日清戦争 -42 逃げ上手
防護巡洋艦『吉野』
「逃がすな!!追撃する」
最終的に…清国艦隊は『定遠』『鎮遠』を除き、『済遠』を含め巡洋艦5隻。逃走にかかっている。
なお水雷艇はすでに魚雷を打ち尽くし、戦力価値はないので退避している。
「散り散りになって…逃げてゆく…これでは…捉えられない…」
防護巡洋艦『浪速』
「1隻でも多く仕留めてください…できれば全艦。そうでないと正規の軍艦による通商破壊が発生します。」
状況を見て田中は叫ぶ。もう周りはそれを見て見ないふりをする。田中は水兵のくせに口を出しすぎている。
「経遠級および致遠級各1隻進路を北東に変更!!」
見張りが叫んでいる。ほかの船(『済遠』、経遠級1隻、『広甲』の3隻)は北西に進路を変えながら逃げている。
「攻撃を継続。坪井司令に隊の2分を提案する旨の信号を。後ろの2隻に追従の信号を」
だが東郷はその返答に対し、一切の返答をしないが、適切かと思われる対処をする。それに同意の信号が『浪速』が回答してから見える。
史実では1隻づつつぶすために4隻での攻撃をしていたがこの世界では3隻1組での攻撃を2組用意したことになる。
「経遠級が沈みつつあるぞ!! 次は致遠級だ!!」
その結果は明確に出た。史実では黄海海戦では1隻しか沈まなかった経遠級 それが2隻目も水面に消えゆく。
歴史とは皮肉なもので2隻目も日清戦争中に戦没しているが、このタイミングではなかった。
致遠級も同様に2隻中1隻が黄海海戦を生き抜くも、日清戦争中に損失している。
「致遠級を撃沈する。砲撃を集中せよ。」
「北洋艦隊の中では瞬足艦だ!!逃がすな!!」
砲雷長と航海長が部下に命じる声が響いていた。
『済遠』
「海戦になった時点で清国は負けである。」
『済遠』艦長の方伯謙は常に語っていた。周りからは敗北主義者といわれることもあった。彼は常に艦隊を保全し続ければ祖国を守れると信じていた。
そしてそれは正しい。鉄道の無い時代、陸上の行軍速度は船舶の輸送速度に圧倒的に劣る。
日清戦争では前線にまともに使える清国内の部隊をかき集めて対処しており、後方は手薄。
この中で艦隊を失えば前線の精鋭は日本軍に拘束されている中、後方に日本の予備兵力が上陸、最悪首都北京が落とされる。
「定遠級の不沈能力を信じる。それは結構だが、定遠以外は沈む。艦艇の補充能力が皆無な清国にとってそれは避けねばならない…」
故に逃げる。一時の恥を忍んででも。
「『吉野』他2隻が接近してきます。後列3隻は進路を東に取った2隻を追撃しました」
(2隻は救えない…足の速い『靖遠(致遠級2番艦)』を失うのは痛いが、残りの…)
「『経遠』進路定まりません…」
数十分前から日本艦隊の砲撃にさらされていた『経遠』の傾斜は激しくなり、進路を維持できなくなる。
「沈みます…」
(残りは『広甲』だけ…生き残れるか…)
「水深の浅い海域に進み、追撃を振り切れ。地の利は我にあり。」
(坪井は確か自艦を座礁させたことがある…速力を落としてくれればいいが。)
防護巡洋艦『吉野』
その時、第1遊撃隊旗艦『吉野』ではことが起きていた。
「後列『浪速』が本隊からの信号を経由してきました。追撃中止命令です。」
2隻を撃沈、追撃に遅れて参加してきた関係で本隊と第1遊撃隊前衛との中間あたりにいた『浪速』からの命令伝達であった。
「後列の3隻は回頭しました。回頭理由を尋ねたところの返事です。」
「命令では仕方がない…本隊と合流する。」
なぜ追撃中止命令が出たか。若干時間をさかのぼる必要があった
作中、艦名が書かれていない船は戦史上でも日本側による混同が激しい船です。




