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公爵令嬢、危機一髪だぜ

 階下のざまあ茶番劇に区切りが着いた頃、ヒュミエール王子が祝辞を再開。


 そうだよな。祝辞を述べに来たんだもんな。

 途中で乱入したチャラ男とギャルの断罪劇は、とんだ茶番だった。

 喜劇としては面白かったぞ。次の公演いつですか?


 気づいたら国王陛下まで登場。

 チャラ男に「お前はビリンダム牢獄行きだ」と、地獄の片道切符を渡していた。


 ビリンダムとは、王族貴人を幽閉する時に使われる城塞があるところだ。その城塞に閉じ込められたら一生出れないらしいから、牢獄なんて呼ばれているそうで、この国で最古の牢獄なんだとか。


 以上、キリアネットの愛読書『世界の牢獄集』から知識引用。

 ……なんつーもん読んでんだキリアネットよ。美少女の愛読書はせめて詩集であって欲しかった。


「はええええ?! なぜ俺があ?!」

「ちょっとぉ、あんた、王子じゃなくなるのぉ? マジありえないんですけどぉ」


「聖女を詐称するそこな生き物よ、お前もマチンダ牢『審判のダンジョン』最下層へ投獄する。そこで刑が確定するまで反省して過ごすがよい」


 あらら、自称聖女はマチンダ行きか。

 マチンダの街には『審判のダンジョン』という神に連なる者が創ったとされる巨大なダンジョンがあって、牢屋になっている。下層に行くに連れ凶悪な犯罪者が収容されているそうで、最下層には国家転覆の罪を犯した者が一時勾留されるとか。

 つまり、死刑確定者専用留置所だ。

 噂によると、そこに収監しておけば神に連なる者が犯罪者を管理、審判を下してくれるらしく、どんな凶悪な犯罪者も神裁きの前では赤子同然になるとか。

 いまいち意味がわからないけど何だか凄いというのは分かる。裁きに迷った時はダンジョン産の神罰に任せておけば良いってことだ。

 これらもキリアネットの愛読書より知識抜粋。

 ……だから、美少女の愛読書にしては個性的なんだってばよ。


「なぁに、ゆっちゃってんのぉ、あのオジサン。あたしを処刑なんて、できるわけないじゃん」


 自称聖女の周囲が歪んだ。

 何か、強烈な力が発せられたようで、それに当てられた生徒たちがナイフを、またはフォークやスプーンまで武器にして構えだす。

 あれは……洗脳されてる、のか?

 操られ自意識を失った人々が、階下パーティー会場にいるモブ紳士淑女の皆様へと、襲いかかった。


「うわああ」

「きゃああああ」


 の、阿鼻叫喚。


「いけない! キリアネットちゃん、私の傍にっ」


 巨大な魔法陣が目の前に現れた。その魔法陣から出てきたのは大きな盾だ。

 ヒュミエール王子が一瞬にして構築したものだ。


 俺は王子に抱き寄せられ、その大盾に隠れる。と同時に、敵の刃が盾へと直撃した。

 ジュッと、焼けた鉄に水をかけたような音が響き、フォークの刃が消失。

 この盾すごっ!

 見た目、初心者マークみたいな形した普通の盾なんだけどな。素材が凄いのかもしれん。フォークなどというカトラリーごとき通さぬという意志を感じる。


「聖女を最優先で拘束! 暴徒を鎮圧せよ!」


 ヒュミエール王子の命令する声を聞く。

 誰に命じているのか気になって、盾の向こうへ視線をやれば、1階の会場あちこちから刀を持った鎧姿の侍たちが駆けつけ、聖女を取り押さえたところだった。

 あれは……トリマッカローニ製の兵士たちなのだろうか?

 プレゼントでもらった王子等身大人形にそっくりなんだけども……。


 他の暴徒たちやチャラ男とその下僕たちも、侍に武器を折られ、関節を決められ、あえなく御用となったようで……。


 どゆこと? あれなに?

 呆然と王子を見やる。説明はよ。


「怪我は無いね、キリアネットちゃん」

「え、あ、ええ……はい、殿下も、ご無事なようで何よりです。あの、武者鎧の侍たちは人形ですか?」

「そうだよ――――て、今、武者って……侍って……日本語……キリアネットちゃん、まさか――――」


 はっ、やべ。転生者だってバレてもうた。

 バレたら……ん? なんかマズイことあったっけ?

 むしろ言ってしまった方が結婚を回避できたりしちゃったりしないだろうか……。


 と、新たな悩みを考え出したところで、


「ホォウウウウッホーオォ!」


 見知らぬゴリラの雄叫びが聞こえた。


「危ないウホッ!」


 王へ向かった残党がゴリラのワンパンでのされる。

 聖女が拘束されながらも最後の力を振り絞って暴徒を王へとけしかけたようだ。

 更にキツくお縄にされている聖女。目隠しと猿轡までされたので、もう反撃はできないと思う。


「ここはお下がりください陛下」

「うむ、学園長か。良きに計らえ」


 ゴリラは学園長だった件。

 スーツ着て徒手空拳を使うゴリラか……斬新だな。


 ゴリラは陛下と王妃たちを守りながら撤退して行く。

 周りにいた偉い人たちも襲われる前に逃げたようで、辺りに人は居なかった。


 ヒュミエール王子は、人形兵士たちに拘束した暴徒たちを警備士たちと一緒に運ぶよう指示を出してから、俺の方へ来た。


「私たちも帰ろうか、キリアネットちゃん」


 困ったような苦笑いの王子殿下。

 俺、どんな顔したらいいか分からない。キリアネットのことだから表情筋は固定されているだろうけど、もしかしたら眉尻だけは下がって、王子と似たような顔をしていたかもしれない。


 王子が差し出してくれた腕に縋り付くようにしながら、会場を出た。


 お互い無言のまま歩き、無言で馬車に乗る。

 ステップに足をかける時だけ、「段差に気をつけてね」って声掛けてくれたのは、王子殿下がパーフェクト紳士だからに他ならない。

 他にも、進行方向を背に座ってくれたり、ショールと膝掛けを貸してくれたりと、実に甲斐甲斐しい。


 だいぶ進んで、公爵邸が見えてきたところで王子が言った。


「ちょっと混乱してるんだけど……私たち、話し合わないといけないこと、あるよね?」


 その通りだなと思ったので、頷く。


 俺は、ヒュミエール王子も転生者だと思っている。

 王子も、今回の俺のうっかり発言で疑念に思ったのだろう。

 キリアネットも転生者だって……。


 話し合おうとは思うけど、気まずくて、お互いに何も言い出せないまま、公爵邸に着いた。

 屋敷に入るなり、「お嬢様ぁぁ襲撃を受けたってええああさぞかしお辛い目にぃぃ」ゴリラの突撃を食らう。


「だ、だい、大丈夫だから、ゴリンダ、おち、落ち着いて……っ!」


 ぎゅうぎゅう抱き締められたのでコルセットの締めつけも相まって苦しさ百倍あんぴゃんまぁん!


「あああお嬢様のお顔が真っ青にぃ! さぞかし、さぞかし、怖い目に遭ったのですねええええ」


 いや、お前が俺を絞めたからだろうと、陸に上がった魚の如しパクパク口を紡いでいたら、「あの研究バカ王子めが、ちゃんとお嬢様を守らないからああ!!」と、なぜか王子に飛び火して怒れるゴリラは去って行った。

 きっとヒュミエール王子を絞めに行ったのだろう。

 すまぬ殿下、同じ目に遭ってくれ……。


 堅苦しいドレスをモブメイドさんたちに脱がせてもらい、化粧も落としてもらい、本日2回目のジャグジーだ。

 やっぱ風呂がいちばん落ち着くなあ。あふ~。


 風呂から出たら王子が居たんだが。


「殿下……」


「ち、違うんだ。風呂を覗きに来た変態仮面とかじゃないんだ。ゴリラに追われてここに逃げてきただけで、お風呂上がりのキリアネットちゃん良い匂い……じゃなくて、少しはラッキースケベないかなって期待してはいたけど、あ、嘘、いや本当に、私はただの人畜無害な通りすがりの王子です」


 言い訳が見苦しい。


 要するに、女体が見たいということだな。

 こいつの中身は助平親父なのだろうか?


 小柴でなよなよしかった印象が薄れていく。

 卒パ会場での毅然とした振る舞いも、キリアネットを気遣うジェントルマンも、すべて変態紳士の所業に変換されてしまったのだが。

 せっかくの好印象が……残念だ。


「キリアネットちゃん、私が言うのもなんだけど、キャーとか悲鳴上げなくて、いいの? のび太さんのエッチ不潔よ! ぐらい罵ってくれても構わないんだけど」


 罵って欲しいのだろうかこいつは。

 それにまた、のび太ってさあ……。


 只今の姿だけど、バスローブ1枚ではある。

 確かに普通の乙女なら、恥ずかしさのあまり胸や股間を隠してしゃがみ込む場面かもしれない。しかし俺は男としての意識が強すぎて、たとえ上半身裸だったとしても、キャーなんぞ言わないだろう。


 ……なんか色々とすまんことした。

 色気のない対応で。


 それでも一応、「きゃあ殿下お戯れを。まだ婚前前ですのに、私を犯す気ね。薄い本のように薄い本のように」

 これくらい言っとこう。棒読みだけど。


 それから「くっ、殺せ……!」と悔しそうな顔しつつ、上目遣いに睨んでみた。


 殿下の顔がエロ親父みたいに歪んだ。

ウホーウ! ウホッウホホッ!

(ゴリラもっと出ろと思ったら、いいねを押してみようか)

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