勇者たち
続きです
「もうすぐ魔城ね。あたし、早くも興奮でウズウズしてきたわ。もう漏れそうっ。」
オカマの僧侶が上気してうるんだ瞳でまっすぐ前を見すえている。彼(彼女)はLGBTと呼ばれるのを拒み、オカマって呼んでと謎のこだわりをもっていた。
「装備は万全だし、みんなのコンディションも最高だし、今日こそは魔王をやっつけられると思うわ。ああ、素敵な悪魔はいるのかしら。」
橋本環奈似のエルフがそのやわらかな頬に微笑を浮かべ、僧侶に追随する。
「俺はこの日の為にすべてを犠牲にしてきた。女房を、娘を、仕事を、趣味のバス釣りも、だ。水抜き塩抜きを徹底し、さっきは特大ステーキの汁だけ吸ってきた。早く魔王とやらをぶん殴りたくてしかたないぜ。」
ドワーフのおっさんは今にも雄叫びをあげそうだ。ジャブをどしどし出して気合いを高めている。
「だが油断は禁物だよ。魔王がどれだけ強大な敵かを知らない者などいないけど、出会い系サイトのプロフィールには慶應義塾大学経済学部卒と書いてある。知恵もまわる奴だろうね。油断は禁物だよ。」
コンピュータオタクの柏木が言う。勇者は仲間たちの一番前を歩き、それらのとっ散らかった言葉を背中に浴び、背筋がぴんと伸びた。コイツらのピンク色の脳みそがいざ最後の戦場においてどう働くのか不安になったのだ。俺だけは浮かれないようにしなくては。
せめて最後にVAMPSのAHEAD聴きてぇなぁ...
いや、ダメだ。スマホは持って来ているが、それを聴くのはこの戦いに勝利した時だ。しかしこの間のzepp横浜のHYDE様は最高だったなぁ。
「見えてきたぞ。あの城だ。」
勇者は一同を振り返った。みな、固唾をのんで漆黒に染まった城を凝視している。城は急峻な岩山の頂点に君臨していた。おそらく濠が巡らしてあり、ほかにも進撃を簡単には許さない仕掛けがあるだろう。今一度、気を引き締めなくては。
「魔王が出会い系サイトを退会した。奴も本気だってことだろうね。」
柏木が言った。
「知るか。なんであれ、俺たちの使命は世界征服を企む邪悪な魔王を打ち滅ぼすことだ。お前ら、覚悟はいいか。」
勇者が僧侶、エルフ、ドワーフ、コンピュータオタクの柏木を順に見回す。みな、真剣な顔をして頷いた。一応一蓮托生でここまでやってきた。確かな危うい絆をたしかめ、一同、横並びで城へと向かった。
続きます




