幸運聖女の成り立ち
三人称視点です。
あるところに、〈 善良なる魂 〉があった。
魂は本来なら転生前に前世の記憶を浄化されなければならないが、その魂は善き魂として記憶を保持したまま善の神様に召し上げられた。
善の神様であるゴリラ神が告げる。
「我の信徒が困っておるゴリ。助けてやっておくれゴリ」
〈 善良なる魂 〉は、敬虔な少女に宿った。
彼女は、祖国が戦争で負け王位簒奪されることを憂いていた。偽物の中から正統なる王位継承者を見つけ出し、旗頭となって占領された都市を解放し、戦に貢献し続けた。
勿論、ただの少女に屈強なる兵士たちが着いてくるはずもないが、中身が〈 善良なる魂 〉だからか、魅力が全開だったらしい。
彼女の振る舞いは神の如きカリスマ性を持ち、彼女が喋ればどんな頑迷な人物も絆され、彼女のために最高の戦働きをした。
彼女は勝利の戦乙女と評されるまでになった。
ところが道半ばで裏切られる。彼女の魅了を打ち破って正気に戻った者が、彼女を魔女だと告発したのである。
最期は火炙りの刑となり、その短い生涯を終えた。
少女が息絶えた時、〈 善良なる魂 〉もまた滅びるはずだった。だが、ここでまたゴリラ神の救いの手が入る。
「お疲れゴリ、善良なる魂。お前の奮闘を見込んで、また一人、我の信徒を手伝っておくれゴリ」
次に宿ったのは、10代の貴族女性だった。
彼女は自国の戦争だけでなく、遠方で起こっている紛争にまで心痛める清らかなる心の持ち主であった。
貴族の身分と資金力で、戦場へ物資を支援しているが、それだけでは足りないと考えていた。
〈 善良なる魂 〉が宿ったことで奮起し、自ら戦場へ行くことを決意。傷兵たちを救護する場所をつくった。
彼女は戦場の聖女となり、人々からの賞賛を浴びることとなる。それだけに留まらず、庶民のための無償病院や救貧院の設立、病院を支える医療人の教育費無料の学校まで創設し、財産を投げ打って人々のため献身した。
そうやって身を粉に働いていたら30歳になる前に体を壊し、動けぬ人となってしまう。
そこへ魔の手が忍び寄る。彼女はベッドの上、無惨な死体を晒した。執拗に殴られ砕かれた痣だらけの惨殺遺体だったという。
犯人は、彼女の兄だった。
目減りする実家の財産は数年で破産、貧乏を苦に自殺した両親、己が受け継ぐはずの遺産まで妹が使い倒し、更に借金まで背負って実家に丸投げしてくるので、堪忍袋の緒が切れたらしい。
「善良なる魂、お疲れゴリ。今回も奮闘したようだゴリね。でも、まだまだ救いたい信徒がいるゴリ。手伝っておくれゴリ」
再びの転生要請。これまでの記憶を保持する〈 善良なる魂 〉は、にべもなく頷く。
人のために働くことは素晴らしい。人の役に立つことは良い事だ。そう信じ切っていた。
そうして派遣された先は聖母、女義賊、女領主、女性記者、女性運動家と、どの人物を手伝っても善良な魂の所為で魅了は最高値、波瀾万丈な人生の末、非業の死を遂げる運命であった。
ここまで悲運続きだと、さすがに悪いと思ったらしいゴリラ神。
次のお手伝いは、平和を謳歌し経済発展著しい先進国の普通女子を選んだ。普通女子なら宿命など背負っていないので、人生を楽しめるだろうとの配慮だ。
「この少女から最近、神様ありがとー!な強い祈念が届いた故、この子はもう我が信徒ゴリ。彼女からはまた、神様たすけてー!ヘルプが入ったゴリ。助けておやりゴリ」
普通女子は恋愛小説の愛読者だった。
イケメン保養にと乙女ゲームも嗜んでいた。
好きなエンドは逆ハールート。複数の顔が良い男性にチヤホヤされるのが至高と宣い、逆ハー可能な乙ゲーが発売されれば神様ありがとー!とはしゃぎ、その難易度が高く攻略できない時には神様助けてー!と叫ぶのが癖の、乙女女子だ。
現在17歳である普通女子は、成人したら『幸運聖女の性なる洗脳遊戯』という18禁恋愛小説を読むことを夢見ていた。
小説の内容は、事故で亡くなった日本人の少女が、別世界に転生して聖女となり、数々のイケメンを落として逆ハーレムを築くという王道ストーリー。そこにちょっぴり18禁内容が含まれるのが期待大である。
また、外伝if物語では隣国の王子と結びつくエピソードも収録されているという。
この隣国の王子がまた超絶イケメンで、本作メインヒーローよりも人気らしい。17歳普通女子も、かの王子のビジュアルに胸ときめかせていた。
そしてこの王子人気が高じて有名なサークルが二次創作でゲームを作ってしまった。
それが同人乙女ゲーム『ゴリラ令嬢の華麗なる王宮生活』である。
普通女子は小説を読むより先に、ゲームをDLした。こちらは18禁じゃないので、誕生日前でもプレイ可なのだ。
「はあ~やっぱりヒュミエール王子かっこよ。ゴリラな私でも愛してくれるとか神かよ」
普通女子は溜息をつきながら通学路を帰る。歩きスマホで。
あと少しで18歳の誕生日。誕生日には予約しておいた原作小説の電子版がアプリに届く。誕生日が待ち遠しい。
その前に、ゴリラ令嬢とかふざけたキャラが主人公だけど胸ときめくヒュミエール王子がヒーローの同人ゲームを、全クリしようと夢中だった。
これまでに99巡回している。記念すべき100巡目を始めようとしたところ。
二車線道路の横断歩道に差し掛かる。見通しは悪くないはずなのに、一台のトラックが猛スピードで突っ込んできた。
歩きスマホ普通女子は、あっさり跳ねられた。




