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公爵令嬢、暴露だぜ

 おはよう。新しい朝だ。


 昨夜のヒュミエール殿下は随分と呑んで、明け方に帰宅したらしい。

 朝食中の今も、「あー、うー、アルコールハラスメントゴリラアルハラゴリゴリスめえ」と、謎の呪文を唱えている。


「キリアネットちゃんの神々しさが目に染みる……嗚呼、この世はふつくしい……」


 拝み出した。さすがに心配だぜ。


「ヒュミエール様、昨日のことでお疲れのようですから、本日は休まれた方が」


「あー、それがねー、今日はミラリスが来るんだー」


 ん? 女の名前が出たぞ。


「ご令嬢、ですの?」


「うん、そう。ヴェルソードの婚約者だよ。キリアネットちゃんは会ったことないの?」


 不肖のお兄様の婚約者、だと?

 知らんな。

 それより俺の中のキリアネットが、「ムキィィィどこの雌馬ですのミラリスってええ」荒ぶっている。

 どうどう、落ち着け。ただの兄の婚約者だ。義姉になる人だぞ。


「残念ながら、お顔を拝見したことも御座いません」


 大叔母からの紹介も無かったしな。

 きっとまた大叔母にいびられてしまう対象だ。

 俺が隣国へ嫁ぐ前に何とかしてあげられると良いが……。

 て、今、ナチュラルに男へ嫁ぐ思考になっていた。

 しょうがないか。キリアネットは喜んでいるのだから。


「ほら、昨日の卒業パーティーにも居たよ。ヴェルソードの言い分をぶった切っていた」


 おお、あの眼鏡の令嬢か。

 あの子なら大叔母様に反論できそう。強そうだ。


「それでね、昨日のこともあって、ミラリス令嬢も交えて話をしたいんだ」


 急に真剣味を帯出した王子。さっきまで飲んだくれのようにぐでんぐでんのぐでたまだったのに。


 昨日のことと言うと……俺が転生者だと勘づかれた件か。

 帰りの馬車内は気まずくて、突っ込んだ話も出来なかったものな。

 でも、ミラリス令嬢も一緒に、とは?


「お兄様の婚約者様となれば、ご挨拶も吝かでは御座いませんが、私も交えてというのは」


「あ、ごめんね説明が足りてなかった。あのね、ミラリス令嬢は乙女ゲームを知っているんだ。だから昨日みたいな断罪が起きても冷静に処置できた。あれを知ってたから。前々から準備していたんだ。

 キリアネットちゃんも、日本のゲーム文化のこと、わかるよね?」


 とうとう確信を持って尋ねられてしまった。日本とか、もう、ね。

 俺としては、「はい」としか答えようがない。

 前世で男だった俺は乙女ゲームなんてプレイしたことないが、その存在は知っている。

 この世界は乙女ゲームの中だったのか……。

 全然気づかなかったぜ。ただのゴリラファンタジーの世界だと思ってたぜ。


「そうか。やっぱり、キリアネットちゃんもなんだね」


 周りに使用人たちが控えているから直接的な言葉は飲み込んでいるようだけど、それは遠回しに王子も転生者だと告げているようなものだぞ。


 実際、そうなのだろう。気づく要素は沢山あった。

 王子からの贈り物然り、王子の言動も。


「私は、最近なのです。思い出したのが遅くて……おそらく、まだ記憶が融合してない。私、おかしいですよね。ヒュミエール様に相応しくない」


「えええ、ちょと待、待って、キリアネットちゃん! それ以上は別の部屋で話そうか。幸いまだミラリス嬢が来るまで時間あるっ」


 焦り出した王子に誘われ、サロンまで。

 使用人たちには声の聞こえない範囲まで離れてもらい、仕切り直し。

 前世の記憶について話した。

 いざ話すと、これまであれこれと悩んでいた分、ぽろぽろとキリアネットの仮面が剥がれ落ちる。


「無理、なのです。俺、あ、私は……」


「……君の喋りやすい方で、いいよ」


 俺の中身が零れ落ちても、王子は受けとめてくれた。こんなに怪しい俺を。


「俺、男なんです。前世が、男で、大学行く途中で死んだと思う……」


 死因あやふや。転生現象を日本のカルチャーで予習していたとはいえ、女に生まれ変わったことで今世のキリアネットと記憶の乖離が激しい。

 キリアネットの記憶はある。俺の記憶もある。

 両方が混ざることなく、それぞれにあって苦しい。

 普段の言動はキリアネットが強いけど、思考の多くは前世の俺が出しゃばるから。だから、こんがらがる。やっぱり、苦しい。

 こんな自分は嫌だ。すごく気持ち悪い。中途半端なまま、結婚とかいう人生の大イベントに望まくてはいけないと思うと、キリアネットに申し訳ない。


 とにかく、思っていること全部を吐き出した。

 不安に思うことばかり吐露した気がする。

 ヒュミエール王子は口を挟まず、俺が喋れば喋る分だけ、黙って聴いてくれた。


 ありがたい。自分でも、支離滅裂だなって思うのに。

 話は前世と今世を行ったり来たり。

 果ては家族のこと。前世の家族をあまり覚えていない。常識的な家族だったと思う。

 反転、今世の家族仲は最悪だ。家庭崩壊しまくりだぜ。


「大叔母が、ヒュミエール様に頼めって。お兄様が廃嫡されそうだからって。俺に、いや、キリアネットにこれまで何してきたよ。頼み事できる立場かよ。貴族だからって浮気していいのかよ。親父も、大叔母も、非常識にも程がある……!」


 なんかもう愚痴だなこれ。キリアネットが王子からのプレゼントのぬいぐるみたちに吹き込んでいた愚痴にも似ている。

 やっぱ俺ら同じ人物なんだな。同じこと思うし、同じことやって。


「愚痴ばっか、ごめん。婚約者だからって、俺みたいな気持ち悪いのに付き合わせて」


「それ、違うからね」


「んえ?」


「だから、気持ち悪いだとか、相応しくないだとか、そういう発言しないで。違うから。気持ち悪くないし、私にピッタリなんだから」


 んんん? これまで相槌を打ちつつ拝聴してくれていた王子が、主語飛ばして主張しだしたぞ。


「なぜなら私たち、同じだから。TS転生でしょ。私も前世が女で、今世は男なの」


 ………………ん? は、ああああ?!?!


「え、ええ、えええ? 女??」

「今は男だよ! ほら、ここ、触る」


 って、手ええええ握ってきたと思ったら下半身に誘導しやがった! んぎゃああ! 布越しだけど、前世の記憶で握ったことある感触うぅぅ懐かしいいいい!


「い、いや、いやいや、いやいやいやいや?! なんつーもん触らせるんだ、てめえ……!」


「くふふ。知ってる癖に」


「知ってるけど、知ってるけどォ!」


「はぁん、キリアネットちゃんったら、男のアレ知ってるなんて、おませさんだねえ。これは最早、結婚しかなくない? 初夜る? もう今夜、初夜っちゃう?!」


(けもの)の目ぇ、すんなああああぁぁぁぁ」


 やべえ。非常識な王子だとは薄々思っていた。

 初めて我が家に来た時にも、いきなり土下座したし。

 思えば、こいつの一人称「私」だ。畏まった言い方で男でも使うから珍しくはない……でも、少し女っぽいかも。喋り方も、思い返せばなよなよした印象を受ける。

 ううーん、優しげな王子様なら、それで良いとは思うけども……。


 元女だと聞かされれば、思い当たる節がチラホラ。

 今世男の馴染みっぷりすげえな。これだけ馴染んでいるということは、幼い頃から前世を受け入れていたということでは?


「もしかして、転生に気づいたの俺より早い?」


「気づいちゃったか。生まれ変わったら赤ちゃんでした! ばぶう! ちゃー! はぁい?」


 イクラちゃぁーーんんんん!

 それイクラちゃんの口癖やんけ。その3単語で全ての会話を成り立たせる恐るべき幼児のコミュ(りょく)よ!


「深く考えるな。前世、私は女で、君は男。これはもう済んだこと。

 生まれ変わって今世、この体はムキムキの男で、キリアネットちゃんはダイナマイトボディな美女。私の凸が君の凹にピットインすればそれすなわち結婚だ。それだけのことだよ」


「んなわけねえだろ。メンタルが大変だわ」


あと、ちょっと古めかしい外来語を使うな。脳内で意味を変換するのに頭使うわ。


「んもー男と女なのに変わりないじゃん。メンタルも逆だけど男と女。問題なし」


 うううう、強引な論法で上手く丸め込まれている気がする。

 そんでもって、いつまで卑猥なもん握らせてんだこの王子ぃ! セクハラ野郎……ん? 痴女か?

 もぉ、わからん。

 頭ぐらぐら煮えてきた。

 俺は、このまま、こいつの口車に乗ってしまう、のか……!?


 というところで、


「殿下、お嬢様、お客様がお見えになりました」


 ゴリンダが来客を告げた。


 助かったぞ、ゴリンダ。

 黒毛剛毛のゴリラがゴリ愛しく見えてきた。ゴリ大好き。最早ゴリラが形容詞になるほど。

更新ゴリ遅くてすみません。

続きが気になったらブクマして完結したら一気読みしてついでにイイネしていただけると嬉しおす。


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