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日清戦争 -33 命令違反

 第1遊撃隊 旗艦 吉野

「遊撃隊の艦列を詰めさせろ。」

 第1遊撃隊は坪井少将の元、鍛錬を続けてきた。故に正確無比な単縦陣での戦闘が可能だった。

 だが問題は5.6番艦。5番艦『和泉』は開戦時、編入直後の訓練中だった船。6番艦『千代田』は元本隊所属艦。第1遊撃隊としての連携訓練は不足していた。結果は上空・横から見れば一目瞭然4番艦以降は艦列が開いていた。

 しかし坪井司令はそれが把握できていない。単縦陣の弱点として、味方艦が死角を作り、相互の確認が不十分になりやすい。今回はそれが顕著に出た。

 だがこれは戦術に大きな影響はない。この練度不足は予想されたものであるからだ。


 だがその先の坪井の行動は問題だった。

第1遊撃隊に取り舵 (進行方向左側へ進路変更する) をした。ここに混乱する状況を生んだ。


清国艦隊の主力は頂点を西南西に向けた「へ」の字状に横に並べた単横陣を敷く。そしてその北側に装甲巡洋艦1・防護巡洋艦1・水雷艇2隻の別動隊がこちらも横陣で布陣している。この時点では距離があり煙しか見えなかったが。

横陣戦術は日本側にとって予想されたものである。

 清国艦隊の所属艦の多くが正面への火力投射能力を重視している設計をしていることが外観からもわかり、さらに30年前に行われたリッサ開戦による戦訓もあり、横陣形で開戦することが予想されていたためである。

 日本艦隊は清国との戦争に備えて艦隊演習を繰り返しており、その中で戦術実験も繰り返された。その際の戦訓である単縦陣を基本戦術とした艦隊の整備を行った。


 日本艦隊総司令官伊東中将は清国艦隊左翼をたたくように信号旗を上げた。正しくは「右の敵を叩け」という信号だったがこれを「右翼を叩け」という意味に誤解した。命令違反だと言われてもおかしくない。

 だが状況証拠はこの命令違反を否定する。史実において『赤城』、『西京丸』が清国艦隊右翼を叩く際に邪魔にならない左舷側を非戦闘面として展開していたために、開戦時点から清国艦隊右翼を叩くことにしていた可能性もある。この世界では『赤城』こそいないが、『西京丸』が非戦闘側の左舷に展開している。

しかし、この行為には問題があった。これは南西方向から来る日本艦隊に敵艦隊正面を横切らせる行為である。

 正面への火力投射能力を重視している設計をしている清国艦隊にとって正面を横切る行為は『撃ってください』と言っているに等しい行為である。

「適当な距離で発砲せよ。我慢せよ。」

 危険な行為ではなかった。第1遊撃隊は十分な距離を開けて横切ることができたからだ。

 間合いに入っていないのに清国艦隊は砲撃を開始。外れ玉は大きな水柱を上げる。しかも、日本艦隊が取り舵を取り始める前から清国艦隊は乱雑な砲撃を加えていた。

「敵!!砲煙にて照準困難。」

 そして黒色火薬を使用する旧式砲が火を噴けば砲煙が立つ。この砲煙は風向き次第では砲煙が視界を遮る。この時、風は微風。清国艦隊右翼前方方向から流れていた。

 この場合、右翼艦を除き、視界不良で日本艦隊の動きを把握することは困難だった。

「面白いように外れていきます」

 その視界不良は日本艦隊のとり舵すらとらえていない。唯々、砲弾を海面にばらまく行為だった、

 

 松島

「第1遊撃隊加速します!!『西京丸』からの信号旗確認第1遊撃隊 14ノットへ加速!!」

 『西京丸』をはじめとする非戦闘側にいる船には通報艦という役割がある。単縦陣では後方の艦が影になることで旗艦の旗による命令伝達が伝わりにくいという弱点がある。これを解消するのが通報艦。

 先頭を走る旗艦と同じ旗を隊列から離れたところで上げることによって命令伝達するそれが通報艦の役割だ。これによって命令伝達は確実に向上する。

 だがその情報がよい情報かどうかは時と場合によりけりだ。

「坪井!!本隊のことを考えているのか!!」

 参謀が叫ぶ。

 この動きには問題がある。第1遊撃隊所属艦が最低でも18ノット以上出る だが本隊は1~3番艦が16ノット 4~6番艦は13ノットしか出ず、置いてゆかれることになる。

「第1遊撃隊が敵艦隊正面を間合いの外で横断できたとしても本隊が横断できる保証はありません!!」

その状況が生むのは接近しすぎた砲撃戦。照準修正射撃が不可能な射撃間隔が長い一撃が重い大口径砲の命中精度の向上だ

「続行せよ。」

 伊東艦隊司令長官の命令は第1遊撃隊への続行命令だった。

「司令!!」

「敵左翼を遊兵化する。敵右翼から潰せ!!風向きを考えろ!!」

 この時、風は微風。清国艦隊右翼前方方向から流れていた。もしも本体が左翼に回り込もうとすれば風下に回ることになる。そうなれば日本艦隊も砲煙によって照準困難な状況になりかねないのだ。

 だがこの行動に関しては問題があった。本隊は第1遊撃隊が通った航路をそのまま通過したのだ。

 清国艦隊は低速だったが、時間が経てば間合いは近くなる上に後方の3隻は低速。その若干の速度差でも、本隊の隊列は2つに分断されつつある。

 それを見逃す…清国艦隊ではなかった


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