日清戦争-04 嘘の国2
第5師団隷下 混成第9旅団所属 先遣隊
反乱終了の報告についてはすぐに兵たちに伝わる。
「農民の反乱が治まったのにこれ以上いる必要があるんじゃろうか?」
一人の兵士がつぶやく。兵役中の志願兵だ。その場の気に中てられて志願したようだ。兵役中に戦争が起きれば真っ先に戦場送り。ならば兵役中を何とか乗り切れば戦死の可能性は大いに下がる。
「今日の戦を避けられても。また戦になる。朝鮮の近代化をしなければな。」
田中は状況を冷静に…そして乾いた目で見ていた。
「戦争になって真っ先に死ぬのは俺らなんだぞ!!」
若干年上の兵が怒鳴る。田中は周りを見る。
「次の戦争で死ぬのは誰か?俺らじゃなくて弟やガキどもそしてここにいる日本人だ。」
この時日本兵は日本人居住区の日本人宅に居候している。無論そこには子供もいる。
「しかし、反乱が終わった以上、帰らねばならんじゃろ」
少数なれど冷静な人間もいる。
「終わっていても再発する。奴らのことだ喉元過ぎればすぐにまた弾圧し、再び民衆は反乱する。近代化し、法治国家にならなければ支配者による恣意的な政治は続く…さらに列強の進出もある。もう時間がない。」
周りは静まり返る。言っていることの半分もわからなかっただろうが、今何とかしなければまた起きることだけはわかる。
「それに…今回の反乱は簡単に終わるわけがない。兵力差が反乱軍側に有利すぎる。朝鮮・清国軍は数千だけど反乱軍は万単位。しかも鹵獲武装だけで武装できる人数は清国軍を上回る…」
田中は自分の情報網から仕入れた情報を披露する。
「田中一等卒。その情報をどこから仕入れた?」
後ろから声がする。伊地知少佐ほか1名がいた。話を聞いていたようだ。
「はっ、自分の養父は広島で新聞社を経営する速水勝三であります。朝鮮改革に賛成する日本人にも通じています。そこから情報を手に入れています。」
「では朝鮮政府の反乱が終わったという情報は嘘ということかね?」
隣の中佐の階級章をつけた軍人がいるが、彼は考えるしぐさだけだ。聞いてくるのは伊地知少佐
「予想です。正直、私の情報よりも正確な情報網を国家は持っているはずでしょう?」
ある意味馬鹿にした発言をする。
「正しくは終わらせる理由が彼らにはない。反乱軍の主力は南にいます。兵力は数万~数十万大半の兵装は竹やりですが、鹵獲兵器・出所不明の小銃が合計で2000人分をはるかに超えます。清国軍は初動1000名、順次増兵中…しかも日本の改革賛成派から日本軍というある程度改革に賛同する勢力の援軍がいる…この現状で彼らに停戦する理由はありません。」
「だが、彼らは日本人を邪魔だと思っているはずだぞ?」
「毒を以て毒を制す。かれらに日本人は毒でしょうがそれ以上の猛毒が支配者層です。漁夫の利を狙ってくる…停戦はもう少し後でしょう。」
漢城日本国大使館 廊下。
「確かに有望な兵士です。士官教育に値しますね」
「はい福島中佐。福島中佐なら時間が無いという発言には大いに同意するでしょう?」
「そうだな…同意する。」
「私は陸軍が到着するまで彼らの面倒を見るだけです。帰りの船で本国に帰ることになるでしょう…よろしくお願いします。」




