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勇者一行は麓の村の酒場へ立ち寄り、魔王を討ち倒したことをみなに告げた。酒場にいた者たちは、しかたないわね、あんなろくでなしじゃ、という表情で杯を軽く掲げた。


ドワーフはさっそく樽ごと酒を呑み、早くも酔い潰れそうになっていた。やるせなかった。だれも魔王を救ってやれなかった。あれだけいた魔王の手下も、一切姿を見せなかったのは、話がマジメっぽくなってきたので慌てて逃げたのだろうと思っていた。魔王への憐憫(れんびん)と手下への怒りがドワーフのなかでごちゃ混ぜになっていた。ドワーフはわかっていた。魔王は生まれながらにして魔王として生きる宿命を帯びていたのだ。そこに本人の本当の願望など介在する余地もないままに。


オカマの僧侶は飲む気分じゃないわ、と一人教会へと向かっていった。


柏木はX(旧ツイッター)で魔王を勇者が討ち倒したことをつぶやいていた。無数のいいねがついて大量にリポストされバズっていた。


エルフは物憂げな顔で、カウンターの木目を凝視している。


「どうしたおまえら。もっと喜べよ。俺たちは一応世界を救ったんだぞ。」


勇者はムッツリと腕を組み、一行を見渡した。


「魔王はどうして力があるのに本気で世界征服を目指して努力しなかったのかしら。」


エルフがぼそりと呟く。


「知るかそんなの。ただのぼんくらだったんだろうよ。いい歳して親の脛かじりで一日中部屋にひきこもってマスかいてたんだ。生まれながらの敗者だ。あんな奴、死んで当然だよ。」


勇者の頬がはたかれた。エルフが殴ったのだ。


「あなたにはあの人が本当に敗者だと思うの!?私の色仕掛けにも乗らず、最後には自分の運命を受け入れて一人で私たちに立ち向かってきたのよ!必ず負けるとわかっていたのに。」


勇者はエルフが激昂するところをはじめてみたので虚を突かれたが、すぐに冷笑を口元に広げた。


「ああ、何度でも言ってやるよ。奴は敗者だ。どうしようもない穀潰しの、ろくでなしの、究極のなまくら野郎だ。」


エルフは顔を伏せた。髪が横顔にかかり、表情が窺えなくなった。泣いているのかもしれない。


「だれか、対策を講じるべきだったんだろうね。然るべき病院に行かせるとか、福祉に頼るとか、ケースワーカーに相談するとか。」


柏木がスマホを見つめたまま淡々と言う。


「知るか。クズの世話してやるほど暇な奴なんていなかったんだろうよ。」


勇者はあくまで悪態をついていた。これでも正義の味方、勇者なのだから世界は残酷だ。


「私帰る。」


エルフが勇者の方を見向きもせず言って立ち上がった。


「帰るって、どこにだよ。」


勇者が運ばれてきたステーキを噛みながら、エルフに問う。


「私の村に決まってるでしょ。あんたなんかの口車に乗るんじゃなかった。」


エルフは音高く店の扉を閉め、去っていった。扉に備え付けられてたカウベルが衝撃で床に落ちた。


「はあ。これだから女は嫌だよ。アイツを誘ったのは間違いだったな。子宮でモノ考えてんだよ。物事を客観的に捉えられない。せっかくの宴が台無しだ。」


勇者がマズそうにステーキを噛みちぎる。


「僕たち解散ですよね?」


柏木が顔を上げて勇者を見つめ、淡々とした口調で言った。しかし目にはどこか冷たい光が閃いていた。エルフに含むところがあるのだ。


「当たり前だろ。世界が平和になった以上、俺たちももう用済みだ。」


ドワーフはでかいイビキをかいて床に大の字に寝そべっていた。

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