表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

第5話 BBQのお姫様

高原のバーベキューが出来るキャンプ場に、大人の男と女が楽しそうに料理を食べている。


 調理も既に終わり、もう食材もグリルには残っていない。皿に少々の肉類を残して、ほぼ満腹の二人だ。


 食事の終わったひとときの間に、


「どうしたの? 今日はそんなドレスまがいのワンピースなんて着ちゃって」と男。


 男は英語に長けた理論派の会社員。


「わたしね。子どもの頃から、シンデレラか白雪姫になりたかったの」と女。


 女は童話の世界に憧れた幼い日を夢見るOL。


「子供じみた発想だね」と一蹴する男。


 紙コップのワインを含みながら女は、


「ねえ、シンデレラと白雪姫ならどっちがいい?」と無邪気な質問をする。


 男は少し考えると、


「どちらも嫌だな」と笑う。


「どうして?」と不満そうな女の顔。


「だってシンデレラは継母にいじめられる毎日だし、白雪姫は毒リンゴだろう。お姫様の君にはどっちも似合わないさ」


 男は炭火でたばこに火を付けながら、笑っている。


「でも最後には素敵な王子様のキスが待っているのよ」と角口で彼の胸元にそっと寄り添う。


 備長炭の炭火が消え、グリルの中は灰だらけになった。


 っと、そのとき高原を駆け抜ける突風が二人の元にやってくる。草原の草が波のようになびいて、そのうねりが自分たち方へと向かってくるのが分かった。




 二人はみるみる間に突風の中にさらわれ、バーベキュー場の柱にしがみついているのがやっとだった。


 ほんの数秒のことだが、二人にはとても長く感じた。


 そして我に返り、目を開けると、男は、


「夢が叶ったね」と笑う。


「えっ?」


 唐突な彼の台詞の意味をつかめない彼女。


「君はシンデレラのほうさ」と彼は加える。


「私は白雪姫じゃなくて、シンデレラなのね」


 珍しく答えを出してくれた彼に、少しだけ気分のよい彼女だ。


「何でそう思ったの?」と彼女。


 彼は優しく手鏡を渡すと、


「見てごらん。顔中グリルの灰だらけだよ。まるでシンデレラ(灰かぶり姫)だからさ」と涼しい顔で笑った。


                          了

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ