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日清戦争 -31 作戦提案

1894年9月17日 AM10:40 浪速

「煤煙確認!!」

「見えとるよ。」

 日本国の連合艦隊は清国北洋艦隊主力を探し求めて決戦を挑まんと欲し、艦隊を遊弋させた。しかし開戦以来3か月。遭遇することはなかった。

 だが、日本艦隊が日本の輸送船団の護衛よりも艦隊の撃滅を優先し、清国艦隊の行動圏に進出した。そこでようやく清国艦隊との決戦を迎えた。

「敵艦隊との距離接近中。煤煙の本数が増えます。」

 見張りが叫ぶ。

「わかっておる。田中どう思う?」

 なぜか艦橋にいる士官よりも伝令兵である田中義二に艦長の東郷は問う

「決戦を挑む理由が2つ考えられると思います。本来、彼らの目的は艦隊保全。艦隊の存在で日本の海上輸送を妨害する行為です。これは決戦を主力艦の損失を避ける豊島沖海戦で逃げ切った『済遠』が代表例であると思います。」

 参戦していた『浪速』のメンツはある程度理解できた。豊島沖海戦で捕殺できたのは旧式艦と小型艦。輸送船も英船という釣り針につるされた餌だった。

日英開戦を誘導するための。ただ、東郷艦長の国際法の知識の影響で餌だけ食えたが。

「それがなぜここで決戦に挑まんと欲すか」

 ここまではすでに東郷と田中は私的な話し合いで統一していた見解である。

「はい。艦隊保全ならここで逃げの一手です。闇夜に紛れればほとんどの船をとり逃す。艦隊保全ならこれが最善手です。」

 東郷はその答えに首を縦に振る。そしてさらに問う。

「決戦を挑まねばならぬ理由があるということか。理由は考えられるか?」

 田中は少し考えた後、味方艦隊の内1隻を凝視しながら答える。

「いくつかあるかと。1つは後ろの声・現場の声が決戦を望み、感情面で決戦を挑まねばならぬ事」

 その視線と言葉の意味をとらえられた艦橋のメンツは噴出すような笑いを浮かべる。

「われらも目の前の西京丸におられる海軍軍令部長 樺山資紀 中将が決戦を望んでおられるな。」

 それが答えだ。日本側にも決戦を望む人間がいる。日本はそれが連合艦隊司令長官より上役である軍令部長…本来は後方のデスクの上にいるべき人間が出張ってきている。

「もう一つは此処に清国艦隊が出張ってきた理由と関係があると思います。陸軍の輸送その護衛。これを守るためには戦わないといけないということです。」

 これは事実である。この時嘗て劉 銘伝が創り、この時点ではその甥 劉盛藻・劉盛休が指揮する銘字軍(総兵力4500名)の輸送が行われていた。動員輸送船5隻。豊島沖海戦での「高陞号」がおよそ1000名の兵士を運んでいたこと、総数4500名ということでほとんどの兵士が輸送されていると判断しても過言ではなかった

「その迎撃のために艦隊を出してくるということか。ならば敵が来る方向の先に…陸兵を満載した輸送船がいるということか。」

 状況は読めた。

「無論あちらも輸送艦の護衛を残しているでしょう。少数で当たらせるのは通常危険です。」

 この時、彼は通常という言葉を使った。これはそれ以外の状況がありえるということに他ならない。

「しかし、揚陸作業中・荷役中は動けない。まあ、ここは大孤山付近ですが同様でしょう。」

 荷役中の船など動けぬ的だ。

「なるほど…それに護衛中であっても輸送艦ごと逃げるという選択肢がある…それをとらぬことを考えれば輸送艦がいる確率は高いだろうな…」

 それは状況証拠も同じ結論を出している。

「問題は戦力です。日本艦隊は主力を除くと砲艦1,武装商船1隻程度の戦力です。とても輸送艦の護衛に手を出せる戦力ではないと思われます。」

 しかし、輸送船船団攻撃はできない。戦力不足だ。史実よりも2隻多い艦隊でもだ。その2隻は主力艦としてここで決戦すべき兵力なのだ。

「策はあるんだろ?」

 だが、それを覆すのが戦術家だ。特に…敵味方ともに位置を読める人間は。味方の存在をも計画に入れる。

「西京丸には最寄りの味方艦の位置まで全速力で走ってもらいます。出撃に間に合わなかった第2遊撃隊6隻が第2索敵点である小鹿島(黄海海戦が行われ海域にほど近い島)での合流を目標としていると思われます。彼らは主力決戦には足手まといですが、輸送船とその護衛相手ならば十分です。」

 黄海海戦に参加した日本艦隊は史実12隻、この世界では14隻だが、もう6隻海戦に参加できる可能性がある船がいた。

 出港時に置いてきた第2遊撃隊の6隻である。第1遊撃隊と違い、旧式艦ばかりで編成された部隊ではあるが、旧式艦の中でも比較的速力の早い艦を集めた編成である。

「砲艦赤城はどうする?」

 東郷も阿吽の呼吸だ。『西京丸』は元は民間船。船体のわりに軽く、足が速い。故に伝令役としては『西京丸』が選ばれるだろう。浮くのは足の遅い『赤城』だ。

「ここからすぐに決戦海域を迂回、輸送船を探してもらいます。見つければ信号弾で位置情報を。」

 正直、主力決戦には足手まといだ。なら戦う前に逃がすに限る。その際にも敵艦隊を迂回し、輸送艦をとらえればよしだ。

「『赤城』には荷が重くはないか?」

 問題はそれ。護衛戦力に負けかねない。1隻では心持たない。

「『赤城』仕事は敵を見つけることまでです。あとは第2遊撃隊の予想進路を計測し、合流。誘導するだけです。遠方から煤煙の位置を監視させるだけで十分です。煤煙だけでそちらに敵がいることの証明。特に西側に布陣して輸送船団の行動を阻害するだけでもいい。あとは『赤城』の判断次第です。このまま決戦に参加させるよりははるかにマシです。」

 田中は肩をすくめる。

「それに日本人の性質を考えますと、何もお役目抜きでの退避命令は従いにくいでしょう。なので形式的にもお役目を与えなければこのまま決戦についてくる可能性もあります。それは危険すぎます。」

 史実では『西京丸』の戦線参戦に伴い、お供した『赤城』はこの海戦で日本艦隊唯一、艦長が戦死する損害を受けた上に、死傷率は旗艦松島の次にひどい船になってしまうのだ。

「『西京丸』をどうやって小鹿島に向かわせる。最短だと、戦闘海域を突っ切ることになるぞ。」

 2隻の行動は決まったが、その先が問題だ。今の位置から見て小鹿島は戦闘海域の向こう側。ここに向かう最短経路は危険性が高い。

「非戦闘側に並走。敵艦隊後方に回り込んだ際に分離。それなら危険性低減と最短双方をとれます。それなら比較的安全に向こう側に行けます。」

 田中は紙を取り出す。それには同じく、紙でできたコマがある。それを床に並べて動かす。敵艦隊の戦闘陣形は戦訓と艦の設計から参謀たちの予想の反中だった。その中で駒を動かし、周りが理解する。

「うん。『浪速』を単縦陣から外せ。左舷にずらして視界を確保しろ。発火信号もしくは手旗信号で旗艦『松島』及び遊撃隊旗艦『吉野』・『西京丸』に意見具申する。」


 第1遊撃隊 旗艦 『吉野』

「坪井司令。また『浪速』が隊列を乱しています。」

 参謀の一人が浪速の異常行動に気が付く。

「豊島沖でも冷静な判断だった東郷が理由なく隊列を乱すとは思えない。意図を確認してくれ。」


 旗艦 松島

「距離から見て1.5時間はかかりますね。」

「『西京丸』・『赤城』を左舷側に回せ。総員飯を食え。」


 西京丸

「旗艦『松島』より信号『赤城』と同じ左舷側に回れとのことです!!」

「俺たちも戦う!!ワシは伊東より偉いんだぞ。」

「本船は元は民間船の輸送船です戦えませんよ…」

「『浪速』から信号。意見具申とのことです。」


 和泉(遊撃隊5番艦)

「面白いこと考えるの。東郷艦長。いや懐刀か」

「本船取得の経緯もあります。噂では海軍兵学校へ入学できる年齢の若い水兵と聞きますが、ここまで判断できれば並みの士官以上の判断能力です。」


 吉野

「盤面だけでなく、盤外の動きを読み、盤外から殴り込みをかける…か。第2遊撃隊が出撃時点で間に合っていなかったことを利用するか。」

「第2遊撃隊が追いついていない可能性もあります。策を取り入れるのはまずいのではないでしょうか?」

「いや問題はない。本隊の決戦に影響はほぼない。あの猪のことだからついてきたがるのを戦域から遠ざけるに十分だ。」


 松島

「指揮命令系統を乱す樺山軍令部長を排除する効果だけでもやる価値はある。小官はそう思います。」

「わしも賛同する。坪井は?」

「賛同の信号が上がります」


 赤城

「乗員諸君に告げる。本艦は決戦に加わらない。しかし、彼らの守るお宝を攻撃する任務は我々のみが引き受けた。刺し違えてでもお宝を海の藻屑にしてやれ!!」


 西京丸

「決戦に足手まといです。輸送船相手なら我々も戦えます。」

「伊集院!!戦は気合ぞ!!」


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