迫りくる現実
「どうしよう」
どうやらもうすぐ勇者一行がこの魔城に攻めてくるらしい。斥候の悪魔たちはうなだれ、言葉もみつからないようだ。魔王は額に油汗を浮かべ、謁見の間に居並んだしもべたちの顔を順にみていく。
「僭越ながら。魔王様は御身をお隠しなさってください。わたくしめらが勇者一行の相手をさせていただきます。」
エリート悪魔が膝を折り頭を下げた。残った悪魔たちも同様に頭を下げている。
「そうもいかんだろう。私は魔王だぞ。臆病風に吹かれ逃げたとあっては末代までの恥だ。」
「しかし、魔王様は現在もレベル1なのです。このままでは赤子の手をひねるがごとく勇者一行になぶり殺しにされるでしょう。そうなっては先代の魔王様の世界征服の志は夢半ばで散ってしまいます。魔王様には跡継ぎになる者もあらせられないとあっては。」
魔王は落ち着きなく王座を立ったり座ったり、小刻みな貧乏ゆすりで焦りを隠せずにいた。
すべては俺が悪いのだ。
勇者一行が世界平和のために血の滲む努力をして、その情熱で仲間と結束して数々の困難を乗り越え、受験戦争を勝ち抜き一流企業に就職してきたのに引き換え、俺は世襲制で授かった地位に甘んじて日がな一日、エロゲー三昧で実質ニート、現実逃避だけを積み重ねてきたのだから。だがしかし、ここで敗れては今プレイ中のホワイトアルバム2の結末が見届けられない。それだけはなんとしても避けたかった。
「ううむ...どうしたものか。貴様らの血などいくら流れても痛くもかゆくもないが、ホワイトアルバム2は最後までやり遂げたい。しかし、私は魔王という立場だ。どれだけ腐っても、その矜持はある。貴様らを盾に身を隠すなど...」
「魔王様。時は一刻を争います。このまま魔城を去り、ほとぼりが冷めるまでどうか身をお隠しになってください。その間少し筋トレでもして不測の事態に備えていただきたく存じます。一命を投げ打ってでも、勇者一行はわたくしめらが食い止めますが。」
エリート悪魔は手にした三叉の槍を掲げ、立ち上がるとお義理で会釈をし、踵を返して謁見の間から姿を消した。その半ば放心した態度はエリート悪魔が現在の魔王に呆れ返っており、この腐ったエロゲーマニアの為に死地へ赴かなければならない者の諦念が感じ取れた。
「仕方ない。今更足掻いたってなるようにしかならんのだ。とりあえずノーパソだけ持って私は隠し部屋にひきこもる。貴様ら、勇者一行を血祭りにあげろ。」
居並ぶ悪魔たちが鬨の声をあげて立ち上がった。




