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日清戦争 -26 平壌の戦3

 北東 朔寧支隊 司令部(移動先)

「立見少将閣下。お待ちしておりました。」

 田中義三は立見少将に敬礼する。

「田中君。気球部隊は戦う力はない。前進が早いの。死に急ぐな。」

 立見はぶっきらぼうにつぶやく。

「前線の歩兵たちよりは死に急いでおりません。それに後方にいては我々の支援行為は無力です。」

 言い訳を冗談交じりで返す。同時にこのまま歩兵に力攻めさせては損害が甚大になりかねないという意味での進言でもある。

「気球に後退の信号旗を掲げさせよ。この城塞に歩兵の突撃戦は無駄になる。」

 立見は言い訳を無視して敵陣を見てそう判断する。

「了解。射撃戦の旗も掲げさせます。」


 北東 清国軍 指揮官 左宝貴

「力攻めが止んで射撃戦に移行している」

 左宝貴が日本の戦闘を見てつぶやく。接近しての攻撃が一転。ある程度の距離を置いた地域から精密射撃する戦術に切り替わっている。

 日本側の銃撃は弾幕こそ清国軍よりも薄いが、命中率は段違い。兵器の質、兵数・地形を考慮しても日本側が善戦している。

 この当時の日本軍主力小銃は国産の後装式単発銃の村田銃である。一発撃つたびに一発銃弾を込めて射撃する代物である。

 しかし、この時の清国側は部隊間の武装の差異が大きいものの、精鋭部隊には一度に複数発の銃弾を装填できる新式外国製の小銃(主にGew88この時点ではライセンス生産の漢陽88式小銃は工場未稼働もしくは低率量産につきほどんどが外国製)や連射可能なガトリング砲を持つ部隊がおり、その精鋭部隊を指揮しているのが左宝貴だった。その数多の弾丸の雨と拮抗する日本軍の射撃。それを驚きとともに見る。と同時に頭にある考えが浮かぶ。

(なぜだ…現場判断ではない。全軍の統一した動き…指揮官命令だ…命令伝達速度を考慮して司令部からの命令では間に合わない…)

 しかし、その思考を轟音打ち切る。

「砲撃だ!!伏せろ!!」

 音源を見ると砲煙を見た。左宝貴が叫ぶ。

 砲弾は目標となった城壁に命中。外れ弾はない。

「砲兵、歩兵ともに見事な練度だ…特に歩兵は…奴らはどうしたらあんな自ら危険を冒すような戦い方ができる…清兵では無理じゃ…」


 朔寧支隊 司令部

「砲兵隊に射撃の中断を命じよ。元山支隊所属の砲兵隊の増援を待って砲撃を再開する。」

 立見少将が命じる。

「砲撃をやめるのですか⁉歩兵も射撃戦の命令が出たままです。積極攻勢をかけないでどうするのですか⁉」

 副官が叫ぶ。

「上に敵の撤退時の砲撃指示を行わせます。砲撃地点が動くかと思います。」

 気球隊から司令部の様子を見に来た田中義三がほぼ同時に声をかける。

「田中君はどう思う」

 返事の代わりに質問が飛ぶ。

「一人兵士が1分おきに100人斃れるのと100人の兵士が一瞬に倒れるとでは指揮官、兵士に与える印象が違う…と思います。」

「そうだ。それが予測できる指揮官であるならなおこのこと恐怖に感じるだろう…」


 北東 清国軍 指揮官 左宝貴

「砲撃が止んだ…。敵砲兵、歩兵ともに積極攻勢に出ていない…」

 敵情に意識を向ける。

「弾切れではない。次の攻勢のための準備だ…」

 目をつむり考える

「牡丹山陣地から兵を引かせろ。塹壕が作れないほど狭い陣地だ。これ以上牡丹山にいると兵士の損失が馬鹿にならん。」

「将軍!!それでは平壌北側のすべての外郭陣地を失いことになります」

 副官の叫び

「かまわない。日本軍の物資はそう長くはもたん。それまで耐えれば我々の勝ちなのだ。持久戦には兵力の温存をしなければならんのだ。」


 朔寧支隊 歩兵隊

「敵は連射できる小銃を持っているが、数発射撃すると、装填のために射撃を中止しなければならない。その間に接近せよ。砲兵隊の射撃開始が突撃の合図だ!!」


 朔寧支隊 砲兵隊

「元山支隊砲兵隊の射撃が攻撃開始の合図だ。一斉射撃ののちの射撃は射撃間隔をずらし、常に着弾している状況にせよ。敵に頭を上げさせるな!!

 歩兵隊が陣地に接近した場合、誤射を避けるために砲撃を中止。状況は目視と気球からの情報によって行う!!」


 清国軍 指揮官 左宝貴 

「敵の砲撃が来る前に退避しろ!!撤退が間に合わん場合は敵の砲弾が止んだ時に走れ!!奴らの砲撃は正確だ。だからこそ加害範囲は限定的だ!!」


 朔寧支隊 砲兵隊

 元山支隊の砲兵の砲音が響く

「撃テェ」

 その音と同時に一斉砲撃を行う。

 射程の関係から元山支隊からの砲撃が着弾した直後に着弾する。

「歩兵隊の様子を見て砲撃を中止する。継続射撃だ!!」


 気球

「逃げてゆく…」

 気球は2人乗り。操縦手である島津源蔵と無名の砲兵士官。砲兵士官が単眼鏡で敵情を見ながらつぶやいている。

「砲兵隊に撤退する敵兵に対する榴散弾を使用した射撃を要請。位置は…」


 朔寧支隊 司令部

「砲兵隊が勝手に砲撃を開始しました。」

「わかっとるこというな!!目標も数秒後にはわかる。」

 立見少将の目は敵陣を見据えている。

「着弾!!なんで牡丹山陣地裏なんかに着弾しているんだ⁉」

「どうやら牡丹山陣地を敵は放棄したようじゃ。砲兵が叩いたのは撤退中の兵士か…。気球の観測がなければできない芸当だな。だが危ういぞ…気球隊に後退命令を出せ!!」


 清国軍 指揮官 左宝貴

「撤退中の兵が榴散弾に打たれています。」

(敵陣からは見えんはずだ…見込みで撃っているのか⁉それにしては正確すぎる!!まさか!!)

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