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魔王奪還①

エルフと僧侶は彼方に魔城(しろ)を仰ぐ急峻な岩場へと駆け走った。


「私も体力がっ、落ちてっ、いるわねっ。さすがに四十路にもなるとっ。」


「がんばってくださいっ。」


二人は断崖の岩場に飛びつき、細い指に力を込めて、急ぎながらも慎重に足場を探してよじ登っていった。するとだいぶ登って足元を見られなくなった辺りで、体に振動が伝わってきた。すぐに異常を察した二人が顔を見合わせると、上から巨大な球体をした岩が二人目掛けて転がってきた。二人はかろうじで岩場に張りつき体重を支えているため、避けられない。当たったら大怪我は免れないし、この高さから落ちたら即死だ。エルフは瞬間で魔王を想い死を覚悟して目を瞑った。


「ドリャアアアア!!」


二人の死角になっていた岩棚からドワーフが現れ、拳で球体の岩を打ち砕いた。細かい欠片になった岩が二人の頭上に降り注ぐ。ドワーフは顔が真っ赤だった。まだ酔っているのか足元がふらついている。よくここまで登ってこられたものだ。さすがの怪力である。


『ドワーフさんっ!』


二人は声を揃えた。すると後ろから柏木が顔を覗かせた。


「姉さん大丈夫!?」


柏木は駆け寄りたくなるきもちをぐっと抑えた。


「ええ。おかげさまで。私たちの居場所がわかったのはGPS?」


「そうだよ。姉さんが酒場を飛び出していってからこっそり追跡していたら教会に行くじゃないか。すぐ合点がいったよ。慌ててドワーフさんを起こして事情を説明したらなぜオカマさんより俺に先に知らせねぇってキレちゃって。先回りしてここで待ち伏せた。」


「キレるのは当たり前だろう。女二人でこの難関を突破できるかってんだ。まったく無茶をすると思ったものだ。げぷっ。」


オカマの僧侶は女と言われたことに乙女のようなときめきを覚えているようだった。エルフはその横顔を見て思った。オカマさんはきっとドワーフさんに惚れてる。しかしエルフは複雑なきもちだった。彼ら二人が救援に駆けつけてくれたのはありがたかったが、そうすると酒場に残っているのは勇者一人ということになる。


「...勇者は何か言ってた?」


「もう解散したんだからあとは好きに動けだってさ。ふてくされてたからきっと事情はわかったんだろうけど、僕らに反対もしなかった。」


「...そう。」


先ほど勇者を殴った手のひらが疼いた。


「そんなことよりさっさと登らねぇと第二弾、第三弾の岩玉が転がってくるぞ。こいつは明らかにだれかが意図的にやってる。天然であんな岩はありえねぇ。俺たちに殺意があるやつって言ったら誰だ?」


「エリート悪魔だと思うよ。下っ端は表向き勝手な行動は取れない。どうしても魔王の遺体は渡したくないんだろうね。」


「そうか。登れお前ら!」


それからはまた慎重を要する仕事だった。やっとの思いで広い岸壁の頂上へと辿り着いたエルフと僧侶と柏木は肩で息をしていた。まだドワーフは足元がふらついている。


「しかし解せねぇ。奴らはなんですぐにでも火葬しねぇんだ。骨になっちまえば生き返らせることはできねぇんだろ?」


僧侶が頷く。


「腐っても魔王だからね。そう邪険にも扱えないのさ。通夜や葬式もしなきゃならないんだろう。魔城(しろ)にいた手下だけでも何百人って悪魔たちが集まるわけだから。それに全国各地から魔王の配下にいた悪魔たちが駆けつける。お焼香にも時間がかかるって道理さ。」


格式ばった儀式に嫌気がさしてる悪魔たちの顔が目に浮かぶよ、と柏木は言う。


「まるで広域暴力団の親分(トップ)(たま)とられたような扱いだな。」


「先を急ぎましょ。休んでる暇はないわ。」

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