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『婚約破棄された伯爵令嬢は、男爵家三男の全力愛に困っています』  作者: ゆう
バグった求婚と距離感迷子編

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第6話 再会する聖女と、やたら気まずい空気

第6話 再会する聖女と、やたら気まずい空気


学園の中央ホールは、今日もいつも通りの華やかさを保っていた。


――いや、正確には

“いつも通りを装っている”だけ、かもしれない。


理由は一つ。


「聖女リリアナ様がお見えです」


その名前が聞こえただけで、空気がわずかにざわついた。


(久しぶりですね……)


白いワンピースに身を包み、柔らかな金髪を揺らしながら歩く少女。

かつて“王太子の心を射止めた存在”として注目を浴びた、聖女候補リリアナ。


そして同時に、

私が「悪役令嬢」と呼ばれる原因の象徴。


(確かに、嫌われフラグの代名詞のような立場ですわ)


――嫌っているつもりは、一度もなかったのだけれど。


「クラリス様……」


聞き覚えのある、少し怯えるような声。


視線を向けると、リリアナがそこに立っていた。


「お久しぶりですわ、リリアナ様」


「は、はい……お久しぶりです……」


(うん、会話のスタートから既に気まずい)


沈黙。


周囲の生徒たちが、興味津々といった様子で遠巻きにしている。


(舞台でも始まるのでしょうか)


「今日は何かご用件が?」


私がそう尋ねると、リリアナはぎゅっと胸の前で手を握りしめた。


「その……あの……」


「はい?」


「以前は……私のせいで……その……」


(ああ、この流れ)


「殿下とのこともあり……」


彼女の声が、どんどん小さくなっていく。


私はため息をこらえる。


「リリアナ様。今さらその話を持ち出しても、意味はございませんわ」


「で、でも……」


視線を逸らしながらも、勇気を出すように続ける。


「クラリス様が悪役令嬢だとか、冷たいだとか……

 全部、私のせいで……」


(……そう来ますか)


確かに。

誤解の発端のいくつかは、彼女の涙混じりの言葉から広まった。


だが、それはそれ。


「世間の評価は、あなた一人で作ったわけではありませんわ」


「……っ」


「それに、私はあなたを嫌ってなどいません」


小さく微笑む。


「ただ、“甘やかしすぎ”だとは思いましたけれど」


「ひっ……」


(そこは否定しません)


リリアナは驚いたように目を丸くした。


「……怒って、いないのですか……?」


「怒っていたら、今ここで立ち話などしておりません」


その言葉に、彼女の緊張が少しだけほどける。


だが、それでも空気はどこかぎこちない。


そこへ。


「クラリス様!」


少し息を切らした声が響いた。


(不意打ち登場枠)


振り返ると、そこには――案の定、レオン。


「お待たせしてしまい申し訳ありません……!」


「いえ、今来たところですわ」


だがその視線が、私の隣にいるリリアナに向けられた瞬間。


「……こ、こんにちは……」


リリアナが小さく頭を下げる。


レオンは一瞬固まった。


「え、あ、はい……」


(この三人で会話は地獄絵図では)


沈黙。空気が重い。

周囲の視線がさらに集まる。


「……あの、その……」


リリアナが勇気を振り絞るように言った。


「私は……クラリス様ときちんとお話ししたくて……」


「そうなのですね」


「それに……レオン様にも……」


「え、ぼ、僕ですか!?」


(なぜそこに動揺)


「クラリス様を大切に思ってくださっていると聞いて……」


レオンの顔が、じわじわ赤くなっていく。


「そ、それは、その……当たり前です……!!」


(当たり前扱い)


私は思わず咳払いをした。


「今のところ、まだ“友人”ですけれど」


「えっ!? あ、そ、そうなんですか!?」


リリアナが驚いている。


(噂が独り歩きしすぎです)


「ですが、それでも私は安心しました」


彼女はほっとしたように微笑んだ。


「クラリス様には、幸せになっていただきたいです」


「……ありがとうございます」


心からの言葉であるなら、それは嬉しい。


「私も、未熟でした……何も考えていなくて……」


(そこは自覚していただけて何より)


「ですが、今は少しずつ、自分の役割を学んでいます」


「それは結構なことですわ」


やわらかな会話が続く。


ぎこちなさは残りつつも、

確実に“過去のわだかまり”はゆっくりほどけていく空気だった。


(……悪くない変化です)


その様子を、レオンがどこか安堵したように見ている。


「よかったですね、クラリス様」


「え?」


「こうして、和解できて……」


「ええ、そうですわね」


言葉にしてみると、不思議と胸が軽くなる。


しかし、その瞬間――


遠くから鋭い視線を感じた。


(……またですか)


少し離れた場所で、アルフォンス殿下がこちらを見ていた。


その目には、苛立ちと、後悔と、そして――なぜか微かな焦り。


(結局、あなたが手放したのですけれど)


私はそっと視線を逸らした。


今いる場所は、もう過去ではない。


目の前には、

不器用で、優しくて、少し情けなくて、でも誠実な男爵家三男がいる。


そして、少し成長した聖女もいる。


(私は、ちゃんと前に進いています)


そう思えた自分に、私は気づかないふりをした。


ただ静かに、微笑んでいた。


この作品とは別に、もうひとつ「悪役令嬢」系のラブコメも書いています。

タイトルは

『悪役令嬢になりたいのに、全部善行扱いされてしまうんですが!?』


「悪役をやりたい令嬢」が、頑張れば頑張るほど周囲から褒められてしまう、

誤解まみれの転生コメディです。


クラリス達の“格差婚ラブコメ”とはまた違った方向で

「こじらせた想い」が暴走していきますので、

気になった方はそちらも覗いていただけると嬉しいです。

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