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『婚約破棄された伯爵令嬢は、男爵家三男の全力愛に困っています』  作者: ゆう
バグった求婚と距離感迷子編

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第22話 伯爵家の真意

第22話 伯爵家の真意


伯爵家の執務室には、静かな緊張が漂っていた。


窓から差し込む午後の光。

積み上げられた書類。

重厚な机の向こうに座る父――アルヴェーン伯爵。


「座りなさい、クラリス」


「はい、父上」


私は背筋を伸ばして椅子に座った。


(……さて、どの角度から叱られるのでしょうか)


予想では

① 王家への配慮

② 世間体

③ 伯爵家の格式

この三方向からの包囲網である。


だが。


「……王城からの呼び出し、受けたな」


「ええ」


「派手にやったそうじゃないか」


「ええ」


「“そぐわなさごと引き受ける”などと」


「覚えていらしたのですね」


「王城の話はすぐに届く」


父は深く息を吐いた。


そして言った。


「よく言った」


「……はい?」


私は思わず聞き返した。


「よく言った、と申し上げたのだ」


(想定外ですわね)


「叱責では……ないのですか」


「叱る理由が見当たらん」


父はふっと小さく笑う。


「お前は誰かに強いられたのか?」


「いいえ」


「逃げ場として選んだのか?」


「いいえ」


「ならば結論は一つだ」


その視線は、穏やかで――どこか誇らしげだった。


「お前は、自分で選んだのだろう」


「……はい」


「それで十分だ」


胸が、少しだけ温かくなる。


「だが一つだけ、確認させろ」


「はい」


「相手の男、レオン・バルディエ」


「はい」


「本当に信用してよいのだな?」


「ええ」


私は迷わず答えた。


「彼は不器用で、空回りで、時にうるさくて、

おそらく一生そのままですが」


「長所なのか短所なのかわからんな」


「それでも」


私は顔を上げた。


「誠実です」


その言葉に、父はしばらく黙った。


やがて、ゆっくりと頷く。


「ならばよい」


「父上……?」


「私はお前の“相手の爵位”ではなく、

“相手の覚悟”を見る」


机の上に手を組んで、続けた。


「昨夜、あの男から挨拶の手紙が届いた」


「……え?」


「内容は謝罪と決意と謎の熱量で埋め尽くされていた」


(やはり書いたのですね……)


「読み上げは省略するが、

“命を懸けてお嬢様の幸福を守る次第であります!!”

のあたりで使用人が怯えた」


「……当然ですわ」


「だがな」


父は少し笑う。


「本気だということは、嫌でも伝わった」


そして私をまっすぐ見た。


「クラリス、私はお前に“幸せになれ”とは言わない」


「……」


「“自分で幸せを掴め”と教えてきた」


その言葉は、ずっと以前から聞いていた気がする。


「その選択が彼ならば、私は伯爵としてではなく、父として認める」


「父上……」


「家としての判断は、王家との調整を見てからになる」


「はい」


「だが娘としての判断は、すでに尊重したいと思っている」


私は小さく頷いた。


「……ありがとうございます」


「礼を言われる筋合いではない」


少しだけ、柔らかい視線。


「ただの父親の意地だ」


――――


夕暮れ、庭。


レオンがどこか落ち着かない様子で待っていた。


「クラリス様……大丈夫でしたか」


「ええ」


「ご無事ですか」


「生存しています」


「よかったです!!」


(面会というより救出確認ですわね)


私は一歩近づいた。


「父があなたの手紙を読んだそうですわ」


「……!!」


顔が一気に青くなる。


「あ、あの内容を……!?」


「ええ。命を懸けるあたりを」


「人生最大の黒歴史です!!」


「まだ記録されていませんから安心なさい」


私は少しだけ、いたずらっぽく笑う。


「ですが父は言っていました」


「はい」


「あなたの覚悟は、本物だと」


「……それは」


ぐっと拳を握る。


「認められたということでしょうか」


「伯爵家としては“保留”、

父としては“合格”だそうです」


「……合格ですか」


その言葉が、胸に落ちたのだろう。


「では私は……」


「はい」


「さらに努力します!!」


「なぜ毎回“さらに”なのですか」


(基準がインフレしています)


それでも、その顔は心から嬉しそうだった。


私はふっと息を吐く。


(……守られているのですね)


父にも。

そして、この不器用な男にも。


「レオン様」


「はい」


「今夜は、少しだけ安心できそうですわ」


「それは光栄です」


「……隣に、いてくれますか」


「いつでも、どこでも」


「具体性が高すぎます」


(ですが、それがこの人らしい)


こうして私は知った。


“家に背く恋”ではなく

“家に見守られる恋”があるということを。



次は

▶ 第23話「レオンの覚悟」

身分差と未来に真正面から向き合う、男爵三男の“決意表明回”です。

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