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『婚約破棄された伯爵令嬢は、男爵家三男の全力愛に困っています』  作者: ゆう
バグった求婚と距離感迷子編

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第14話 「好きです」と言いたいのに言えない

第14話 「好きです」と言いたいのに言えない


その日は、朝から様子がおかしかった。


「……レオン様」


「はいっ」


「なぜそんなに決意に満ちたお顔をしているのですか」


「え、ええと……その……今日は、人生の転換点になるかもしれない日です」


嫌な予感しかしなかった。


現在私は、伯爵邸の庭園を散策中。

そして背後には、いつにも増して緊張した男爵家三男が控えている。


歩き方がぎこちない。

視線が泳いでいる。

呼吸が明らかに乱れている。


(これは……何か言おうとしていますわね)


「レオン様」


「は、はい!」


「ご用件があるなら、先におっしゃってくださいな」


「い、いえ! まだ言えません!!」


「宣言しなくても結構です」


(言えないのに言うと宣言するのは何なのですか)


彼は深く深呼吸し、拳を握り――


数歩前へ出た。


「ク、クラリス様」


「はい」


「僕は……」


真剣な眼差し。


「あなたに……」


間。


「……とても……」


さらに間。


「……………」


沈黙。


「………………」


何も言わない。


「……?」


私は首を傾げた。


「続きは?」


「……今、言おうとしました」


「現在進行形で消失しています」


レオンは顔を覆った。


「脳内では完璧だったのです……!」


「声に出す前に散りましたか」


「途中で“拒絶された場合の未来”を想像してしまい……」


「まだ何も言われておりません」


(なぜ失敗前提なのですか)


「すみません……もう一度……」


再チャレンジ開始。


「クラリス様」


「どうぞ」


「あなたの……」


「はい」


「あなたは……」


「はい?」


「……今日も非常にお美しく……」


「遠回りしすぎです」


「違うのです!! 本題はそこではなく……!!」


「では早めに本題へお願いします」


顔が真っ赤になるレオン。


「僕は……ええと……その……つまり……」


指をわたわたさせながら、


「好……」


「好?」


「好……感……度……が……」


「何の調査をしているのですか」


「ち、違います!!

そうではなくて……感情的な意味で……!!」


(話が後退しています)


その時。


「クラリス様、ご機嫌よう」


来客。


よりによって、ゼノ侯爵令息であった。


「……これは失礼しました、お二人の会話の最中でしたね」


レオンが固まる。


(あ、完全に言いそびれましたね)


「いえ、構いませんわ」


私はにこやかに応じる。


だが隣では、絶望した顔のレオンが崩れ落ちそうになっていた。


「……………」


口をわなわなさせている。


「レオン殿、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です……ただ今、人生最大級の覚悟を失いました」


「告白失敗の顔ですね」


(直球すぎますわ)


私の内心は冷静だったが、心の奥では別の声が囁いていた。


(……言おうとしていたのですね)


しかも、かなり本気で。


「クラリス様、次の舞踏会のお話なのですが……」


ゼノ侯爵令息が説明を始める。


しかし。


レオンの視線が、異様に鋭い。


「説明の距離が近いです」


「普通です」


「危険範囲に侵入しています」


「いや、社交距離だけど?」


「心的圧迫ゾーンです」


「基準が意味不明です」


私はそっと口を開いた。


「レオン様」


「はい」


「さきほどのお話、続きをなさい」


「……!」


レオンがはっと顔を上げる。


「よ、よろしいのですか…?」


「ええ」


ゼノ侯爵令息が一歩下がった。


「では私はこれで……続きをどうぞ」


(察しが良くて助かります)


再び、ふたりきり。


「……クラリス様」


「はい」


「今度こそ、逃げません」


「期待しております」


彼はゆっくりと息を吸い――


「僕は……あなたが、好きです」


直球だった。


だがその直後。


「す、好きです!!

好きなのです!!

好意です!!

尊敬も含みます!!

尊敬と好意の融合体です!!」


(説明過多)


「レオン様」


「はいっ」


「一回で十分です」


「……すみません」


だが、その言葉は確かに響いた。


「私は今、冷静ではないかもしれませんが」


静かに、続ける。


「それでも、本気です」


胸が、少しだけ熱くなる。


「……そうですか」


私はすぐに返事をしなかった。


少しだけ間を置く。


そして、ゆっくりと言った。


「あなたの“好き”は、とても騒がしくて不器用で、少し重たいですわね」


「はい……」


「ですが」


顔を上げ、彼を見つめる。


「嘘ではないと、わかります」


レオンの顔が、少しだけ安堵に緩んだ。


「ですから、その気持ちは……逃げずに受け取ります」


「……!!」


「ですが答えは、もう少しお待ちくださいな」


「はい!!

何年でも待ちます!!」


「そこは常識的な範囲で」


(なぜ極端なの)


風が、静かに花を揺らす。


その中で私は思った。


言葉にしてしまった瞬間、

もう後戻りは出来ないのだと。


それでも。


この不器用すぎる告白は、

決して悪いものではなかった。


むしろ――


少し、心が嬉しそうにしているのがわかる。


(……困った方)


そして私はそのまま、ふっと息を吐いた。


「ではレオン様」


「はい」


「今日は“告白成功未遂記念日”ということで」


「成功ですか!? 失敗ですか!?」


「保留という名の生還です」


「生きて帰れました!!」


(戦場ではありません)


それでも、二人の距離は、確実に縮んでいた。

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