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王子、推し活するよ

 

 ゴリラは無理だと結論付けたところで、はて、逆に婚約者であるキリアネットちゃんとの初夜はどうだろうかと考える。

 キリアネットちゃんはゴリラとは違い人間の女性である。

 人間の女性との初夜か……。


 前世での私はノーマルだった。特別に女性を好きってことはなかった、はずだ。ちょい疑惑としては、応援していた女性アイドルグループがあったくらいで。

 コンサートに行ったり、アイドルグッズ買ったり、コンサート用の応援団扇やグッズをつくったり。

 それぐらい、思春期の女の子なら普通にやることだろう。

 とりあえず、美少女を愛でるのは良いことですな。


 そんな私が、キリアネットちゃんの絵姿を見て、こいつぁ本物だ、この子は産まれながらにして全てが美しいと惚れ込んだのは必然だったのだろうか。

 前世と違い、この世界に整形手術はない。魔法はあるけど、整形魔法やら変身魔法と言ったテクマクマヤコン的なものは見たことも聞いたこともない。

 だからこその天然素材。キリアネットちゃんには、本物の美貌が備わっているのだ。

 ここまで完璧だと人なのか疑うけどね。まーさーに妖精。もはや天使。私の美少女観念に新たな新境地というやつ。もしかして特別。一歩違うところから眺めて尊ぶ感じだよね。


 これは推しだ。推し確定。今世、王子に生まれ変わって6年、私は須らく推しを見つけたのだ。わあ、嬉しいぞう。


 ちなみに前世での推しは、応援していたアイドルグループのセンターよりサイドの歌の上手い小顔美人さんだった。

 十代の頃に熱を上げただけで、推しが結婚したら情熱は冷めたけどね。

 そりゃあアイドルだって人間だもの。結婚だってするよね。うんこだってするよね。私の推し、終了のお知らせ。

 現実を突きつけられ、アイドルに夢を見れなくなり、そこで目が覚めたのだった。


 そして今世で見つけた推し。キリアネットちゃん、マジ美少女。生まれ変わっても美少女を愛でたい癖は変わらないんだね私ったら。

 これが恋なのかは知らないけれど、婚約者になったからにはお近づきになりたいものだ。


 早速、実行。隣国へ行く。

 初の面通しということで。なんやかんや理由をつけての強行軍。


「トリマッカローニの太陽の王子、殿下に、ごあいさつ、もうしあげます。わたくしは、フィスティンバーグ家が一の姫、キリアネット、です」


 おっほお。かんわいいいい。表情が固まったままのぎこちない挨拶だけど、その美貌も相俟ってお人形さんみたぁい。

 挨拶の仕方、一生懸命覚えたんだね。王子と同じ6歳で、ここまで出来るなんてすごい。えらいよ。私の中身はアラサーだけどね。


「丁寧な挨拶をありがとう。フィスティンバーグの姫君キリアネット。私が貴女の婚約者となったヒュミエールだ。早速だけど、一緒に散歩しよう。大人ばかりに囲まれては砕けた話もできないよね」


 さっさと見合い会場からキリアネットちゃんを連れ出した。

 繋いだ手、うほおおお手手やわらかあい。


 隣国の城は森の中に佇む白亜の宮殿だ。庭には湖があり、湖畔を周遊できる遊歩道がある。

 遊歩道をおしゃべりしながら歩き、何かいい感じの石を拾ったり、ピカピカのドングリを拾ったりと、6歳児らしく振る舞う私の蒐集癖を目の当たりにしたキリアネットちゃんは、それまで頑なだった表情を和らげ、天使のような微笑みを見せてくれた。

 ああああマジ天使だなああああ。


 そんな初対面を名残惜しく思いながらも終え、祖国へ戻ってもキリアネットちゃんの美しい(かんばせ)が脳裏から離れない。

 ふう、これが恋煩いってやつだろうか……。


 せめて、その似姿を傍にと願って、人形作りに没頭した。

 最初は、集めたドングリに糸を通した不器用が作ったドングリ人形だったけど、徐々にグレードアップしていく。

 綿を布で包んでのテルテル坊主みたいなもの、そこから手足を生やした猿ぼぼのようなもの、布じゃなくてフェルト製にしようと羊毛を集めて針を刺してみたりもした。

 出来上がったのは前世でよく作った推しぐるみだよ。


「可愛いぬいぐるみですね!」と、ゴリンダが褒めてくれるほどの出来栄え。


「でも、裸なんですね」

「そう言われてみればそうだ。ゴリンダ、服作れる?」

「ええ、裁縫は得意ですウホッ」


 鼻息荒く語尾にもウホが付いたので、本当に得意なのだろう。服作りはゴリンダに任せた。

 後日、キリアネットちゃんに似せたぬいにはドレスを、私に似せたぬいには王子衣装を装着。実際に私も着たことのある王子服の余り布から作ったそうだ。

 裁縫が得意と言うだけあってゴリンダのゴリラ腕は上等で、デザインも凝っていて刺繍も細かい。すごいな。これをあのゴリラ指で縫ったのか……。

 やるなゴリンダ。今後も縫物はゴリンダにお任せだ。


 王子ぬいはキリアネットちゃんに贈った。私だと思って抱き締めてくれたら本望です。何だったら一緒にベッドへ連れ込んでくれても良いんじゃよ。ぐふふ。

 おっと。気持ち悪い含み笑いが漏れてしまった。

 私ってばヲタク気質で、気に入ればとことん突き詰めてしまう猪突猛進型限界オタクなのだ。

 自重せねば。


 そうだ、アクキーつくろう。

 自重とは。


 アクキーとはアクリルキーホルダーの略で、アクリル板に絵をプリントしてカット、穴にチェーンを通してキーホルダーにしたものである。

 この国にアクリル板は……売ってなかった。須らくアクリル板を開発せねばならぬ。推しのために!


 結論、ダンジョンの魔法樹木を倒したらドロップする魔性樹脂。これを加工すればアクリル板になった。

 更に、アクリルを探す過程でダンジョンの沼地に棲息するプロブも研究していたら、プラスチック樹脂ができた。

 そして、なんと、我が国の名物である海に棲息する海スライムからは、塩化ビニールが採れた。

 この世界のモンスターは新素材だらけだったよ。ウホーッ! ウホホイッ! 思わずゴリラ化しちゃったよね。


 ところで、さっきからゴリンダが私に物体転写魔法機のレンズを向けてくる。


「はい殿下、もっと楽にして、カメラを意識しないで、自然体で、いつも通りの引きこもり限界オタク王子でいてくださ~い」


 何やら聞き捨てならぬ台詞が聞こえたが、部屋に閉じこもって推しグッズをつくるオタク活動ばかりしている我が身なので、文句も付けれない。


「いいですねそのポーズ。魔法生物を解体し怪しげな素材を前に悦るマッドな笑顔! その笑顔を締めに飾ってから、王子アルバム美少年期編vol.5を婚約者様に贈りましょう」


 五巻もあるのかよ。少年期があるなら幼年期もあるとみた。これまで、研究やものづくりに集中していたからか、写真を撮られていることに気づかなかったよ。

 キリアネットちゃんにプレゼントしているのか。なら、問題ないな。


 ウホウホゴリラのことは気にせず、今後もヲタ活に励もう。


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