私はそんなこと思ってない!!!」と、またタイプする……。
そこで気が付いた。私はさっきから、『この呟き』を自分で打っていた。明日への希望や期待を胸にした呟きなど私の頭には浮かばず、ただひたすら、この呟きを自らの意志で打っていた。「……違う……よね……?」
〔もうだめだ……〕
一か月後。大家がアパート前を竹箒で掃除していると、近所の人々が集まってきた。「大家さん、またあなたの部屋の入居者が自殺したんですか?」「今度は近所の公園で首をくくったんですって?」「まったく、命を大事にしない若者ねぇ……」
自殺当日、部屋には叩き壊されたパソコンが一台残され、遺書らしい物は残っていなかったという。
「本当……迷惑な話だよ」大家は困ったような表情の裏側で、なにか楽しそうにほくそ笑んでいた……。
っと、読了ご苦労様です。ありがとうございます!
暗かったですね……題名は少し明るくしたのですが、やっぱ暗かった……。『夢喰いババァ』どうでした? きっと貴方の近くにも……。
因みにこの物語、話を身近にするため名前や性別などを特定させずに書きました。話に入り込みやすくしたのですが、いかがでしたか?