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【ハイファンタジー 西洋・中世】

悪魔と契約した女

作者: 小雨川蛙

 

 救い難き悪女が地獄へ落ちた。

 彼女は生前、悪魔と契約をして様々な悪行を成したのだ。

 当時を生きた人々は一人残らず彼女の悪口を口にして、彼女が死んだことを皆で喜びさえした。

 そんな彼女の末路は正義を謳う騎士団に囚われた後の火刑。

 彼女に相応しい死に様だったと言えるだろう。

 しかし、彼女は悲鳴をあげることなく気高さと誇りを纏ったままに灰となった。

 その表情に多くの人は疑問を持ったが、最早死に至った彼女の真意を知ることなど出来はしなかった。


 自身と契約を果たした悪魔に導かれて地獄へ落ちた悪女はその入口で立ち止まる。

「約束を果たしなさい」

 その言葉に悪魔は立ち止まって言った。

「あぁ、それが約束だったからな」

 悪魔は不可思議な呪文を唱えて一つの窓を造り出す。

 それは、悪女が死して数百年後の世界を見ることが出来る窓だった。

「何が正しいか、何が間違っているのか、流石にもう分かったでしょう?」

 自らが発した芝居がかった声に悪女は酔っていた。

 そう。

 実は悪女が成してきたことには全て意味があったのだ。

 誰かがしなければならないこと。

 しかし、それは人道に反すること。

 だからこそ、誰もがせずにいたことを彼女は成してきた。

 後の世にその真意が理解される……たったそれだけのことを糧にして。

 そうして窓を覗き込んだ悪女は大きな声で叫んだ。

「はあ!? 史上屈指の悪女!? 人間の皮を被った悪魔!? 一体どういうこと!?」

 呆然とする悪女の肩を叩いて悪魔は言った。

「何を驚いている。正当な評価をされているだけだろう」

「いやいやいや! 正当な評価をすると言うなら私の凶行の背後にあったのっぴきならない事情に気づきなさいよ!」

「そんなこと俺に言われても……」

 大声で汚い言葉を喚き散らしながら悪女は言った。

「こんなことならあんな馬鹿で愚かでどうしようもない民なんて救わなければ良かった……」

「お前が救った民は『事実上救われた』民だ。愚民共は気づくはずもないし、歴史家達は気づいたとしてもわざわざそれを記したりはしない」

「ふっざけるな……私が悪女にならなければもっと多くの人々が死んだんだよ!?」

 悪魔は心からの同情を持って彼女の肩を何度か叩く。

 その悪魔の手を取って悪女は言った。

「お願いだから私を今すぐ蘇らせて! あの馬鹿共にそれを伝えてくる! それが無理なら私が滅ぼしてやる!」

 実に見苦しく騒ぐ様に悪魔は笑った。

「お前のそういう見苦しい姿が私は大好きだ。さて、諦めて地獄へ行こう」

 その言葉に悪女は大きく舌打ちをする。

 腹立たしくて仕方ないとはいえ、この状況は受け入れるしかないと悟ったのだ。

「どちらにせよお前は地獄行きなのは揺るがない。だから、安心して新しい棲家で暮らそうじゃないか」

 悪魔の声を聞いて悪女はうんざりしたままに頷く他なかった。



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― 新着の感想 ―
 悪魔に頼らずとも、そうした行為に動いた者がこの世にも居るのだろう事を思うと、やり切れない気持ちも理解出来、小雨川蛙様らしい皮肉が込められているなと思い余韻に浸りました。
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