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お母さんからの電話

続きです

「あ、ママ?うん、元気だよー。いきなりどうしたの?電話かけてくるなんてめずらしいじゃん。え?第6巻?ワンピースだったら売っちゃったよ。え?たしか首領・クリークが出てくるあたりだよ。え?第六感?あ、ごめんね。...不安なの?大丈夫だよ俺なら。うん。ママこそ健康でね。長生きしてね。」


母との電話を切って魔王は嗚咽をもらして泣き出した。きっともう自分は助からないだろうという予感があった。魔城の隠し部屋はいくつかあると父から聞かされていたが、どれもカモフラージュされていてそもそも扉自体がどこにあるのかわからなかったり、棚の後ろに発見した屈んで入れるサイズの扉は長年放置されていたためか経年劣化が激しくどれだけ力を込めても開かなかった。何時間も魔城を探索して隠し部屋を探すことは遂に諦めた。魔王は自室に閉じこもり、布団を頭からかぶってがくがく震えていた。四方八方から迫りくる慄然(りつぜん)たる気配のせいだった。それがまやかしであるのは承知していたが、これから勇者一行が俺をなぶり殺しにくるのは確かな情報なのだ。勇者らがどんな武器で襲いかかってくるかわからなかったが、斥候に出した隠密部隊の悪魔の情報によれば敵は五人だ。僧侶の身なりをしたオカマと、美人のエルフと、屈強なドワーフと、昔の秋葉原にいそうな感じの男が一人。そして、残るは勇者だ。


「魔王様。ここにいらっしゃいましたか。奴ら、もう岩山を登ってきて、城の濠付近まで来ているとのことです。」


斥候の悪魔が告げた事実は魔王を震撼させた。


「早すぎないか?トラップの数々はどうした?」


「なんでも、パーティゲームに使うようなねこだましでは百戦錬磨の勇者一行には通じなかったようで。申し訳ありません。不甲斐なくて。」


魔王はきつく唇を噛み締めて、布団をかきあわせ、悪魔を弱々しく睨んだ。


「私の命がかかっているのだぞ。わかっているのか。父亡き今、子も無き今、世界を恐怖に陥れて阿鼻叫喚の地獄絵を描けるのは無敵の人のこの私以外にはおらんのだぞ。」


「あ、ご自分が無敵の人だって自覚はおありあそばしていたのでございますね。」


「黙らんか!日本語も変だし。私、まだやり残したことがあるのだ。こんなところで無残にくたばるわけにはいかないのだ。父の無念と母の愛を思えば、私には、私にはまだ使命があるのだ。」


魔王の頬を涙が伝う。


「世界征服ですか?」


「無論だ。」


悪魔はまじめな視線を魔王に注いだ。


「なんでここまで追い詰められないと気づけなかったんですか?」


魔王は一瞬言葉を失い、悪魔の視線を、子供がまだ知らない言葉を浴びせられたみたいな表情で見返した。


「...すまない。」


「あなたはどうしようもない魔王ですよ。いい歳してエロゲーばっかりやって、出会い系サイトには慶応義塾大学経済学部卒だなんてすぐバレる嘘をついて、ソープランドは病気をうつされるかもしれないから怖くて行けない童貞。頭は悪いし、変な例えばっかり使うし、おまけに髪は薄く...」


「黙らんか!誰に向かって口を利いているのかわかっているのか、貴様!」


魔王は被っていた布団を跳ね除け、悪魔に掴みかかった。胸ぐらをきつく締め上げられた悪魔は、母のように笑った。


「そう、その顔ですよ。やはりあなたは魔王だ。亡き先代の面影を感じます。あなたはまだ闘える。ここでくたばってはいられない。共に最後まで足掻きましょう。」


悪魔は、一転して厳しく眉根を寄せると、


「勇者一行がやってきます。戦う覚悟はできましたね。」


魔王は、しぶしぶ頷いた。

続きます

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