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第1話 エターナル・ブレックファースト

 朝、目覚めたケメコはベッドに恋人のカンタがいないことを悟る。




「しまった」




 彼女は昨晩、朝食を作るとカンタに約束したのだった。だがまた前と似たような光景が彼女の前には広がっている。デジャビューなのだろうか。




 同棲を始めて一ヶ月、料理らしい料理もできず、カンタに任せっきりの朝食だった。てっきり今朝は自分が料理をできると確信していたはずだった。




 セットした目覚ましは、何者かによって元の位置に戻されてある。確かにセットしたはずである。




 ばつの悪さに、ケメコはそっとダイニングキッチンのテーブルの上を覗いてみる。カンタに見つからないように。




 すでに食卓にはスクランブルエッグとフレンチトースト、サウザン・アイランドのドレッシング付きのサラダ。オレンジの添えられたチョコレートムースが並んでいる。やはり昨日と同じメニューである。




 カンタは自分の分は済ませたようで、すでに食器がシンクで水につけてある。そしてそのまま出かけたのだ。これも昨日の朝と同じだ。


 彼がいないことを悟ったケメコは、のびをしながら食卓に座った。




「こんな材料は冷蔵庫にないはずなのに、いつもどうやって料理しているのかしら?」




 台詞めいた言葉を彼女は発する。この言葉、昨日も口にした気がする。


 ケメコはこのところ不思議に思うことが多い。薄い記憶とこの朝食の一件が気になっていた。実際、この料理の中で冷蔵庫にある材料は、トースト用の食パンと卵くらいだ。ドレッシングも、オレンジも、チョコレートムースもないのだ。




 毎日それが気になって、結局彼女はその食事に手をつけない。そしてまた翌朝、この同じメニューが食卓に並んでいるのだ。いったいどうなっているのだろう。





 そのケメコの様子を窓の外から見ている家族がいた。さっきからずっと彼女の演じるそのシーンばかりが、気になっていらいらしているのだ。




「お父さん、このDVDのディスクって、レーザー飛びしてるみたいで、あの女優さんの朝食シーンが延々と繰り返されているんだけど、今度盤のクリーニングしておいてくれる」


「そうだな。盤の表面に傷でもついていなければいいけど。今度見ておくよ」


「ありがとう。この女優さんの映画、気に入っているから、駄目にしたくないんだ。今日は仕方ないから別の見ようか?」


「そうだな。今日はSF映画なんかどうだ」





 休日の郊外住宅の一家団欒での映画鑑賞は、あっけなくケメコの日常にピリオドを打った。


                           了

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