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日清戦争 -36 幸運な艦

 比叡

「敵艦接近してきます!!」

迫る清国艦艇。彼らは超近接戦闘を望んでいた。

彼らは十分な予算が清国政府から与えられているわけではなかった。軍艦の新造費用すら西太后に流用されるほど明らかに射撃訓練が不足していた

その状況で清国艦隊が取れる戦法は近接しての一撃に威力のある砲撃と艦首衝角とそれに伴う移乗戦闘。つまり近接戦闘。

日本側が単縦陣による中距離における速射砲による砲戦を目的としていた。

 日本側の優位な間合いを維持することが勝利条件の一つだった。

 しかし、伊東中将の本隊はその間合いを維持する努力を怠った。第1遊撃隊とほぼ同一の位置を航行したのだ。単純に考えなしに第1遊撃隊に付き従ったともいえるかもしれない。

 さらには伊東中将率いる本隊の単縦陣への理解、練度不足という一面もあるだろう。


「どうするかな…右か左か。」

このままいけば清国艦隊は大きく空いた本隊の隊列3・4番艦の間に突入、分断される。最悪、清国艦隊左翼艦に衝角突撃を受け、撃沈されるだろう。

「左に逃げるか…だがそれは破滅の先延ばしでしかない!!」

 左に逃げれば致死性のある衝角攻撃を受けぬだろう。だが、最大でも13ノットしか出ぬ3隻では清国艦隊に追いつかれて捕殺されるだけだ。撃沈までの時間稼ぎでしかない。

「右に…舵を切る…これは逃げるんじゃない…敵陣に突っ込むことになる。自殺行為だ!!」

 戦場では判断できぬ指揮官は誰もその判断に従わなくなる。正誤問わず判断することが指揮官の役割だ。

「清国艦隊接近!!」

 悩んでいるうちに状況が悪化する。それが苦戦というものだ。

「不関旗を揚げよ。とり舵!!清国艦隊に突撃をかける!!」

 その命令は事実上死を意味した。

「艦長!!」

 恐怖でゆがんだ顔と声がする

「5番艦『金剛』の有馬艦長ならわかってくれる。あの人は旗艦の艦長だ。私よりも正しい判断もできるだろう。仮にも旗艦の艦長だからな。」


吉野

「馬鹿者が単縦陣は距離が重要と言っておいたのに何でそのままついてくるんじゃ。本隊は遅れてもいいから大回りしないと行けないだろうが!!」

「しかし、坪井司令。3艦の救援に行かぬわけにはいかぬのです!!これは事前の取り決め通りです。」

「左舷方向から敵艦接近を確認。『西京丸』の周囲に水柱が飛びます。」

「面舵一杯。左180度回頭。『西京丸』をかばいつつ、3艦の救援に向かう。」

「間に合いますか…」

「間に合うまい…」

「『比叡』取り舵敵艦隊に突入してゆきます!!」

「なんだと!!」


 金剛

「『比叡』不関旗!!取り舵!!」

 目の前の船の動きは見れば変わる

「馬鹿野郎!!面舵!!『比叡』周囲の船を打ち続けろ!!」


 比叡

「撃って撃って撃ちまくれ!!ひきつけるんだ!!」

「周りは敵だらけだ!!撃てば当たるぞ!!」

 だが、『比叡』の砲弾が当たるということは清国の砲弾も当たるということだ。

 だが当たらぬものもあった。衝角攻撃と魚雷だ。水線下を破るこれらの攻撃は致命的だった。

「抜けたぞ!!」

 『比叡』は清国艦隊の横陣を突破。清国艦の設計は後方への射撃が難しい構造をしている関係で後方に抜けた時点でそれなりの安全は確保される。

 だが、『比叡』の損害はひどかった。


 西京丸

「『比叡』が敵中突破、『金剛』『扶桑』が回避行動をとった影響で手が空いた敵艦が迫ってくるぞ!!」

 『西京丸』は史実以上の窮地にある。史実では『比叡』がかわし、『赤城』が大損害を受けて哲多敷いたのちに大損害を受けた『西京丸』は『赤城』の存在がないがために史実よりも早く窮地に陥った。これは遊撃隊と本隊の速度差の関係で、遊撃隊と本隊の間に孤立した『西京丸』が目立ったためである。

 戦術的には遊撃隊と本隊の分断を図るために突入してきたと言える状況だった。

「操舵手負傷!!操舵蒸気パイプ破損。操舵不能!!」

「艦が取り舵を取るぞ!!舵を予備の手動機構を動かせ!!蒸気パイプの修理を急げ!!」

 操舵手が負傷した際に取り舵をとるように倒れた。その次の着弾が操舵用の蒸気を送るパイプを破壊する史実以上(史実では操舵手の負傷はなかった)の不運。だがその不運自体は珍しいものではない。日露戦争の黄海海戦ではロシア旅順艦隊旗艦『ツェサレヴィッチ』が操舵手負傷による異常行動で艦隊が混乱敗戦している。なお、『ツェサレヴィッチ』はその異常行動で艦隊から離れた関係で旅順に帰還できず、ドイツ領青島に入港、戦中抑留されたが旅順艦隊の壊滅に巻き込まれずにたった1隻生き残った船となったのだ。

「艦長!!このままでは第1遊撃隊の隊列内に突入…衝突します!!」


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