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少年期-8 裏切の志願 

 更新遅れて申し訳ない。家庭の事情で期間が取れず間に合わなかった…


 そのことも含めて次回から日清戦争編に移行します。前作踏襲の部分があるのでペース通りの更新ができると思います。よろしくお願いします。

 1894年 1月頭 田中義三

「本当に行くのか。兄が悲しむぞ。」

 速水が悲しく・残念そうな顔をしている。

「兄貴が死んで自分だけ生き残ったら私は後悔する。私にとって唯一無二の家族です。」

 田中義三はそういうと歩き出す。あまりにも静かな門出だった。

「弟にしたかったな。奴なら」

「嫉妬はしないのか?」

「まあ、私が教えていたとはいえ大学出ている私と同格ではね。本当にもったいないことです。」

「そうだな」

 その直後、若手が叫ぶ。それにつられて周りも叫ぶ。皆生きて帰ってくることを望む叫びだ。

「兄貴とともに生きて帰ってきます。」

 田中義三は敬礼の真似事をしてその場を去っていった。


 広島 第5師団 歩兵第21連隊

 田中義三は陸軍に志願した。17歳は兵役に参加できる最低年齢である。

「志願で陸軍に来るのは珍しいな。」

 自己紹介を受けての古参兵の発言である。若年志願兵の多くが海軍を選ぶ中、陸軍を選ぶ人間は少ない。

 故に陸軍兵のほとんどが徴兵だった。

「戦争間際です。唯一の家族である兄だけを死地に送るわけにはいきません。」

 志願の理由に戦争間際など、将来戦争が起きかねない状況であることを上げる人間はほとんどいない。そのことを問うと

「海軍で清国との戦争に反対していた将軍が追い出されている。国の上層部は開戦を決めたんだ…清国との戦争じゃあ、兵役経験なしの兵士も戦場に送られるかもしれない。銃の打ち方も知らないで戦場送りにされるより志願したほうがマシだ…」

 その眼は苦悩に歪んでいた。

 この当時の一般論『清国(艦隊)の脅威』を知っている人間としての演技だ。

「兄は海軍なのか?」

 古参は兄について知らない。陸軍にいないということは海軍。そこに気が付いた古参が声をかける。

「ハイ。私も海軍という手がありますが、どちらかだけでも生き残るには私が陸軍に入るという選択肢を取りました。」

「なら志願しない方がよかったのではないか?」

「…兄は海軍で働く給金をほとんど使わずに私に渡してきた…師範学校に行けと。古参殿…そうやって兄を犠牲にして生きる…私にはそのような生き方はできません!!」


 同年3月末 連隊長閲兵式

「ようやく酒保の解禁だ」

「おいらは外に出られることがうれしいや。」

 初年兵は喜んでいる。兵役開始3カ月(のちに4カ月半)の初等教育である第1期は外出禁止+酒保(営内の売店) という制限があった。

 だがそれも第1期最後の連隊長閲兵式が終わればそれは解禁だ。

 そしてこの閲兵式前後が兵士の出世に大きく影響する行事がある。上等兵候補者の発表である。

 のちの世には上等兵候補者のうち6割が上等兵になれるがこの当時はほとんどの者が期間に差異あれど上等兵にはなれた。

 ただし、上等兵に除隊と同時に任命される人間も多かった。そして優秀なものは下士官である伍長になれる。この当時、陸軍教導団という組織で下士官を育成していたが兵卒上がりの下士官の場合はたたき上げの部類に入る、

 なお教導団から士官学校に行く人間もおりこちらも士官の中ではたたき上げ扱いであろう。

「田中義三 二等卒」

 呼ばれた。どうやら選抜に合格したようだ。だがそれは苦行の始まりだ。上等兵候補者は他の兵士よりも厳しい訓練が待っていたからだ


 だが彼が最も喜んだ理由は別にある。ほぼ3カ月兵隊になるため世俗を廃する。すなわち新聞を読むことすら許されていない(ただし上官に願い出て兄からの手紙だけは受け取っていた。) 環境であった。ゆえに彼はすぐに上官や司令部などを伝に数か月分の新聞を手に入れ読みふけることになった。


「まずいな…これで日本政府は清国・朝鮮との戦争を覚悟せざるを得ないな…自力での近代化はあり得ない…」

「どうした?」

 語りかけるは雲の上の士官。驚きと説明をするとすぐに彼はその場を離れる


 のちに語る上官

「通常、上等兵候補に選ばれると喜ぶんですがね、あいつはそれよりも新聞を読めることを喜んでいましてな面白い奴ですよ。その先の予想もね。」

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― 新着の感想 ―
[一言] 貧困や困窮以外の理由で最小年限で陸軍に兵卒として志願する人間は本当に稀だし、中隊の古兵(一等卒や上等兵)も目を掛けたでしょうね 士官になって直ぐの少尉なんかは、徴兵された兵卒は同年代だけど田…
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