第21話 王家からの圧力
第21話 王家からの圧力
その呼び出しは、あまりにも静かだった。
「クラリス・フォン・アルヴェーン伯爵令嬢――
王城へお越しいただきたい」
王室紋章入りの封書が机に置かれた瞬間、部屋の空気が変わった。
(……やはり、来ましたわね)
私は深く息を吸い、封蝋を静かに開いた。
そこに書かれていたのは、
穏やかな文面を装った、はっきりとした命令。
“身分不相応な交際関係の是正について”
「……」
横で覗き込んだレオンが、顔をこわばらせた。
「王家、ですね」
「ええ」
「つまりこれは」
「圧力ですわ」
あまりにも明白な言葉だった。
「クラリス様……」
「心配はいりません」
私は静かに言った。
「逃げるつもりはありません」
「ですが」
レオンは少しだけ唇を結ぶ。
「これは僕の身分が原因です」
「あなたのせいではありません」
「しかし事実として、王家から見れば不都合でしょう」
「不都合だからといって、私の人生を決める権利は王家にはありません」
はっきりと、そう言った。
自分でも驚くほど、迷いのない声だった。
――――
王城、会議の間。
そこにいたのは、形式上の和やかな微笑を浮かべた王家側の使者と、
数名の上級貴族。
「クラリス殿、近頃の評判は耳にしております」
「それは光栄ですわ」
「しかしながら……」
言葉の圧が変わる。
「男爵家三男との関係は、公の場において問題視され始めております」
「問題とは?」
「身分の釣り合い、将来的な影響、王家の威信――」
私は静かに聞いていた。
だが、その隣で。
「失礼いたします」
凛とした声が響いた。
レオンだった。
「発言の許可をいただけますでしょうか」
空気が一瞬、張りつめる。
「……よかろう」
「ありがとうございます」
彼は一歩前に出た。
「私は男爵家三男、レオン・バルディエと申します」
「承知している」
「ですが一つ訂正させてください」
少しだけ、声が強くなる。
「私は“身分”ではなく“意思”でここに立っています」
場の空気が変わる。
「クラリス様は、私の上司でも、所有物でも、飾りでもありません」
「……ほう」
「彼女は、自分の人生を選べる方です」
王家側の視線が鋭くなる。
だが、レオンは目を逸らさなかった。
「私はその隣に立つことを望みました」
「そして彼女は、それを受け入れると選んだのです」
「……だが現実には――」
「承知しております」
そこで、彼は深く頭を下げた。
「身分差、立場、将来性。
すべて理解した上で――それでも、私は彼女を選びました」
ざわり、と声が上がる。
「では問う」
王家の使者が告げる。
「もし選択を迫られた場合、お前はどうする」
レオンは一瞬も迷わなかった。
「私は、彼女の意思を尊重します」
「身を引けと言われても?」
「それがクラリス様の望みなら受け入れます」
その言葉が静かに落ちたとき、
私は自然と口を開いていた。
「いいえ」
全員の視線が私に集まる。
「彼が身を引くことなど、私は望みません」
空気が止まった。
「私はこの方を選びました」
その視線を、まっすぐ王家側へ向ける。
「そして選ばれた側が、それを受け入れているのです」
「クラリス殿……」
「それが身分にそぐわないというのなら」
私は一歩踏み出した。
「では私は、その“そぐわなさ”ごと引き受けます」
沈黙。
だが、その沈黙は否定ではなかった。
「……少し、時間が必要だな」
王家の使者が低く呟く。
「この件、正式な結論は追って伝える」
そう告げられ、会議は終了した。
――――
王城の回廊。
私は、ふっと息を吐いた。
「……思っていたよりも、緊張しましたわ」
「私は寿命を三年分消費しました」
「大袈裟です」
「本気です」
だがその顔は、どこか晴れやかだった。
「クラリス様」
「何ですの」
「先ほどの言葉……本当に、よろしいのですか」
「何を迷っているのですか」
私は小さく眉を上げる。
「私は、あなたを選んだのです」
「……」
「それが王家の意向と違っていても」
「……それでもですか」
私は微笑んだ。
「それでもです」
レオンは静かに視線を落とし、
それから顔を上げた。
「……では私は」
「はい」
「一生かけて、その選択を誇れるものにいたします」
「まだ“婚約”ではありません」
「準備運動です」
(なぜそこは前向き)
それでも。
その言葉は、確かに重みがあった。
私は空を見上げた。
王家の影は、確かに大きい。
けれど私はもう、恐れていない。
その隣には
不器用で、真っ直ぐで、
けれど確かに信頼できる“味方”がいるのだから。
⸻
次は
▶ 第22話「伯爵家の真意」
父との対話で明かされる、本当の想いと“娘としての立場”。
了解しました。
ここでは特別に――
**エリザベートさんによる「感想&番宣コメント」**をお届けします。
ラノベ調・ややテンション高め・読者向けごきげんよう、皆さま。
高貴にして優雅、されど不憫枠担当――
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツですわ!!
さてさて、
『婚約破棄された伯爵令嬢は、男爵家三男の全力愛に困っています』
第2部までお読みいただき、誠にありがとうございますわ!
まず一言、言わせていただきますと――
レオン、重い。だがそれがいい。
いえ本当に。
ここまで真っ直ぐで、ここまで空回りして、
ここまで全力で「好き」を投げつけてくる男、そうそうおりませんわよ?
そしてクラリス様。
あの気品と冷静さで
「逃げられませんわ」
なんて言われた日にはもう、読者様の心拍数も限界突破ですわね!
ええ、わかっておりますとも。
✔ 不器用なのに誠実
✔ うるさいのに愛おしい
✔ 騒がしいのに尊い
このバランス、完全に“恋愛ラノベ黄金比”ですわ!!
⸻
ここから第3部 ― 覚悟のラブゾーン突入!
この先は……
・王家の圧力
・身分差の壁
・正式婚約への道
・レオンの覚悟と溺愛進化
・そしてクラリス様の「決断」
はい、つまり。
甘さだけでは終わりません。尊さが加速します。
恋はもう始まっております。
ですが――
愛になる瞬間は、これからです。
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✨ エリザベートからのささやかなお願い ✨
もしこの物語を読んで
「ふふっ」「にやっ」「これは続きが気になる」
そう思っていただけましたら……
ぜひとも
✨ブックマーク✨
✨お★付け✨
✨感想✨
お恵みいただけますと、
作者様が舞い踊り、レオンは宇宙へ飛び、
そしてクラリス様は静かにため息をつくことでしょう。
私?
私はいつも通り、別作品で誤解され続けますわ!!
⸻
それでは皆さま、
第3部もどうぞお楽しみに。
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「溺愛とは、ここからが本番ですわよ?」
――エリザベート・フォン・ローゼンクロイツ




