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村の教会

エルフは足早に教会へと向かった。小さな村にふさわしいこぢんまりとした教会だった。繊細な手彫り細工が施してある扉を開けると、オカマの僧侶が奥の祭壇の脇に跪き、目の前の十字架を仰ぎ見て、祈りを捧げていた。


「オカマさんっ。」


エルフはわずかに息を切らせながら僧侶のかたわらへと歩み寄った。


「祈りの邪魔です。下がりなさい。」


僧侶は目もくれず言い放った。


「オカマさんはさっきの決闘を見て何を感じました?」


僧侶はゆっくり(こうべ)を向けると、


「主の救いがあらんことを、とひたすらに想いました。」


「私も同じです。」


「何をふざけたことを。あなたは日蓮宗の信徒でしょう?でも安心なさい。主の導きはやがてあなたにも必ず訪れます。」


「そういう信仰の話をしてるのではありません。それに私には私の信仰があります。でも私はオカマさんが好きです。旅のあいだも、オカマさんの、信じることのまっすぐな健気さに心をうたれることもあり、常に他宗様として尊敬していました。」


「今私を持ち上げて、あなたにはなんの得があるのですか?」


「...すみません。誤解をさせてしまう発言をしてしまいました。」


エルフはつい熱くなってしまった自分を反省した。俯くと、意を決したように毅然と僧侶を見据えた。普段ふざけ倒してにへらにへらしてるオカマの僧侶とは別人と思えるほどの厳しい目をしていた。



「オカマさんは魔王が死ぬべきだと思いましたか?」



僧侶はわずかに瞠目したあと、ゆっくりと眉を寄せ、


「勇者と意見を違えたのですね。あなたの目には焦慮と怒りが浮かんでいます。」


「そうです。彼は散々魔王をこき下ろしたあと、死んで当然とまで言いました。」


「死んで当然。」


「はい。」


僧侶は祈りの手を解き、てのひらを額に当てて俯いた。


「確かに魔王のなそうとしたことは許されざる大罪です。裁きを受けて当然と考える人間も大勢、いや、ほぼすべての人がそう思うでしょう。だからこそ世界は我々を集めた...。しかし主はこの世に生きとし生けるもの、すべての人に救いの道を示されます。そして、あなたは魔王が死ぬべきではないと思った。それはなぜですか?」


「彼が純粋だったから。」


「魔王が純粋。」


「はい。」


沈黙が流れた。教会の外では鳥が陽気にさえずっている。


「説得力が足りませんね。」


僧侶は笑った。


「私は魔王が敗れたあとに、オカマさんが泣いているのを見ました。あれはなぜですか?」


「目にごみが入ったからです。」


「時間がないんです。ふざけないでください。」


「あなたは私に何を求めているのですか?」


エルフは力を込めて言った。



「...魔王を、生き返らせてください。」



再びの沈黙が流れた。鳥のさえずりも今は聞こえないほど、二人のあいだに張り詰めた空気が漂った。


「あなた、自分が何を言っているかわかっているのですか?」


僧侶は出来の悪い生徒を叱る先生のような目を向けた。


「彼を生き返らせることのできるのはオカマさんしかいません。どうかお願いします。」


エルフが誠心誠意を込めて頭を下げた。


「頭をあげなさい。無理です。」


エルフはなお頭を下げたまま唇を噛みしめた。


「なぜですか?」


「魔王は世界征服を目論み人々を支配し、圧政で苦しめようとしている。戦争になれば、なんの罪もない人々の多くの血が流されるのです。私が魔王を生き返らせれば、私とそれに加担したあなたは世界に弓を引くことになるのです。そんな簡単なこともわからないのですか。」


「オカマさんは本当に彼が世界征服をすると思っていたのですか。曇りないオカマさんの目には、本当にそう映っていたのですか。」


「人は人の心のうちを読むことはどんな魔法を使っても絶対にできません。腹のうちで何を思っていようと、魔王がそう宣言した以上、どんな理由があれ彼を生き返らせるわけにはいかないのです。」


エルフは崩れ落ちそうになる自分を必死に抑えていた。こうしているあいだにも、彼の遺体は手下の悪魔たちによって荼毘に付されようとしているかもしれないのだ。しかし、どう考えても正論を述べているのは僧侶の方だ。私には言い負かすことができるとは思えない。だとしたら、もうこの手しかない。


エルフは腰の細剣を引き抜くと、自らの首へと当てた。手が震える。


「オカマさんが魔王を生き返らせないのであれば、私はここで死にます。」


僧侶は冷酷に目を細め、エルフの震える手を見つめた。


「何を血迷っているのですか。自らを無間地獄に陥れてでも魔王の肩を持とうとする。私にはあなたの考えてることが理解できません。」


エルフはこんな時なのにこちら側の信仰で諭そうとしてくる僧侶に感激した。涙を堪え、


「オカマさんは先ほど言いました。人は人の心のうちを読むことはどんな魔法を使ってもできないと。けれど、オカマさんは人を蘇生させる力を持っているんです。これは大いなる奇跡です。きっと神さまが、特別にオカマさんにお与えになったのでしょう。人を、決して死なせないために。」


僧侶はため息を吐くとゆっくり立ち上がった。


「あなたの覚悟は見せてもらいました。どうやら今度は、私が覚悟を見せる番のようですね。共に、笑って世界に弓を引こうじゃないの。」


オカマの僧侶は、いつものだらけた顔に戻り、にへらと笑った。

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