日清戦争-15 遺命と生
「古志大隊長…」
涙が止まらない。彼の死を伝えに来た兵士は同時に手紙を差し出してきた。
「難しき道を頼む…ですか…。卑怯ですよ…。自分は死に逃げて…言われればともにその難しき道を歩む道もあったのではないでしょうか…大隊長!!」
その中、軍医の一人が近づいてくる。小池といわれた軍医だ。
「田中一等卒。君の負傷具合を鑑みて君を後送する。」
それは決定事項だった。
「軍医殿それは!!」
とっさに起き上がるも痛みに顔をしかめる。
「君の体…戦えると思っているのか?足手まといだ。完治するまで待て。」
池田は厳格な顔で命じる。
「しかし。その間!!私はのうのうと生きろと!!」
彼の志願理由は多くの人間が知っていた。ゆえに自らのみが平穏に身をゆだねることをよしとしなかった。
「古志大隊長の遺命は我々も承知している。彼の推薦状がある。とりあえず陸軍士官学校の講義を聴講することが君には許されるだろうし、それができるよう私も口添えしよう。遺命を無下にはできん。」
古志は遺言状をしたためていた。その中には田中に関することもある
「大隊長…」
唖然とした表情…
「仁川に海軍の船が来る。それに搭乗して帰国する。ご遺体もな。」
そして役目がある。古志の遺体を祖国に連れ帰る役目は彼しかできなかった。
「軍医殿意見がございます。」
それを理解した田中はすぐに考えをめぐらす。
「なんだ?」
その様子…の変化に戸惑いながら聞く。
「朝鮮人を連れてゆきましょう。内地には情報を聞き出す餅屋もいることでしょう」
その話だけで理解できた。
「餅は餅屋にか。それに朝鮮での治療も限界があろう。上にこちらから具申しよう。」
その発言を聞くと田中は表情を変える。ぞっとするような顔だ。
「餅屋がいないが餅を搗いてみてもよろしいかと思います。素人の発想で面白い餅がつけるかもしれませんし。」
その発言に池田は察する。
「尋問を内地につくまでやるということだな。君がやりたいと?それはあまりよろしくないな。復讐心か?」
表情は笑み浮かべているだが目は笑っていない。
「いいえ。情報操作です。海の上です。どうとでもなる。」
田中の顔には周りの人間が怯えるほど暗い闇があった。
次からしばらく兄貴編。やはり海軍のほうが描写を書きやすいな。




