交渉
勇者一行は魔王の自室に通された...ってことにしたかったんだけど、招かれたのはエルフだけだった。女性経験が浅いからちゃんと描写できるか不安がたちこめる。残されたメンバーと数名の悪魔たちは広々とした謁見の間で宅配のピザを食べながら人狼ゲームに興じていた。嘘が下手なドワーフが人狼を引くと可哀想なくらい動揺してゲームにならなかった。
魔王の自室ではガチガチに緊張した魔王と妖艶な笑みでかたわらに横坐りで座り込んだエルフが向かい合った。
「なにそんなに緊張してるのよ。こういうところ初めて?」
「ここは私の部屋です。」
「魔王様は細かいとこにこだわるのね。まぁいいわ。単刀直入にいきましょう。世界征服、やめてくださる?いろんな人が迷惑するから」
エルフはほっそりした左手を魔王の膝に這わせる。
「わ、私は魔王だ。世界征服しないとアイデンティティが失われてしまうのだよ。きみは確かに魅力的だ。でも、これだけは譲れない。おそらく私はここで君に食い殺されるのだろう。それでも本望だ。心の向かうところが志だ。その志が果たされなくても、信念を貫いて死ねるのなら笑って死ねる。きみにはそのきもちがよくわかるのではないか。」
「そうね。私もご本尊を取り上げられたら生きていけないわ。お互い立場のある身ね。わたしはあなたに世界征服をやめてもらいたい。あなたはどうしても世界征服の夢を捨てられない。どうやって歩み寄ったら男女とは本当に分かり合えるのかしら?」
雲行きが怪しくなってきた。エルフは魔王の膝をゆっくりと撫でている。その指先が、だんだんと少しずつ足の付け根へと這っていく。
「こうしない?あなたは今からこの私を好きにしていいわ。そのかわり、世界征服はやめて。」
ただのビッチだった。幻想をぶち壊された魔王は額に青スジをたててエルフを睨む。
「幻滅だ。」
「どう言われても結構。どの道あなたは助からない。ああ見えて他のメンバーはやるときはやる人たちよ。ふざけてばっかじゃ誰も読んでくれなくなるでしょ。どうするの?私を抱いて世界征服をやめる?それとも私たちに童貞のままなぶり殺しにされる?」
「わ、私は...」
魔王の脳裏に今までの人生が走馬灯のようによぎった。なんの努力もせず、なんの成功も掴めず、負け犬として生き続けてきた。だれにも見向きもされず、二次元でしか人生を満喫できなかった。結果、得たものは何もない。からっぽだった。魔王は、あらためて自分の果てしない愚かさを痛感した。意を決したように、エルフの瞳を真っ向から見返した。
「私は最後まで諦めない。正々堂々と、勇者たちと戦おうではないか。」
するとエルフははじめて、魔王を認めたかのように、一人の男として対等に扱おうとするかのように、視線からエロい気配を消した。正座をすると指先を自分の両膝に揃えた。
「どこで戦いますか?」
エルフの声は真剣だった。
「勇者一行と悪魔たちが戦った荒れ地がある。そこでもう一度戦うとしよう。」
「いいわ。今から勇者たちにもろもろ伝えにいく。あなたは、準備をして。」
エルフは立ち上がり、魔王の部屋を出て行った。




