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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

同棲中の彼氏の浮気相手がまさかの男だった件

作者: 伊勢


カランカラン、というベルの音ともにやって来たのは黒いジャケットを着こなした一人の男。

珈琲の香りが漂う落ち着いた雰囲気の喫茶店の奥で、来店したばかりの男に手を振る人物がいた。


「あ、こっちこっち」


「おぅ、久しぶりだな」


「あなたと別れてからだから…5年くらい?」


「もうそんなに経つか、長いなー」


目の前の女はかつて付き合いのあった女性であった。


別れてから特にこれといって連絡のやり取りはなかったが、先日彼女から急に会って話ができないかとメールが来たのだ。当然、復縁の連絡では無い。

両方とも既に付き合っている人もいるし、かつては確かに親しかったと言えどお互いに既にその様な感情はなく。

言うなれば昔の友人、と言ったところである。

とはいえ、かつての元カノに呼び出されたからとヒョイヒョイ会いに行くのは今現在進行形で付き合っている相手に対して不義理ではないかと男は悩んだ。

今では生活圏も違うというのに、態々こちらに来たからと呼び出して深く話し合うこともこれと言ってないはずなのだ。

ましてやこの5年間でこれといったやり取りもなかった。


だからこそ、男は初め断ったのだが…


どうしても聞いて欲しい話があるのだ。

こんな話、かつて付き合っていたこともあり気心がしれている貴方にしか話せないのだと…


切羽詰まったように話されてしまっては、基本的に人の良い男には突き放すことが出来なかった。

勿論、今付き合っている相手には正直に話し承諾も貰っている。何なら後でこの店にも来るという。

女にはその旨も伝え互いに承諾を得た上での再会だった。


「そうね、本当に久しぶりね…」


「あぁ。それで?急に呼び出してどうしたんだよ」


「その、ね…ちょっと相談というか…いや、ある意味愚痴というか…私には衝撃的すぎてどうすれば良いのか分からないというか…」


「なんだよ?ハッキリしないなぁ」


「親には相談できないし、女友達にもちょっと…兎に角!あなたほど気心がしれてる相手にしか話せないことなのよ…!いいから私の愚痴を聞いてちょうだいよっ!」


「いや、別にいいけど…そんな事のために、こんなとこまで来たのか?お前今どこ住みだっけ、結構遠いだろうに…」


「いいの。失恋旅行みたいなもだから…」


「ん?なに失恋話なの?」


「そうね…有り体に言えば失恋、かしら」


女は酷く暗く淀んだ目で遠いところを見ていた。

どうも、随分とショックなことが起きたらしい。


「…まぁ、なんか随分思い詰めてる感じはわかったよ。つっても、俺も話聞くくらいしかしてやれないけど?」


「いいのっ!こんな話、聞いてくれるだけですごい救われるから!主に私の心が!!」


「まぁ、それなら…あぁ、メールでも言ったけど後で俺の恋人が来るけどいいか?」


「えぇ、元カノが態々会いに来るとかそりゃ不安になる案件だもの。あなた達の中をこじれさせたい訳じゃないから是非。あ、これ…先に渡しておくわね。今日のお詫びよ」


「ん?別にいいのに…うわっ!これめっちゃ高いやつじゃん!えぇ、こんなものいいのかよ…」


「いいの!大人しく受け取ってちょうだい!」


「そう言うなら…ありがとな」


「こちらこそありがとう」


「それで?そろそろ話してくれるか?」


「えぇ…」


そうして、女は語り出した。

己に起こった不幸を…




あなたと別れてから、1年くらいしてから私にも新しい恋人ができたの。彼は私より年上だけど、男の人にしては背が低めで可愛くてすごく優しい人で…

なんて言うかウサギみたいな人だったのよ。

彼との中も順調で、暫くして同棲を始めたの。

とは言っても、私は仕事柄家を空けることが多くて家事全般は彼がしてくれたのだけど…それでも休みの日とかは、ちゃんと私もやっていたし。仕事で忙しい私を気遣ってくれる彼は本当に優しくていい人だったの。

同棲自体は結構上手くいってたと思うのよ?

それで、同棲をはじめてから3年ほど経って、彼とならって私自身結婚も視野に入れ始めてたのよ。

彼となら穏やかで平和な結婚生活も夢じゃないかもって!正直、歳も歳だったからね。

だからその分仕事にも熱が入ったし、やり甲斐も持てたの。でも…彼からそんな言葉言ってくれる雰囲気はなくて…

そしたらこの前、彼から態々外で会おうって呼び出されたのよ。同じ家に暮らしてるのによ?これは待ちに待ったプロポーズかもっ!って凄い私自身浮かれちゃって。

だって呼び出さらた場所もホテルのレストランよ?

そりゃ、期待するじゃない。だから新しいドレスも買って、気合い入れて化粧もしていったら…なんて言われたと思う?

『僕達、別れよう』ですって!!

しかも、『好きな人が出来たから!』って!!

はぁ??!!寝耳に水なんですけどっ?!!



ガチャンっ!と女は飲んでいたコーヒーのカップを乱暴に机に置いた。幸いカップは割れなかったが随分とご立腹だ。


「お、おぅ…落ち着けよ」


「ただの別れ話にホテルのレストランなんか予約するんじゃないわよ!!勘違いするなって方が無理でしょ?!!」


「それはそうだな」


「でも、そこまではいいのよ!好きな人が他にいるって言うなら仕方ないわよ!別れてやるわよ!!その後よ!」


「その後…?」



『え…ど、好きな人?!』


吃驚してつい大きな声を上げちゃったけど、仕方ないわよね。本当に急だったのだもの。しかも場所も場所よ!

でも確かに…最近、彼との会話も少なくなってそーゆー営み的なのも無くなってたなって気付いたのよね。


『うん…3年も同棲してて今更だけど、本当にごめんね』


『ごめんねって…』


人だからね、気持ちが移ろうのは仕方がないけど。

でも3年よ?3年も同棲してたのに、急すぎない??

せめてもっと早い段階で言ってくれればいいのに!って!

もう、悲しいやら悔しいやら色んな気持ちがぐちゃぐちゃになっちゃって…

彼が優しいのは分かってたけど、これは優しさとかじゃないでしょ?ただの優柔不断よ!!気まづくて言い出せなかったとか、私の仕事が忙しかったからとかそんなの言い訳でしょ?!というか、これ浮気じゃない?!


『つまり、何?浮気してたってこと?』


『…その、浮気っていうか…』


『その愛しの何ちゃんの事はいつから好きなのよ?もう付き合ってるの??』


『えっと…に、2年前から…その、気になってて』


『はぁ?!2年?!』


『つ、付き合ったのは1年前からで…』


『完璧な浮気じゃないっ!!要は二股してたってことでしょ?!さいってい!!!それで?選んだ結果、私を捨てると!へぇ、本当にいいご身分な事ね?』


『…』


『そもそも、相手の子はあなたが同棲中の彼女がいることは知ってたわけ??』


『いや…』


『はぁ?相手にも隠してたわけ??知ってて付き合うのもあれだけど、2人も騙してたって事よね?うわぁ、無いわ。相手の子も可哀想すぎるんだけど』


『…』


『別に、別れるのはいいわよ。好きでも無いやつと長々と同棲生活続けさせちゃって悪かったわねっ!!それにしてもこんな場所に呼び出して別れ話とか、私をそんなに惨めな奴にでもしたかったわけ??あなたは優しい人なんだと思ってたけど、とんだ間違いだったわけね!このクズっ!』


『…ごめん』


『もういいわよ。早めに部屋の荷物もって出てってよね。それとも何、私が出てった方がいいの?というか、私がいない間にその子部屋に連れてきたりしてた?』


『…』


『はぁぁあぁ…いいわ、私が出てく。あんたが呼んだんだからここの支払いはしてよね。私帰って荷造りするから』


『あ!まって、』


そう言って、荷物を持って店を出ようと立ち上がったの。別れ話を切り出しといて、ろくな言い訳もしない彼にウンザリしたのもあったわ。まぁ、そもそも別に聞きたくもないけど!


今思えば、妙に彼自身ずっと下を向いて変にソワソワしてたのよねぇ…。

まさか、あんなことが起きるとは思わなかったわ。



「…で、一方的に文句を言い散らしたと。まぁ、言ってることは全部正論だし、裏切られた側としては十分じゃないか。それでスッキリするかって言われると無理だろうけど」


「そりゃそうよ!スッキリも何もする訳ないじゃないっ!もーー!もーー!!!って感じよ!!」


「いきなり牛になるなよ」


「うるさいっ!」


「あー、すまん。それで?」


「そしたら…!」




『そう、彼のことを怒らないでくれませんか?』


高そうなスーツに身を包んだ、これまた上品な見た目の男が急に現れたのよ。




「…男?」


「そう!お・と・こ!!」




明らか俺金持ってます系のその男は、無駄に綺麗な所作で頭を下げて来たのよ。

ある意味凄くキザったらしい仕草だったわ。


『えっと、何方でしょう…?』


一応は丁寧な言葉で聞いたけど、もー明らかに怪しいじゃない?しかもその男が来た途端に、あいつずっと俯いてたくせに急に顔上げて嬉しそうな顔したのよ。

嫌な予感しかしなかったわ!


『あ、そのね…!』


『突然失礼いたしました。現在、彼とお付き合いさせて頂いている者です』


そしたら案の定!そんなセリフが出てきたのよ!!

無駄に綺麗な顔でニッコリ微笑んで言う言葉かっての!正直、まさか浮気相手が男だとは思わなくて…

宇宙猫顔になってた自覚はあるわ。

その時はあまりにも急な事過ぎて、とにかく頭が回らなかったのよね…


『…はぁ?』


『ご、ごめんね!!ぼ、僕が優柔不断なせいで2人に凄く不快な思いさせちゃって…君とは3年も同棲してたのに。でも、僕…か、彼のことを愛してるんだっ!!』


『え、うん』


いやもう、「うん」としか言えないわ。

そんな急に「愛してるんだー!」とか叫ばれてもさ。え?貴方そんな自分に酔っちゃう系のアレな人だっけ??

あれれ?私こんなのと付き合ってたの??


『私自身、彼に同棲中の彼女がいる事を知った時はこの想いを捨てて彼から身を引くべきだと苦悩したのです。

けれど、どうしても彼へのこの想いを捨てることが出来ず…』


『ぼ、僕が悪いんだ。全部、だから、』


『いいえ、私が悪いのですよ…でも、貴方は私を選んでくれた。本当に、嬉しかったのです…ですが、私自身この事を確り伝えるべきだと思ったのです。愛おしい人が同じという点では彼女と私は同じなのですから…貴女に私から言うべきではないとは重々承知です。ですが、彼のことは私が一生をかけて愛し幸せにすると誓います!ですから、どうか彼の気持ちを尊重してあげて欲しいのです』


いや、そんなこと言われても…うわぁ、何この2人。

すっかり自分たちの世界構築してやがる。

え?え?やだー、気持ち悪い…


『僕は、その…いつも一生懸命な君の事が好きな気持ちは変わらないんだ。でも、それ以上に彼の事を愛してしまった…

だから、本当にごめんなさい』


って、いかにも真摯に頭下げてる俺可哀想でしょ?

こんな俺の事、責められないでしょ??って魂胆丸見えな感じで頭下げてくるのよ。

だってこの男、頭下げる瞬間笑ったのよ?は?

隣にたってる男も、真摯な顔して目が明らかに嘲笑ってんのよ。はぁ???


あー、嫌になる。この男、本当にクズだわ…。

この上、一応まだ私のことも好きなんだ!でもそれ以上に彼を愛してるーなんて…

でも結局お前は用無しだからさっさと別れて消えてくれよって事よねぇ。


あー、なにこれ?本当にただの茶番じゃないの。

つかお前ら、演じるならちゃんと演じきれよ。


こっちをバカにする雰囲気がバレバレだっつーの!



「…うん。何その茶番劇」


「良かった、共感してくれると思ったよ!そうだよね!本当にね!どこの『乙女ゲームの世界に転生、婚約破棄からの溺愛系』恋愛小説だよって感じだよね!!」


「嫌に具体的だな。でも正しくそれだな」


「本当だよ!私いつの間に異世界に来たのかと思ったよ!」


「あはは…」



で、その糞な男どもの態度に宇宙猫になってた私も流石に戻ってきたわよ。ええ、綺麗な宇宙から汚らしい現世にね!!


『…あのねぇ』


『『はいっ』』


何?その無駄に期待を込めた声は?あ?

そのさぁ、仲良く声揃えて返事するその瞳がさぁ、

その無駄にワクワクときたに胸膨らませるその態度がさぁ。


『さっきも言ったけど、別れるのは別にいいよ。

他に好きな人が出来たってのなら仕方がないわよ、どうぞお幸せに』


『あ、あり』


何喜んでる訳?

運命の恋人だの、愛だの語るヒロイン目線かっての

そーゆーのは物語中だけでいいんだよ。


『でもさぁ…それって要は浮気を正当化してるだけよね。そもそも、ただ別れ話するだけならこんな所に呼び出す必要も無いわけだし、そこのアンタが出張ってくる必要も無いのよ。態々こんな公衆の面前で自分に酔った様な気持ち悪い演技をするってことはさ、要はー、とことん私を貶めたいってことよね?ん?』


その見え見えの魂胆がさぁ。

その、舐め腐った目がよォ…


『そ、そんなつもり』


『じゃなきゃ、こんな茶番劇する必要ないもの。

そもそも、根は優しくて大人しくてウサギみたいな性格だった奴が確かに昔から優柔不断な所があったけど、浮気を許容なんてできたはずないんだよ。

挙句、こんな無駄にこった演出考えつくわけないのよね。そこはまぁ、3年も同棲してきたんだから私でもわかるわ。ということは、そこのキザったらしい男の入れ知恵って事よね…正直言っていい?』


『は?え』

『な、』


『あんたら2人ともキモイんだよっ!!』


ウザってぇんだよなぁ…!!




「切れたか」


「そりゃ、キレるわよ」



『そもそも、同棲って言っても家賃も水道光熱費も生活費全般全部払ってんの私なのよね。一応、アンタも仕事はしてるみたいだけど優柔不断な性格が祟ってかフラフラフラフラしてさ。それでも家の事を完璧にやってます、とかなら別にいいのよ。今の時代は主夫も多いし。やれる事やってくれればそれで十分だったのよ。でも最近はさ、家の掃除も洗濯もしないよね?家空けることが多い私が文句言えたギリじゃないから言わなかったけど、養ってもらってる身で浮気ぃ??昔はあんなに可愛かったのに、とんだクズに成り下がったもんだね。

マジで意味わかんない。そんな男こっちから捨ててやるわよ』


『え、な』


『しかもさっきの言葉。はぁ???未だに私のことは好き、でもそれ以上に彼のことを愛シテルー?結局未だに二股状態。あんたのさ、それは優しいとかそんなんじゃないよ。ただのクズ。なんにも一人で決められない、なんにも独りじゃできない。要は自立ができない。だから、要は寄生先にもっと良い奴を見つけたってだけよね。

好きとか愛してるとかほざくけど、あんたが愛してんのって結局は金じゃないの?ねぇ?』


『ちがっ』


『よくよく考えたらそうよね。あんたお洒落だけは手を抜かないもんね。話し方とか仕草とかもすごく気を使ってたよね。身につけるものはだいたいどこかのブランド品でさ?

そういう所は女としては凄いなって思ってたけど、はぁ…

マジで私見る目なかったわ。さっきの茶番でようやく分かったけど…ごめん、私無駄に自分に酔ってるクズ野郎はマジで無理。

でも良かったね、私なんかよりもお金もっててなんでも許してくれそうな同じナルシストで人を貶めることになーんの罪悪感も持たないクズい彼氏が出来て。いやー、メデタイワー、オメデトー。

結婚式には絶対に呼ばないでね。

じゃ、私帰るから…あぁ、家具とかは全部あんたにあげるけど、私の荷物は後であんたが居ない時に片しに行くから絶対に触らないでね。じゃ』


『え、ちょ』


何だかそのあとやけに引き止める声とか聞こえた気がするけど、まぁ、無視よね。あれ以上あの場にいて私にはなんのメリットも無いもの。



「って、わけよ」


「おぅ…」


「はあぁ…正直言えばさ私にも結婚願望があったからさ、歳も歳だし3年も同棲してたら勝手にそっち思考になってたのよ。だから彼のそーゆー所に気づけなかった私も悪いさ。そもそも仕事仕事で家にいる時間が少なかったのもね、多少は寂しい思いさせちゃったんだろうなって面はあるのよ。多少はね」


「うんうん」


「だからといって浮気を正当化される気もないし、あの部屋に浮気相手を連れてきてたか思うとゾッとするわけでさ」


「そりゃな」


「しかもよ?同棲してたの!3年も!そーゆー事もしてたの!なのに、まさか男に寝盗られると思わないじゃない?!!え、あいつノンケだったよね?!いつ?いつゲイに転身したの?!いや、別にゲイはいいんだけどさ!恋愛に性別は無いけどさ!!いや、でも。いやいや、えぇ?!!」


「おぅ、まぁそこはびっくりだな」


「でしょ?!!もー、そこが、なんか…女として負けた感があるって言うか、くそっ!何が悔しいってそこなのよ!!女としての自尊心が傷つけられたというか、いや別にいいけど!でもなんか、なんかすごい悔しいぃ!!!!」


「…おぅ」


「今はもう、もちろん引越しもして何とかリフレッシュしようと頑張ってんのよ…でもこんな話親にできないし、友達にもそうサラって言える話でもないし…正直まだ私の中で笑い話には出来なくて…でも、誰かには言いたかったのよ。自分の中だけで完結出来そうになったのよ…!!そしたら、アンタくらいしか話せる相手が浮かばなかったのよね…本当、こんな話で呼び出してごめん」


「あー、いや。急に連絡来るし話自体にもビックリはしたけど。まぁ…なんつーか、お疲れ様」


「うん…アリガトウ」


「つってもさ、別に励まされたいとかではないんだろ?励ましてくれって言われても、俺自身口が上手い方でもないから、無理だ!悪いな!」


「いや、そのくらい清々しい方が助かるわ…」


「はははっ!にしても、まさかそんなことになってるとはな…正直すげーウケる!あはは!!」


「客観的に見ればね、たしかに面白いかもね。ははっ、存分に笑ってくれぇい…」


「馬鹿にしてる訳じゃねぇよ?そんなクズどもさっさと笑って忘れちまえ!

お前がクズを捨てて、そのクズをクズが拾ったってだけだろ?クズとクズがくっついたってゴミにしかならねぇよ。んで、そのあと破局しようが破産しようが関係ないんだしよ。

そもそも、もう会うことも無いだろうしな!

悔しいのは仕方がねぇさ、ま。変に悲観してる訳じゃなさそうで安心したよ。はははっ!

ほら、ここさお前の好きなキャラメルアイスのパフェがあるんだぜ?奢ってやるからさ、食え食えー」


「笑いすぎよっ!でも、うん…ありがとう」


燻っていた想いを全部吐き出し、目の前の彼の屈託のない顔を見て漸く人心地着いたらしい女は先程までの空元気のような、けれど果てしない虚無感を捨てて本来の笑みをほんのりと浮かべた。その瞳はまだ少し悲しそうだったが、見ないふりをしてやる。

恋人がいる身で彼女を心から慰めてやることは男にはできなかったからだ。


ただ、今は昔の友人として話を聞いてやるだけ。

まぁ、あとは多少好きなものを奢ってやるくらいしてやるくらいは許されるだろう。


と、そこでカランカランと音が鳴った。

ふとその音につられて視線をやれば、愛おしい人の姿が見えた。男は嬉しそうに手を振り、席を教えていた。

その人物は男を見つけると颯爽とやってくると、当然のように男の隣に座りチラと女の方へと視線をやった。


女は現れたその人物に目を見開き硬直していたが。


「お、こっちこっち」


「あぁ…彼女がそうなのか?」


「おう」


「ふーん…可愛い人じゃないか」


「なんだよ嫉妬か?なんもねぇって、ただ愚痴聞いてただけだよ」


「愚痴ねぇ?態々こんなとこまで来てか?」


「はぁ…お前が心配するようなことはねぇよ。昔の友人が偶々こっちに来たついでに愚痴を聞いてやっただけだって。お前を不安にさせたくないから全部話したし、この場にも呼んだんだって分かってんだろ?」


「…それでも気に食わんだろう」


「たくっ、後で何で言うこと聞いてやるからさ。機嫌治せよなー」


「…なら、いい」


「ははっ、可愛いヤツめ!」


「うるさいっ!」


目の前でイチャコラとし始めた男に、女は開いた口が塞がらなかった。だって、まさか…


「えっ、とー…」


「あぁ、すまん。こいつが俺の今の恋人。な?」


「あぁ、まぁ」


「照れんなよ。こいつ変に嫉妬深くてさー、もーお前と会うって話したらすげー拗ねちゃってよ、可愛いだろー?」


「拗ねてないっ!」


「はははっ!」


「あー、うん…あー、おkおk」


「どした?」


「ごめん…ひとついい?」


「「なんだ?」」


目の前の()()は声を揃えて首を傾げた。


同棲相手だった彼氏の浮気相手も…男。

そして、唯一心許せた元彼な昔の友人の恋人も…


女は頭を抱えて叫んだ。



「お前もかよーーーーーーー!!!!」




女「くそー!お幸せにな!」


男「おー、お前も良い奴見つけろよー」

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