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夜の打ち明け話

「いや、もうじき夜になる。ここいらには火を焚ける草も木の枝も生えてるし、夜営をして体力を回復させた方がいい。それにこれから先は、夜目の効かない俺らには危険だ。心配しなくても、魔王はすぐには葬られないさ。さっきの柏木の話を聞いたろう。今日はいろんなことがあったからな。体を休ませるべきだ。」


ドワーフがエルフを諭すと、エルフはしぶしぶ腰をおろした。放心しているようだった。


太陽は遠く地平線の彼方に今にも沈もうとしている。ドワーフがそこらに生えている草や木の枝を組み、エルフに頼んだ。


「火をつけてくれ。」


てのひらを向けるとファイアを唱えた。基本的に弓で戦うエルフは攻撃魔法に対する能力がやや劣っている。しかし焚き火を(おこ)すくらいならちょうどいい塩梅だった。


「なんだかお腹が空いてきたわ。私、宴に参加せずすぐ教会に向かっちゃったから。」


「とっておきの狼肉があるぜ。かなり脂身がキツいが、空きっ腹にはご馳走だろう。」


ドワーフが腰の革帯にぶら下げた肉を見せつけると、粘土質の土をかき集めてきて焚き火の周りを固めだした。狼肉を中に放り込むと、フタをするように粘土を固めて被せた。


「こうでもしないと火が充分通らなくて食えたもんじゃねぇ。時間はかかるが我慢してくれ。」


僧侶が興味深そうにドワーフの話に耳を傾けて天然のオーブンに見惚れているのに比べて、エルフは急に憔悴しきったかのように虚ろな視線を地平線へ投げかけていた。柏木は黙ってそばに寄り添っている。


エルフは考えていた。今の今まで魔王の身を案じて自殺まで決心したというのに、頭に浮かぶのは勇者の顔だった。L'Arc〜en〜CielやVAMPSの話をするときの彼の爽やかな笑顔が落日の空に浮かぶ。私は、孤独な人に弱いのだ。つい躍起になって救いの手を差し伸べたくなってしまう。これは私の弱さだ。なぜならずっと私も孤独だったから...。


勇者は魔王を仕留めた際にたしかこのようなことを言った。"俺はお前の死について何の感慨も抱かない"と。果たして本当にそうなのだろうか。音楽は素晴らしいものだ。私はエルフだから、音楽の素晴らしさを誰よりも理解していると思っている。音楽とはときに人を励まし、ときに癒し、ときに心を震わせ、抱きしめてくれる。あれだけ熱心に好きなアーティストについて語れる少年のような感性を大人になっても持ち続けている勇者が、たとえ相手が気に食わない存在であっても、人の死についてなんの感慨も抱かないなんてことがあるだろうか。勇者は勇者で、悲しかったのではないか。悪がいるから正義は成り立つ。勇者は魔王を討ち果たすことで、その役目を終えたのだ。高学歴の彼はこれからその功績を讃えられ、一流企業に就職し直し、平々凡々として変わり映えのないけれども平和な毎日を送ることだろう。たくさんの同僚や上司たちの賞賛を浴びながら。でも、私たちが魔王を蘇らせたら、彼は再び...。


「おーい。エルフちゃ〜ん。心ここにあらず?」


僧侶に肩を小突かれ、エルフは思念から解き放たれて振り向いた。柏木が心配そうな目を向けてくる。ドワーフは睨みつけてきた。


「俺の武勇伝を聞かずになにをボーっと考えてるんだ。もう一度最初から話すから耳の穴かっぽじってよく聞いとけよ?俺はその昔、警察官だったんだ。刑事(デカ)の魂にかけてなんとしても犯人(ほし)を挙げるべく違法捜査や服務規律違反をしまくったものだから、首を切られてな。妻にも逃げられ、最愛の娘とも会えなくなり、仕事もなくし、自暴自棄になりかけたが俺はドワーフになることで自分自身を取り戻した。一時期は住む家もなく知人のツテを頼り隙間風の強い漁師小屋で風雪に耐え忍んだ。それからの俺は心機一転、格闘家になるべくひたすら鍛錬した。なぜかわかるか?男なら正々堂々と拳ひとつで戦うべきだと思ったからだ。体重を低めに抑えてミドル級で安全に戦うこともできたが、俺はあえて危険なヘビー級でやっていた。この小柄な体でだぞ。どうだ。少しは俺を見る目が変わっただろう。」


(おとこ)らしくて素敵だわ。アタイは小さいときから女の子の好きになるものにずっと憧れてたの。でも父は厳しかったから、たくましい男になれるようにとボクシングさせられたり、ムエタイさせられたり、子供だったアタイは歯向かうこともできず、ずっと耐えるしかなかった。本当は同い年の女の子と遊んで、下北でクレープでも食べながら好きな男子について心ゆくまで語り合いたかったわ。でも、ひとつ決して忘れられない想い出があってね。中学生だったアタイは毎日死ぬことばかり考えていた時期があったの。ほら、性の目覚めがあったし、女の子として生きられない私はもう希望も何もかも感じなくなっちゃってね。校舎の屋上から飛び降りようとしたら、当時好きだったバスケのキャプテンをやってた先輩に後ろから抱きしめられて、助けられて。想いは結局最後まで伝えられなかったけれど、今でもあの時のことは夢だったのかと思うときもあるわ。でも例え夢だったとしても、アタイにとっては一生忘れられない大切な想い出よ。」


酒が回っている僧侶は地がでていた。また酒が入ったドワーフは涙を流して僧侶の両手を何度も何度も振った。


「エルフちゃんは、なにか話したいことある?こんな夜は滅多にないわよ。エルフちゃんの秘められた過去を教えて?」


柏木がなおも心配そうにエルフを見ている。


「私は...特にないわ。」


精一杯明るい笑顔を作って言った。二人はそんなはずないでしょうなにかあなたも告白しなさいよと詰め寄ってくる。私はまた、自分の開きかけた暗い過去にフタをした。私の孤独は、いったい誰のものなのだろう。柏木が心配そうにエルフを見守りながらも、


「僕の話も聞いてくださいよ!僕は高校のパソコン部にいたときにボヤ騒ぎを起こしたことがあって...」


いつのまにか夜の帳が降りていた。(ふくろう)があやしく鳴いている。

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