日清戦争-18 敵は英船
若干時をさかのぼり 元2番艦『秋津洲』
「『広乙』座礁!!」
豊島沖海戦開戦時 日本艦隊旗艦『吉野』の真後、2番艦だった『秋津洲』は朝の海霧・砲煙によって敵を見失った。
『吉野』は『済遠』追撃のために進路を変更したために視界不良から解放されたが、旗艦『吉野』からの命令は小型防護巡洋艦『広乙』の攻撃だった。
『広乙』は『秋津洲』『浪速』の砲撃で炎上。擱座した。
喧嘩早い猪武者の毛がある艦長の上村彦之丞にとってはいい思いはしないだろう。
「すぐに『済遠』を追うぞ!!」
行動不能になった船などあとで沈めればいい。
『秋津洲』は『吉野』『浪速』に遅れて『済遠』を追う。
『浪速』
「清国小型艦反転。側面から見て敵は旧式砲艦『操向』の模様。輸送船は進路そのまま!!」
第2報が見張り台からなされる。
「輸送船を見捨てて逃げるのか!!」
士官が叫ぶが田中は冷静に伝声管に士官にも聞こえるほど大きな声で
「商船の国籍を確認してください。」
と頼む。士官がなぜかと問う
「普通の場合、輸送船を守る。守り切れずとも、自らに犠牲を出さねばならない。そうでないといろいろとまずい。人命はもちろん、守ってくれない以上、商船は軍の輸送を請け負ってもらえなくなります。それ以上の利点が清にはある。それが知りたい…知らなければならない。」
彼には前世記憶はない。だが、弟の義三であれば前世での有名作品で民間船を逃がすために犠牲になった巡航艦(航宙巡洋艦の略かな)を思い出すだろう。旧式砲艦であれ『操向』が輸送船を守るために玉砕すればプロパガンダにはなる。それ以上の利益がある。
「田中…この距離では見えんだろう」
誰の発言かわからないが魔法でもない限り旗など見えない距離で国籍を確認させようとする田中に周りはあきれ果てるのだった。
旗艦『吉野』
「2隻が定遠級でないのであれば『済遠』を逃がすな!!」
『吉野』に搭乗する坪井幸三少将は東洋一の堅艦を恐れて速力を落とした。これは愚策だろう。速力が最大の武器である日本艦隊に武器を捨てさせる行為である。
敵を見定めて逃げるだけなら速力を保ち、その速度のまま回頭して逃げ出すだろう。だが、速力を落としたということは『広乙』を撃破した『秋津洲』の合流を待ち、3隻で連携して戦うつもりだったのだろうが、戦力不足であることは否めない。無謀だ。
この判断は速力を落とさなかった『浪速』の判断が正しいだろう。勝てない相手とは戦わない。
吉野はすぐに速力の回復に努める。いずれは追いつく。だが、当時の蒸気エンジンはすぐには出力を上げることかなわない。
しばらく先頭は『浪速』だ。
『浪速』艦橋
「『済遠』白旗を上げました」
見張り台からの報告が入る。
「砲撃中…」
艦長が命じようとするが田中は持ち場を離れて駆け寄ってくると耳打ちする。
「艦長?」
艦長の目は耳打ちの最中も敵艦を見つめている。士官が聞くと、艦長は動揺を一切見せず言葉を紡ぐ。
「砲撃は継続。降伏は擬態だ。奴ら機関の火を落としておらん。減速しても打ち続けろ。煙突から黒煙が上がる限り打ち続けろ!!」
史実でもあった白旗を掲げながらの逃走。彼らには国際法というものは存在しない。国際法上、白旗を掲げたら機関停止の上捕獲されるのが常識だった。逃げている以上、白旗は認められない。
「『済遠』速力低下!!」
騙しきれないと判断したのかやがて『済遠』の速力が落ちる。だが煙突から黒煙が出ている以上、砲撃はやめない。
「機関そのまま…『済遠』の逃走方向に進出、『済遠』の逃走を阻止する。」
その判断は正しい。この時点の情報では
「輸送船!!国籍判明!! 英国商船旗を確認!! 繰り返す輸送船はイギリスの船だ!!」
高陞号事件の始まりである
銀河英雄伝説 グランドカナル事件ですね。あれ、グランドカナルも逃げ出していなかったら 守ってくれないから民間船は二度と傭船を受け入れてくれなくなると思います。というよりかグランドカナル以外逃げただけでも心証が悪すぎます。
ある意味プロパガンダで同盟軍は守るために奮戦したということを市民に植え付けてもしも今後、傭船を拒否した場合、世論からの圧力をかけてもらえるようにする意図があったのではないかと愚考します。
高陞号の場合、意図的に見捨てたのでプロパガンダ次第では深刻には災いになるような行為です。




